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氷銀の魔女  作者:
65/78

7-1 車内の会話 疑わしき陰謀

4/2

矢場内は答えた。

此人は答えた。

 交流会当日 朝7時半。

 

 和真、ユリィ、ゆかり、兼孝、紅葉、そして矢場内此人、亀梨拓夢(かめなしたくむ)ことかめむし、運転手の高井景三(たかい けいさん)の8人が南門に集合した。


 国武院は東京都のハズレに位置する。暁星学院が存在する立川市からは乗用車で1時間もかからない。


 移動手段は3列シートのバンである。運転席にはもちろん景三。助手席にはかめむし、2列目のシートには兼孝、此人、紅葉、3列目には和真、ユリィ、ゆかりが各々着席した。


 景三がバンのエンジンを起動させると、慣れた手つきでシフトレバーを動かしつつ、バンを発進させた。


 ゆかりは、和真とユリィが少し眠そうにしていることが気になっていた。


「2人とも、眠れてないの?」


「ちょっと、夢にうなされてて」


 和真は作り笑顔で答えた。彼の傍には布袋に包まれた刀のようなものが立てられている。


「ユリィは?」


「……かずまの横、なぜか眠くなる……」


「奇遇だね、僕もだよ」


━くぅぅぅっ!これ見よがしにイチャつきよってっ!


 ゆかりは苦笑した。


「おやおや、昨晩もお楽しみだったのかな?」


 兼孝が後ろを向き、軽い調子で訊ねた。


「えっ!?あ、あんたたち、も、もうそういう関係だったの?」


 兼孝の意味深な言い回しに、ゆかりは冷静さを欠いた。


「『お楽しみ』とか『そういう関係』の意味がわからないけど、昨夜もしてましたよ」


 下品な言い回しを理解していないのか、平然と和真は言い放った。


━え?え?和真って意外と……。


「キミ達、ホントに熱心だよねぇ」


━熱心!?


「毎日夜中にトレーニングするなんてね」


「と、トレーニング?」


 想定とは異なる内容に、ゆかりの声は裏返ってしまった。


「僕はバカのひとつ覚えみたいなものですから」


「……ゆかり、なんの話してたの?」


 ユリィは隣のゆかりを見上げた。ユリィの純粋な瞳を見つめたせいで、邪な想像をしてしまった自分の頭が憎い。


「な、なんでもないから…っ!」


 ゆかりは顔を赤くし、そっぽを向いた。


「まあ今のは貝塚の言い方が悪いわね」


「え?なんで?痛いから耳を引っ張るのはやめて!」


「みんな、仲良いわね。車内がお通夜ムードよりはマシだけどね」


 ここまで資料のようなものを読んでいた此人が初めて口を開いた。


「矢場内さん何読んでんすか〜?」


 兼孝は資料を覗きこんだ。


「国武院に関連する事件とか、団体とかをまとめたものよ」


 此人は答えた。


「2年前に代表の八木沼(やぎぬま)重慶(じゅうけい)って人が原因不明の病で亡くなって代表が交代したのね」


「え!?そうなの!?」


 1番良く知っているはずの和真がなぜか驚いていた。驚きのあまり、敬語を使うことを忘れてしまっている。


「なんで和真が分かってないの……」


 和真の浮世離れは理解していたが、自分の所属していた学校のことすら知らなかったとは。ゆかりは苦い笑いをこぼした。


「今の代表が天野巌(あまのいわお)という人物ね。元は魔法省の官僚だったみたいね」


「天下りってやつ、政治屋のやることだね」


 兼孝の声と表情には諦めのような本音が漂っていた。


「元々魔法省でも魔法を禁止すべきと主張していたみたいね。首相暗殺事件のような悲劇を繰り返さない為に、ってね」


 首相暗殺事件。


 当時の総理大臣が演説中に魔法による爆発で死亡した事件である。その事件は魔法犯罪として連日報道されていた。


 その事件をきっかけに、魔法を規制すべきという世論が一気に広まった。その結果、反魔法主義政党である共和民主党が政権与党に成り上がった。


「何か陰謀の匂いがするよね〜、反魔法主義を掲げながら、ASFを使ってるんだよ?」


 兼孝はニヤニヤしながら言った。


「確か、小渕さんのお父さんも反魔法主義だったわよね」


 紅葉の言うことも反魔法主義の矛盾点である。


━反魔法主義の議員の娘が、なんで暁星学院に?


 ゆかりの疑問は尤もであろう。


「それって…どういうことですか?」


 和真は混乱しているようだった。


「ダブルスタンダード。自分はいいけど他人はダメ。政治屋のオハコだね」


 ため息をつきながら兼孝は吐き捨てた。


「さらにかめむし君から面白い情報があってね━」


「あのーすみません」


「なあに和真君」


 此人の解説を和真が遮った。


「かめむし…さんってみんな呼んでるんですけど、いいんですか?」


━それ私も思った。


 それを聞いた助手席のかめむしがこちらを向いた。


「大丈夫だよ〜、このあだ名オレ結構気に入ってるから〜」


━なんでだよ。


 ゆかりは心の中でつっこんだ。和真は何か言いたげな表情をしていた。


「気を取り直して、ここだけの話、共和民主党の左翼議員が、中革連の企業からお金を受け取っているらしいの」


 此人は咳払いをした後、興味深そうに告げた。


「これはオレの推測だけど」


 かめむしが補足する。


「おそらく彼らは、魔法技術を渡しているんだと思う。向こうも魔法研究所を構えてるから、その見返りに金を受け取っている疑惑がある」


 かめむしの推測に、車内の人間は言葉を失った。


「そ、それって…」


「明確な《アンカラ条約》違反…ね」


 紅葉は言った。


「もっと簡単に言うと、売国奴」


 兼孝は続いて言い放つ。


「その疑惑のある人物が、小渕善幸、野田(まさる)、金子弘正、熊谷正義(くまがやまさよし)━」


 此人が人物名を読み上げているその時、ユリィの体がビクッと震えた。ゆかりはその瞬間を見逃さなかった。


「どうしたの、ユリィ?」


 和真も気付いたようだ。


「…だ、だいじょうぶ……」


 ユリィは気丈に答えた。


 兼孝がユリィの方を見たあと、向き直って何かぶつぶつ呟いていた。


 車はついに目的地に到着した。バック時のピーピーピーという音が車内に響き渡った。

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