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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー3:悲しみさえも踏み潰して

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第75話 取り戻せなかった命

遺体を持ち帰るって勇気がいるよね。

 静かな雑音が、湿り切った暗闇を闊歩する。

 宙に浮いた体は何かに縛られているような感覚に襲われる。

 黒い縄が全身の自由を奪い、心に静寂をもたらそうとしてくれた。


 僕は一体何? 僕は一体誰? 凶暴化する本能を冷静に諫めようとすると、ドクンドクンと鼓動が走る。

 心臓を鳴らす揺らめく心音。血の流れがユッタリとして、性格に自分を見据える。

 見えないものが見えて来ると、赤く染まった視界の狂気が、瞼を開けると共に鮮明さを晦ませた。


「ううっ……」


 吐き気のようなものが込み上げて来た。

 気持が悪くなり、今にも吐瀉物を出しそうになる。

 それでも何とか堪えて見せると、暗がりの中をひたすらに浮かされ進んでいた。


「あれ? 一体どうなって」

「ん、起きたオボロ」

「クロン? ……って、なにこれ!?」


 クロンが僕のことに気が付いてくれた。一体何がどうなったのか?

 確かロアコボルトと戦って、サイコな自分が顔を覗かせて、凶暴性を露わにして……ズキンと後頭部に激痛が走ると、何故か宙に浮かされている事実を後回しに気が付いた。


「ブラックバインドを使った、ブラックサイス」

「ブラックサイスって、攻撃系の魔法じゃなかった?」

「うん。エメラル、起きた」

「やっとなの!? もう洞窟の出口は目の前よ」


 ブラックサイスは闇属性の魔法であり、影のように伸ばした黒い鎌を自在に扱うというものだった。

 それを柔らかく軟質化させ、僕の体を拘束していた。そこはブラックチェーンやブラックバインドでも可能だが、より攻撃的なのにはきっと意味がある。

 我を忘れていた間のことを思い出せないでいると、エメラルも僕が起きたことに気が付き、目の前には出口が広がる。まさか役に立てなかったのか? それはパーティー戦でやったとおもった。


「目の前って……もしかして、気絶してた?」

「気絶させたのよ。あのまま暴れ回られたら、大変なことになっていたわ」

「そうなんだ。ごめん……でも出口に向かっているってことは」

「当然倒したわよ。これが証拠」


 エメラルに如何やらやられたらしい。高騰部の痛みに説得力が増す。

 今もズキンと響くと、軽い脳震盪が眩暈となって襲い掛かりそうだ。

 けれどロアコボルトは無事に倒せたようで、僕が気絶した甲斐はあった。それだけの活躍は果たし、エメラルの左手にはロアコボルトの魔石核が、右肩のは暇を吊るした巨大な袋が引き摺られていた。


