表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷銀の魔女  作者:
75/78

8-2 偽りの拒絶

 国武院事件の後、負傷した和真は2日間の入院を余儀なくされた。幸い、週末であったため、学校を休むことは無かった。


 事件の影響は和真にとって、決して小さいものではなかった。


 人を、刃で傷つけた。


 急所は外した、殺したつもりはない。しかし━


 刀に付着した、生々しい鉄の臭い。


 肉を切り裂く感触。


 これらの感覚が、和真にこびりついていた。そのためか、数日間は肉類の食事を受け付けなかった。


 それよりも━


 あれ以降、ユリィとは話せていない。チャットを送っても返ってこない。それどころか、顔を合わせることすら、できていなかった。夜のトレーニングでも会っていない。


 国武院事件から1週間が経過したある日。


 和真はいつも通り教室に入り、席に座る。そのすぐ後にゆかりがやってきた。ゆかりは和真を見るとすぐに近づいてきた。


「……ずっと、あんな感じ?」


 ゆかりが心配そうに和真に問いかけた。


「うん……ゆかりさんのアドバイス通り、最初は1人にしてあげようと思って距離を取ってたけど、日に日に遠くなってる気がする……」


 和真には、お手上げだった。


━でも、諦めるわけにはいかない。


「僕は」


 和真は拳を強く握る。


「ユリィを、諦めたくない」


 和真はわずかに唇を震わせていた。


「ユリィと、全力で向き合いたい」


 さほど大きな声でもないはずなのに、教室に響いたような気がした。


「……ふふふっ」


 真剣な顔をしていたゆかりが、表情を緩ませて上品に笑い始めた。その様子に和真は「え?」と困惑する。


「和真って、ホントに真っ直ぐなんだね。純粋で、重くて……ユリィが、羨ましい」


「変、かな?」


「ううん、全然。和真なら、きっとできるよ」





 昼休み。


 そのベルが校内に響くと、和真は弁当も食べずに教室を飛び出した。


 もちろん、食堂や売店に駆け込む為ではない。


 和真より先に教室をすたこらと出て行ったユリィを追いかける。


━話し合いが、したい。


 気持ちと共に身体も走り出した。


 廊下の角を曲がってすぐに、ユリィがいた。いつもより歩行が速い。


「ユリィ!」


 和真が呼びかけると、ユリィは肩をビクッと震わせた。一度足を止めたが、振り向くこともなく再び歩き出した。


「待ってよ、ユリィ!話を━」


 速足で歩くユリィを呼び止めようとした。しかし━


「近づくな!」


 ユリィの怒鳴り声だった。拒絶。和真には涙交じりの叫びに聞こえた。


 体温が一気に下がるような感覚。


「ユリィ……」


 頭がうまく働かない。


「どうして……」


 それ以外に、言葉が出なかった。


「……かずまなんか、大っ嫌い」


 そう言い残し、ユリィは足早に去って行った。


 和真は、ただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。


 気付けば涙が廊下の床を穿っていた。





「やあ、ユリィ、よくきてくれた。ちょうど話し相手が欲しかったところだ」


 堂ノ上の低くも優しい声、しかしどこか硬い。


 しかし、ユリィのアメジストの瞳は揺らぐことはなかった。


「……研究所の場所、教えて、知っているんでしょ」


 いつもの透き通るような声だが、わずかに震えている。


 堂ノ上は表情を強張らせた。


「君がそれを知ったところで、どうするつもりかね」


 堂ノ上のその声に、優しさはない。しかし、ユリィは揺るがない。


「……エリスを、助ける」


 ユリィの声が、理事長室に響いた。窓のカーテンが少し靡いていた。


 堂ノ上は深呼吸し、口を開く。


「やめておいた方がいい。君にはこの学院で穏やかに生きる権利がある」


 ユリィの瞳は揺るがない。しかし、長い銀色の髪は揺らいでいた。


「それに彼女が生きていたとしても、正気であるという保証はない。もはや君の知っている彼女ではないかもしれない」


「……それでも」


 ユリィの決心は固い。


「1人でいくつもりか?」


「……元々そのつもりだから」


「何が君をそこまで駆り立てるのだ?」


「……」


「君の意志が固いことはわかった。尊重しよう。ただし、少し考えさせて欲しい━こちらでも手を打つ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