第82話 計画は失敗
えっと、力尽きました。
なので終わります。ご拝読ありがとうございました。
吹き抜ける風が、上空を駆けた。
時計塔の壁に背中を預けると、少年は揺蕩う。
瞼を閉じて胡坐を掻き、その上に小さな水晶玉を乗せると、黒いローブを身に纏い、フードを被って表情を隠す初老の男性の姿があった。
「……聞こえているのかの?」
「ああ、聞こえているよ」
少年は睨みを利かせてきた老爺相手にも動じなかった。
謎にニヤ付いているのが気持ち悪いが、それさえ受け止める蒼の空が広がる。
雲がたい焼きのように泳ぐと、食べてしまいたいとつい思った。
「聞いていなかったな。今回の実験は……」
「失敗だよね?」
「ぬっ。誰のせいだと思っておるんじゃ」
老爺はとある実験を行っていた。ここディスカベルにあるダンジョンにて行われていたのだ。
しかし結果は失敗。その一端にあったのは、不甲斐ない末端の人間の仕業。おまけに少年自身の企みによるものだった。
もちろん証拠は一切残されていない。制裁を下すことは出来ず、悔しい思いをする。
「誰のせいかな? 結局、失敗したのは俺じゃない」
「確かにお主では無いの」
「ああ、そうだよ。薬自体も不良品じゃなかった。言っただろ? この街の冒険者は侮れないってね」
とは言え下より、失敗の原因はもっと他にあった。
だからだろうか? 老爺も今回はムキにならず、癇癪を起すつもりは無い。
渡した薬自体も正常なものであり、不良品では無かった。ましてやロアコボルト自体は確かに狂暴化し、通常の個体以上の力を手にしていたものの、そのあまりある力に翻弄された挙句、実力の高いディスカベルの冒険者を侮ったことで敗北した。
「確かにそうじゃな。これは予想外……いい実験になったわい」
「そういうことだよ。この間この俺を咎めたこと、間違いだって分かったよね?」
「ふん、確かにそうじゃが儂は成果を上げた筈じゃ。お主に言われる筋合いはないの」
ただし老爺は腑に落ちないことばかりだった。
だからだろうか? 若い少年を相手に、大人げない口論に発展させようとする。
しかしながら実際に成果を上げたことに変わりない。冒険者ギルドの株を下げたのだ。これで王都での暗躍にも更に枝を伸ばせる。
「その成果で、今王都は大変なことになっているよ」
「なに? お主、今王都におるのか」
「うん、もうすぐ発つけどね」
老爺は知る由も無かった。共有していない独断での行動だった。
わざわざ危険を冒してまで、王都に足を運んだ少年。
顔は割れていないものの、一仕事余計なことに片足を突っ込んだ。そのせいで、すぐに発つことになってしまう。
「そうか。あの若僧は始末されたんじゃな?」
「うん。〈《黒影の牙》〉、最悪の冒険者ギルドに目を付けられたね」
「なんじゃ、その程度か。まあよい、餌は幾らでもばら撒いておけばよいからの」
老爺はついでに気になっていたことを訊ねた。
とある人間の末路が気になっていた。それは末端の人間であり、暗躍していた所を掬われた。若造と表するが実力はあった。しかしその命は、最悪の暗殺者集団によって刈り取られる羽目になる。
それこそが〈《黒影の牙》〉であり、常に監視されているような針の筵状態に、少年は掻い潜ることを選んだ。無事に認識から外れることが出来たものの、諸々の結果が如何転ぶかは分からない。
「権力者は違うね。けど、それで攪乱できるならいいよ」
老爺は〈《黒影の牙》〉事態を敵として認識していない。
権力者である表の仮面がある以上、適当な餌を巻き続けることで、間違った深淵へと足を踏み入れさせるだけ。そうすれば永久に答えへと辿り着けないと知っていたが、少年はそこまで単純ではないと気付いている。
「でも……」
「悪いが時間じゃ」
少年はニヤ付いた笑みを浮かべたままかえなかった。
反発しようとした瞬間、ばつの悪い老爺は時間を切り取る。
「お主との個人間での報告は以上じゃな。通信を切るぞ」
