第77話 ベルトが調査してくれたらしい
最低の裏には何があるか?
ガチャリ!
冒険者ギルドの会館に設置されたギルドマスター室。
そこを後にした僕達は、エメラルの「はぁぁぁぁぁッ」という大きな溜息を聞いた。
「なんなのよ、えっ、一体なに!?」
エメラルは腹を立てていた。
あまりにもムカ付いたのか、目がギラギラしている。
それこそ、エメラル自身流石にここまでの対応は許せなかった。
「エメラル、落ち着いて」
「落ち着いているわよ。それで落ち着かないなら仕方が無いでしょ!」
エメラルはこれでも充分落ち着いているつもりらしい。
とは言え、冷静な空気感を保つことさえ難しいのだろう。
それだけの感情が走ると、クロンでも制御出来ない。
「許せないわよ。まるで駒みたいな扱いをするなんて」
「そうだね」
「うん。駒じゃないのに」
ライムの扱いは本当に杜撰だった。
今回のコボル洞窟の調査や討伐隊の編成。それらは全て仕組まれている様子。
まるで上から目線に全てを見下ろしているような反応で、犠牲が出ることさえ仕方が無いと割り切っていた。冒険者とは言え死にたくは無いので、冒険者ギルド自体が犠牲を考慮するなどあってはならない。
「それになに? 私達が命懸けでギルド側の要請に応えてロアコボルトを倒したら、あの不機嫌な態度」
「分かったんだね、エメラルにも」
「当然よ。ライムさんは隠し切れていないもの」
ロアコボルトは確かに危険だった。あまりにも身体能力が強化され、一歩間違えれば死んでいた。
今でもジットリとした生汗が出てきそうだけど、それ以上に狂気じみた血のニオイがする。
僕の記憶にはそれしか無いけれど、ロアコボルト倒した際、明らかに不機嫌な態度だった。もちろん表面上ではなくて、もっとこう内側の部分で悲鳴を上げていた。悔しそうに、何かが崩れる音がしたのだ。
「前はあんな風じゃ無かったのにね」
「そうなんだ」
「一年くらい前まではね。本当なにがあったのかしら?」
僕は以前のライムのことを知らない。
少なくとも一年前くらいから様子がおかしくなってしまったらしい。
それまでは冒険者のことを思いやるギルドマスターだった……皮肉なものだと思い、少しだけ過去を覗きたくなる。とは言え金に出も目が眩んだとしか思えない。
「だけど冒険者ギルドのマスターを名乗るなら、もう少し冒険者のことを考えて欲しいわ」
ライムは冒険者のことをまるで考えていない。
まるで使い捨ての駒のようと表したのは、まさしくここが由来する。
作戦も杜撰であり、それにしては急遽だった。予め想定していたとしか思えない無謀な作戦で、この状況か、それこそ四大ギルドからの協力が仰げないこの場面でそれは無い。冒険者ギルド単体で丸く収めるなど、無謀にも過ぎる人員の割き具合だった。
「確かに、ギルドマスターとしては乱暴だね」
「相応しくない」
「クロンに言われたらお終いよ」
「むっ、どういう意味?」
正直言って、冒険者ギルドのギルドマスターには相応しくない。
そんな印象が覆い被さってしまうと、クロンまでもが同意する。
ジト目で言われてしまったらもうお終いだ。呆れてしまうしかないよ。
「でも私が一番ムカ付いているのはね……」
それ以上にムカ付くことが、これ以上にあるのだろうか?
僕は気になってしまってエメラルが口を動かすのを待つ。
ほんの少し間が差して、「どんな理由?」と訊ねる前に、言葉が腫れ上がった。
「なにより、肝心な時くらい動いて欲しいわね」
エメラルが一番腹を立てているのはまさにそこだった。
ライムは普段から、表では愛欲好青年を演じている。しかし本心の部分は掴めていない。
所々から感じ取れる邪悪な波動が僕に臭って来るけれど、それに気が付いている冒険者が何人いるだろうか?
実力者であったとしても、不可解な程に見ようとしていない。
確か魔法使いの中でも特に極まった魔法があるらしい。
あくまでもエメラルから聞いた話しで、噂の域を出ないけれど、監獄とかなんとか聞いている。
その力を扱うことで、自らを絶対的なものにでもしているのだろうか?
周囲が惑わされるのもそれが原因かもしれない。
などと、腸が煮え返りそうな真相が飛び出してくるのでは? と、些か不安が混じった。
「全くだな」
「「「えっ???」」」
ご乱心なエメラルに同意する声があった。
僕達は足を止めると、不意に視線を飛ばした。
暗がりの中から姿を現す人影に視線を奪われる。
「この気配……」
「ベルトだね」
「うん。声で判るよ」
誰であるのかなんて、一発で判ってしまった。
それこそ最大の判断材料は声であり、低い重低音なトーンが胸を突き刺す。
何かあったのだろうか? そもそも、まだ数日しか経っていない。昨日今日で治る怪我ではなく、動いていい筈が無かった。
「エメラル」
そこに姿を現した男性が一人。
正体はベルトであり、壁を背にして佇んでいる。
腕には包帯を巻き、まだ左手はまともに動かせないらしい。
「どうしたのよ、こんな所で」
「安静にしなくていいの?」
「うん」
僕達は揃ってベルトの心配をした。
左腕を襲った痛みはとてつもないものだっただろう。
一応繋がってはいるが、感知するまでは時間が掛かる。時間も経ち過ぎていたので、魔法でも薬でも限界はあった。だがしかし、ベルトは心配無用な顔をした。
「心配は必要無い。それに、安静にしている暇は無いからな」
ベルトは安静にしている暇さえないと豪語する。
それだけ〈《黒影の牙》〉への依頼は立て込んでいるのだろうか?
否、これはベルトの独断行動であり、ライムが何を企んでいたのか、常に調べていたのだ。
「話がしたい。手短に済ませるために、少し時間をくれ」
ベルトは簡単なやり取りで済ませようとした。
僕達もライムとの会話に節々から感じた違和感が深い。
とは言えベルト一人に対して、僕達は三人だ。怪しまれかねない。
「分かったわ。私が聞くから、オボロとクロンは好きにしていいわよ」
「いいの、エメラル?」
「こういうのは慣れているもの。ほら、行っていいわよ」
エメラルが一人で対応してくれるらしい。
流石は〈《眩き宝石〉》の副ギルドマスターだ。
促される形で僕とクロンは目配せをすると、「それじゃあ頼んだよ」と言って後にした。
「ふぅ……それで、一体なにが分かったのよ?」
「ああ。ライムさん、冒険者ギルドマスターは裏で幾つもの悪事に加担している。今回の件もな」
「嘘でしょ!? それじゃあ仕組まれていたってことなの」
「可能性は高い。なにより、被害を出すことさえ考慮してな」
「最低ね……」
遠ざかる間際、聞こえてきた会話。
所詮はギルドマスターの川を被った悪魔でしかない。
強欲と豪胆に囚われたライムの姿が目に浮かび、本気でベルトとエメラルは腹を立てていた。
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