「それって……わかったよ」

「そうね。ネイルの遺体だけでも回収したわよ」

「優しいね、エメラルは」

「別に私は私なりの正義を貫くだけよ」

「エメラルらしい」


 ネイルの遺体を丁重にでは無いが、何とか持ち帰ろうとする強い意志。

 それがエメラル自身を支える冒険者の教示であり、他の冒険者からも慕われる由縁に近い。

 使者を弔う姿に冒険者なりの線引きと甘さを感じ取った。僕には分からないよ。





「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 アッシュの拳が最後のコボルトを貫いた。

 地面に伏せ、絶命したコボルト。洞窟から出て来たコボルト達は全員始末すると、腕に付いた体液を振り払った。


「これで全部だな」

「そうみたいだよ。全く、スマートじゃないよね」

「うるせぇ。俺にはこれが性に合ってるんだよ」


 何かいがみ合っているようで、相変わらず相性が悪い。

 他の冒険者達も最善を尽くした様子で、出口の先では疲労を抱えながらも、全員無事だ。

 怪我もそこまでしていないのは、連携が無事に取れていたからだろう。


「後はエメラル達だが……おっ!」


 アッシュの視線とグリムロの視線がこちらを向いた。

 僕やクロンと言うよりも、先頭を行くエメラルの姿を見つけたからだ。

 安堵した表情を浮かべると、「ふっ」と二人して同じ表情を浮かべ、期待を寄せる。


「エメラル達が戻って来たぞ」

「ということは、無事に終わらせたみたいだね」

「そうらしいな。おい、エメラル。終わったのか?」


 他の冒険者達にも伝えると、一斉に視線が集まった。

 注目されるのはあまり慣れていないけれど、エメラルとクロンはさも当然そうだ。

 やはり目立つ……信頼を寄せられている証拠であり、「終わった」の一言が全てを物語る。


「ええ、全部終わったわ」


 僕達を迎えてくれたのは、防衛ラインの最前線で戦ってくれていたアッシュとグリムロ。

 エメラルは二人に労われると、腰に手を当て当然のように答える。

 ロアコボルトは倒した。僕は見ていないけれど、この自信の表れが証拠だ。


「エメラル、ロアコボルトは倒したんだよね?」

「そんなの当たり前でしょ。これが証拠よ」


 グリムロに問われたので、魔石核を見せつける。

 相当な魔力を宿しており、アッシュはグリムロを押し退けた。


「魔石核か。それじゃあロアコボルトを倒したんだな」

「もちろんよ。私達をなんだと思っているの」

「そうだったな。ふぅ、ってことはこれで終わりか」


 これで全てが終わった。如何やら王都への被害は少なからず当面は見られない。

 残ったコボルト達も限りなく数を減らし、後はコボル洞窟が安静化するのを待つだけ。

 警戒をする必要はあったが、それは冒険者ギルドの仕事で、討伐隊はやり切った。


「ねぇねぇ、エメラル。ネイルとシザースは見つかったー?」

「う~ん。二人も生きていれば完璧なんだけど~」


 ハピラスとニャンが顔を覗かせた。忘れてはいけないことがある。

 一縷の望みを抱き、ネイルとシザースの無事を祈っていたのだ。

 けれどエメラルは包み隠さない。袋を全員に見えるように前に押し出すと、全員に沈黙が覆う。


「見つかったわよ。シザースはダメだったけど、ネイルは」

「「「……!?」」」


 シザースの遺体は回収出来なかったが、ネイルの遺体はここにある。

 人間一人分の袋がその証拠で、わざわざ中身を確認しなくても分かる。

 当てえ口にする程でも無かったが、事実を受け入れずに茫然自失するくらいなら、ここで正解を突き付ける。

 

「これがネイルよ」

「惜しい奴を無くしたな」

「確かに、ネイルにはいつも助けられていたよ」


 アッシュとグリムロも今回の討伐隊に加わったのは、少なからずネイルには世話になっていた。

 動揺にシザースの遺体を回収出来なかったことの悲しみが呼び起こされる。

 他の冒険者達にも深い悲しみが過ってしまうが、エメラルは湿った空気を一変させる。


「なにそんな暗い顔をしているのよ。死んだ人は悲しんだ所で戻って来ないわ。これが冒険者の性なら、私達はその想いを胸に生きて行くしか無いでしょ!」

「エメラル……」

「無理してる」


 明るく振舞い続けるエメラルは前に出た。

 胸に手を当て、精一杯自分自身を大きく見せようとする。

 その間も足が震え、不安や悲しみの念が堪えなかったが、振り切るつもりは無く、忘れることは無い。背負って行くのではなく、纏って前へと進む勇気を示した。


「私は私の冒険者の振る舞いを曲げないわよ。例えネイルやシザースが死んだとしても、その想いが消えることは無いの。だったら顔を上げるべきよね、それからシッカリ弔って上げることが大事なのよ」

「全く、エメラルは強いな」

「そうだよ。でも理解はするね」


 冒険者の振る舞いを変えるつもりは無い。例え世間が拒んだとしても、自分だけはそうあり続ける。

 そんなエメラルの気高さに触れると、アッシュやグリムロを中心に悲しみを乗り越える強烈な光が走る。

 瞬くような宝石の煌めきが包み込むと、誰も悲しみを忘れない。忘れるのではなく、信念を胸に刻んだ。


「それじゃあアッシュ、悪いけれどネイルの遺体を任せるわ」

「お、俺か?」

「まだ動けるでしょ。他の人達も、手を貸してあげて。最後まで油断せずに王都へ戻るわよ」


 アッシュや他の冒険者にネイルの遺体を任せるエメラル。

 責任放棄ではなく、これが冒険者なりの優しさだと痛感した。

 全員が死を目の前に実感し、忘れてはいけないことだと思い知らされると、僕達は王都まで駆け戻った。

 その足や影は重く、惜しい冒険者を無くしたと、僕以外は心底思って。

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