「いや、まだだよ」
老爺は面倒な通信を切ろうとした。
魔力の消費を抑えたいのか、それとも追及を逃れたいためか。
どちらにしても少年に言葉を発せさせようとしない辺り、後ろめたい部分があったが、残念ながら逃がさない。
「なんじゃ?」
「これだけの事態に発展したんだよ。責任を取ってくれるよね?」
「なに?」
王都で今何が起こっているのか、使えない末端が死んだことで情報が共有されていない。
しかし少年は危険な死地に足を踏み入れ、その目と耳で状況を判断している。
完全に老爺よりも一歩前へと出ており、責任の追及権利を得た。
「はっ、けど俺と同じだよ」
「なぬ?」
「結局は適当な言い訳で、貴重な薬を消費したんだ。これが俺にだけ制裁を下そうとした奴の幻映なのかよ?」
少年は一度失敗を犯した。結果的に今回、成果を上げることはほんの少しで来たかもしれない。しかし失敗は失敗であり、制裁を下される立場にあった。
老爺は焦りの様子を一切見せない。汗を掻いていないので、代謝が悪いのだろうか?
否、高を括っている状態だ。制裁を下される要因は無いと割り切っている。
「制裁じゃと? はっ、儂は成果を上げた身じゃ。失敗を成功に変えた儂に、制裁を下される謂れは無い筈じゃ」
「どうかな? これを見てよ」
「なぬっ!?」
少年は老爺のミスを指摘した。その証拠を見せる。
一枚の紙切れのようだが、末端の人間に指示を出していた記述が残されている。
これが少年はわざわざ王都に足を運んだ理由であり、公になれば円卓の存在が明かされかねない。単なる噂ではなく真実であると世界に知られる羽目になる。それを思い、か白い老爺は言葉を失った。
「俺が手に入れた情報だよ。今回の一件、根は深い筈だ」
「ふん、どうじゃかな。例え根が深かろうと、儂らには関係無い筈じゃ」
「関係はあるよ。一つの失敗が大きな失態に繋がる可能性もある。俺達が崇拝するあの方は、どう思うかな?」
結局のところ、少年達が囲む円卓。同じ目的へと至るための集団だ。
その最果てには崇拝する“あの方”が君臨しており、その指示の中にいるだけの関係。
与えられた番号など順位付けではなく、所詮は証だ。事実が公表されればあの方からの“本物の制裁”が下ると、老爺は焦ることしか出来ない。
「うっ、それは……考えておくでな」
「うん、震えて眠ればいいよ」
「お主、最初からこのつもりで……」
「なにかな? 俺はなにもしていないよ。それじゃあね」
今度は少年自身が上へと完全に立っていた。
老爺は何も言い返せなくなると、体を震わせるしかない。
結局完璧な作戦など存在しない。少し足跡を付ければ、尻尾を掴むことも出来るんだ。
自分から通信を強引に遮断すると、老爺の声が歪んだ。
バキッ―ン!
少年の拳が水晶玉に触れた。高い高度は成す術も無い。
触れた瞬間、まるで最初から割れるように設計されていたと錯覚しそうな程、容易く罅が入った。
しかも異常なまでに鈍く重低音で、聴こえて来たしゃがれた老爺の声は掻き消される。
「あー、面白かったよ」
拳一つで水晶玉を破壊した。
ナイフなんて道具に頼る必要は無く、魔力さえ震えていない。
より一層悍ましい何かを纏ってみせると、けたたましく笑っていた。
「けどよ、俺一人を出し抜こうなんてさせねぇぞ、ナンバー1」
ニヤリと笑った少年。粉々に割れた水上玉を睨んだ。
風に浚われ、砕け飛び散った破片は空へと舞う。
その瞳は闇を覗いていた。深い深淵の園に期待を込めていたのだ。自分一人を排除させる気は無いと高を括り、この瞬間に存在する全てを嘲笑するのだった。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。押すだけで簡単ですよ。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




