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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー4:暗闇の影

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第78話 注射器をありがとう

 冒険者ギルドを後にした僕。とりあえず今日は終わりだ。

 しばらくは下手な動きをみせずに、最低限の活動に留めた方がいい。

 特に冒険者ギルドのマスター、ライムが何を企んでいたのか知れないので油断大敵だ。


「おや、浮かない顔をしているね」

「えっ?」


 気が付くと、僕は女性の声を掛けられていた。

 そんなに浮かない顔をしていただろうか?

 意識はしていなかったものの、顔を上げた先、そこには建物があった。


「留意の館……ってことは」

「やぁ、また会ったね」


 気が付けば数多くの高価なアンティーク品を取り扱う雑貨屋、留意の館の目の前。

 意図せず通りがかってしまうと、エルフの女性に声を掛けられていた。

 アイリッシュは僕の表情を読むと、表情の奥に隠れた違和感を零さない。


「アイリッシュさん、こんにちは」

「うん、こんにちは。それにしてもどうしたんだい? その顔色、腑に落ちていないよ」


 アイリッシュはすぐさま僕の心境を当ててしまう。

 確かに腑に落ちていないというのが正しくて、それはライムの一件だ。

 何か裏がある。ベルト達が調べてくれているものの、それが何か分からない以上行動が制限される感覚があり気持ち悪い。


「そんな風に見えるかな?」

「うん、少なくとも私には充分見えるよ」

「そうなんだ……」


 如何してここまで言い当てられるのだろうか?

 僕はこれでも師匠達に散々鍛え上げられてきた。感情を推し量り、上手く隠すことも出来るよう訓練していた。

 しかしアイリッシュは表面上からは掬い取れない、濾過され切っていない部分を受け止めてしまう。不気味な興味を引き寄せられた。


「まあ、それはいいとしようか」

「えっ?」


 弁えている。弁えられていた。

 僕は浮かない表情から目を伏せて、すぐさま話の話題をすり替える。

 興味が無い様子で逸らしてしまうと、この間渡された注射器の話になった。


「無事にダンジョン探索は終わったみたいだね」

「は、はい……あっ、そうです。この間はありがとうございました」


 お礼を言うため、ペッキリと頭を下げた。

 あの注射器が無かったら、まあ厳密に言えば中身なんだけどさ。

 ロアコボルトは確かな強敵で、あの注射器を刺して中身を投与したことで弱体化に成功した。

 全てはアイリッシュのおかげであり、感謝する他ない。


「別に私はなにもしていないよ」

「していますよ。あの瞬間、貰っていた注射器が無かったら、今頃僕はここにいないかもしれないです」


 純粋にサイコパス状態になっていたらもっと楽に勝てたかもしれない。

 それでも血で血を洗うことになっていたのは、簡単に想像出来る。

 つまりここに無事で立っていられることはアイリッシュのおかげであり、感謝しても足りないと理解する。


「あの、あの注射器の中身って一体なんだったんですか?」


 純粋さはより一層膨らんだ。

 僕は如何しても注射器の中身が気になっていた。

 ダンジョンから出た後、クロンにも訊ねられた。注射器の中身は何だったのか、残念ながら僕も知らないままでよければ教えて欲しい。


「なに、単純な解毒薬だよ」

「解毒薬?」

「ああ、そうだよ。別に特別なものでもない。私が暇潰しに調薬したもので、上手く効いたみたいだね。それはよかったよ、なによりさ」


 中身が何かは明確化されない。それでも解毒薬のような代物だったらしい。

 表情や魔力・気配の流れからも、嘘を付いているようには見えない。

 恐らく本当のことであり、単なる暇潰しで調薬した薬がここまで効くとは想像していなかった様子だよ。


「もしかして、エルフの秘薬?」

「ん?」


 ポツリと呟いた言葉の泡。

 僕は雰囲気の中に濁りを起こすと、アイリッシュの瞳がギラリと光る。

 射抜かれるような感覚が走ると、気持ち悪くは無いが何かに触れた気がした。別に怒ってはいない様子で、寧ろ勘違いに近いかもしれない。


「そんな風に見えるかな?」

「いや、分からないですけど……なんでもないです」


 エルフ族には特別な魔法や薬の調薬方があるって、師匠が言っていた。

 実際の所、暇潰しにしては性能がピカイチで限定的だった。

 まるで予見したような対策に僕は疑いの目を向けるが、残念ながら直接は促せなかった。


「あの、知ってました?」

「なにをかな?」

「僕が何処のダンジョンに行く予定で、なにと戦うのか……」


 確信に近いことを訊ねた。

 はぐらかされるのは承知の上で、僕が何処のダンジョンに行くのか、なにと戦うのか、明確に把握されていた可能性が高い。可能性の話でしかないが、最悪ライムと企んでいたのか? 嫌な予感がする。

 アイリッシュに限ってそんな話……見え透いているとは思いつつも、僕の心臓を透明な言葉のナイフが撫でた。


「さぁね? 私はなにも知らないよ」


 何故かアイリッシュは目を伏せた。

 絶対に何か知っていると思うけれど、いざ何を訊けばいいのか分からない。

 困り顔を浮かべると、僕はアイリッシュに気圧された。


「それより、なにか買って行くのかい?」

「あっ、今は手持ちが……」


 顔を上げるアイリッシュ。ボクに訊ねる。

 店先の前で立ち尽くし、一方的な質問を投げ掛けていた。

 その状況下から抜け出すと、何か買わないか問われた。この店の商品はどれもいい物だけど、流石に勝っていると手持ちにもダメージが大きいので、僕は唇が震えてしまった。


「そうかい。それじゃあまた来るといいよ、その時はお客さんとしてね」

「は、はい」


 次店に立ち寄る際は、何か買わないといけない。そんな無言の約束が交わされる。

 僕は会釈をしつつ、忘れて貰いたいって思っちゃった。

 いや、無理だね。何故ならエルフだからだ。きっと小さなことでも執拗に覚えているだろう。


「一体なんだったのかな……得体の知れない強さを感じたよ」


 アイリッシュは店の扉を開け、建物の中へと消えた。

 僕の目の前から姿を消すと、時間が再び動き出す。

 周囲へと意識を向け直すと、全身がゾワッとなった。 


「僕もまだまだだね。師匠達どころか、遠く及ばないよ。頑張ろう」


 今の調子だと、師匠達に笑われる気がした。

 それ所か、冒険者のような雰囲気を見せるアイリッシュにも負けてしまいかねない。

 遠く及ばない何かに怯えるのはらしくないので、とりあえず帰ったら特訓しようと思った。

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