7-1 車内の会話 疑わしき陰謀
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矢場内は答えた。
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此人は答えた。
交流会当日 朝7時半。
和真、ユリィ、ゆかり、兼孝、紅葉、そして矢場内此人、亀梨拓夢ことかめむし、運転手の高井景三の8人が南門に集合した。
国武院は東京都のハズレに位置する。暁星学院が存在する立川市からは乗用車で1時間もかからない。
移動手段は3列シートのバンである。運転席にはもちろん景三。助手席にはかめむし、2列目のシートには兼孝、此人、紅葉、3列目には和真、ユリィ、ゆかりが各々着席した。
景三がバンのエンジンを起動させると、慣れた手つきでシフトレバーを動かしつつ、バンを発進させた。
ゆかりは、和真とユリィが少し眠そうにしていることが気になっていた。
「2人とも、眠れてないの?」
「ちょっと、夢にうなされてて」
和真は作り笑顔で答えた。彼の傍には布袋に包まれた刀のようなものが立てられている。
「ユリィは?」
「……かずまの横、なぜか眠くなる……」
「奇遇だね、僕もだよ」
━くぅぅぅっ!これ見よがしにイチャつきよってっ!
ゆかりは苦笑した。
「おやおや、昨晩もお楽しみだったのかな?」
兼孝が後ろを向き、軽い調子で訊ねた。
「えっ!?あ、あんたたち、も、もうそういう関係だったの?」
兼孝の意味深な言い回しに、ゆかりは冷静さを欠いた。
「『お楽しみ』とか『そういう関係』の意味がわからないけど、昨夜もしてましたよ」
下品な言い回しを理解していないのか、平然と和真は言い放った。
━え?え?和真って意外と……。
「キミ達、ホントに熱心だよねぇ」
━熱心!?
「毎日夜中にトレーニングするなんてね」
「と、トレーニング?」
想定とは異なる内容に、ゆかりの声は裏返ってしまった。
「僕はバカのひとつ覚えみたいなものですから」
「……ゆかり、なんの話してたの?」
ユリィは隣のゆかりを見上げた。ユリィの純粋な瞳を見つめたせいで、邪な想像をしてしまった自分の頭が憎い。
「な、なんでもないから…っ!」
ゆかりは顔を赤くし、そっぽを向いた。
「まあ今のは貝塚の言い方が悪いわね」
「え?なんで?痛いから耳を引っ張るのはやめて!」
「みんな、仲良いわね。車内がお通夜ムードよりはマシだけどね」
ここまで資料のようなものを読んでいた此人が初めて口を開いた。
「矢場内さん何読んでんすか〜?」
兼孝は資料を覗きこんだ。
「国武院に関連する事件とか、団体とかをまとめたものよ」
此人は答えた。
「2年前に代表の八木沼重慶って人が原因不明の病で亡くなって代表が交代したのね」
「え!?そうなの!?」
1番良く知っているはずの和真がなぜか驚いていた。驚きのあまり、敬語を使うことを忘れてしまっている。
「なんで和真が分かってないの……」
和真の浮世離れは理解していたが、自分の所属していた学校のことすら知らなかったとは。ゆかりは苦い笑いをこぼした。
「今の代表が天野巌という人物ね。元は魔法省の官僚だったみたいね」
「天下りってやつ、政治屋のやることだね」
兼孝の声と表情には諦めのような本音が漂っていた。
「元々魔法省でも魔法を禁止すべきと主張していたみたいね。首相暗殺事件のような悲劇を繰り返さない為に、ってね」
首相暗殺事件。
当時の総理大臣が演説中に魔法による爆発で死亡した事件である。その事件は魔法犯罪として連日報道されていた。
その事件をきっかけに、魔法を規制すべきという世論が一気に広まった。その結果、反魔法主義政党である共和民主党が政権与党に成り上がった。
「何か陰謀の匂いがするよね〜、反魔法主義を掲げながら、ASFを使ってるんだよ?」
兼孝はニヤニヤしながら言った。
「確か、小渕さんのお父さんも反魔法主義だったわよね」
紅葉の言うことも反魔法主義の矛盾点である。
━反魔法主義の議員の娘が、なんで暁星学院に?
ゆかりの疑問は尤もであろう。
「それって…どういうことですか?」
和真は混乱しているようだった。
「ダブルスタンダード。自分はいいけど他人はダメ。政治屋のオハコだね」
ため息をつきながら兼孝は吐き捨てた。
「さらにかめむし君から面白い情報があってね━」
「あのーすみません」
「なあに和真君」
此人の解説を和真が遮った。
「かめむし…さんってみんな呼んでるんですけど、いいんですか?」
━それ私も思った。
それを聞いた助手席のかめむしがこちらを向いた。
「大丈夫だよ〜、このあだ名オレ結構気に入ってるから〜」
━なんでだよ。
ゆかりは心の中でつっこんだ。和真は何か言いたげな表情をしていた。
「気を取り直して、ここだけの話、共和民主党の左翼議員が、中革連の企業からお金を受け取っているらしいの」
此人は咳払いをした後、興味深そうに告げた。
「これはオレの推測だけど」
かめむしが補足する。
「おそらく彼らは、魔法技術を渡しているんだと思う。向こうも魔法研究所を構えてるから、その見返りに金を受け取っている疑惑がある」
かめむしの推測に、車内の人間は言葉を失った。
「そ、それって…」
「明確な《アンカラ条約》違反…ね」
紅葉は言った。
「もっと簡単に言うと、売国奴」
兼孝は続いて言い放つ。
「その疑惑のある人物が、小渕善幸、野田優、金子弘正、熊谷正義━」
此人が人物名を読み上げているその時、ユリィの体がビクッと震えた。ゆかりはその瞬間を見逃さなかった。
「どうしたの、ユリィ?」
和真も気付いたようだ。
「…だ、だいじょうぶ……」
ユリィは気丈に答えた。
兼孝がユリィの方を見たあと、向き直って何かぶつぶつ呟いていた。
車はついに目的地に到着した。バック時のピーピーピーという音が車内に響き渡った。




