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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー3:悲しみさえも踏み潰して

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第73話 薬品の効果

薬よりも怖いのが、オボロのサイコモード。

 僕は鮮明に思い出していた。

 自分よりも強い相手と戦う時、まず大切なのは心を落ち着かせることだった。

 常に自分自身を意識しつつ、それで居て冷静に物事を見極める。目の前の恐怖の対象から恐怖心を取り払う必要は無いが、必要以上に怯えないことを念頭に据える。


「ふぅ……」


 呼吸を整えてロアコボルトの背後を取った。

 それと同時にシュナ師匠の言葉が脳裏に焼き付けられ、再生される。


『いいか、オボロ。お前は小さい。おまけに力も無い。だからこそ、その殺意を向けろ。確実に殺すと慄かせろ。そうすれば大抵の相手はお前の希薄にビビって動きが鈍る』


 シュナ師匠の言葉は的確だった。

 要するに同じ土俵で戦おうとするのではなく、自分に有利な状況を作り出せってことだ。

 強引に突破できるシュナ師匠とは違う。僕だけの武器を振りかざし、目の前の敵を殺す。


(ここは洞窟。天井の高さは三メートル前後。ロアコボルトはエメラルに釘付け)


 洞窟の高さと幅を計算に入れた。

 それから現時点ではエメラルに死線を釘付け出来ている。それだけ脅威の矛先がエメラルに向いているからだろう。

 だからこそ僕は自由を得ていた。敵にもみなされていないのは、即ちそれだけ自分の存在感が薄いことに直結する。とても理に適っており、高い敏捷性を活かすには、それからこれから見せる奥の手のためには、必要な要素だった。


「まだ使わなくてもいい。今は……」


 奥の手は最期まで取っておく。

 だけどいつでも指先を切れるようにはしている。

 これでサイコパスになれる。そうなれば僕は今よりもっと強くなれるけれど、あんなものは最終手段でしかない。だからこそ……


「はっ!」

 

 地面を軽い力で蹴った。

 パッとロアコボルトの背中に飛び乗ってみせる。

 両脚でロアコボルトに掴まり、探検を突き刺して体を固定する。


「ヴァウジャ!?」

「オボロ、なにやってるのよ!?」

「いいや、普通に……ねっ!」


 ロアコボルトは痛みとは違う、僕が纏わり付いたせいで迷惑している。

 それが重要であり、体をグラグラ動かして暴れている。

 今にも振り落とされそうでエメラルとクロンに心配を掛けたけど、全然問題無い。何故なら僕の目的は決まっていて、注射器をブスリと首に刺した。中の薬品を注入する。


「ヴァウジャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 薬品を注入されると、ロアコボルトはけたたましく叫んだ。

 全身が今にも弾けてしまうそうなほど伸びると、暴れ回ってしまう。

 当然こうなるのは理解していたけれど、僕も振り落とされないようにした。 

 だけど全然ダメで、ロアコボルトに放り投げられる。


「って、うわっ。ちょっと待って……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「ちょっと待って。私に……ぐへっ」


 宙を舞った僕。エメラルとぶつかってしまった。

 ドンッ! と正面からぶつかって、エメラルは受け身を取っている。

 背中から壁に叩き付けらると、苦しそうな表情を浮かべた。


「な、なに?」

「ううっ、弱ってる? 目の色が変わって……」


 僕とエメラルが巻き込み事故に遭った。けれどクロンも杖を構えている。

 魔法を詠唱しつつ、僕の奇策を待ってくれていたみたいで、いつでも仕掛けられるらしい。

 だけどロアコボルトの様子が妙で、全身から熱を放出し大量の汗を掻いていた。明らかに弱っていて、体の動きがやけにギコちなく、指先が震えている。


「ジャウッ……」


 ロアコボルトは口からだ液を垂らしていた。

 常に下を出した状態で、呼吸がやけに荒い。

 今にも勝手に潰れてしまいそうだが、舐めてはいけない。いつでも動けるように体を起こすエメラルだったが、僕が邪魔みたい。


「大剣を落としたわよ!?」

「うん。これならただの大きなコボルト」


 ついに大剣を落としてしまった。

 もはや汗でびしょ濡れな素手でしか攻撃が出来ない状態。

 確実に弱っていると言ってもよく、威圧感はとうに消えていた。


「そうね。動きも鈍足よ」

「クロンでも余裕で躱せるね」


 動きがかなり鈍っていた。

 悪気は無いけれど、クロンでも易々と躱せてしまいそう。


 全身が気怠くて仕方が無く、腕を振り回すも力が入っていない。

 小さな岩の破片が散らばる程度で、クロンは楽々と避けてみせた。

 今が頃合いだ。一気に勝負を決めた方がいいと悟る。


「ほら、やるわよ。ちょっとオボロ、早く退けなさい」

「うん、ちょっと待ってよ」


 エメラルに叩かれた。ちょっと痛いな。

 確かにこのままはよくなくて、僕は起き上がろうとする。

 エメラルが前線に出られないのは、とてもでは無いけれど損失が大き過ぎた。


 それにしても、平たい気がする。

 何だろう、装備の胸板で押さえつけられているせいかな?

 別に特段意識はしないけれど、完全に筋肉に支えられていた。


「よっと」

「ひやっ!? なによ、またアレなの」

「また?」


 僕はエメラルにもたれかかっていたけれど、すぐに起き上がった。

 すると妙なことを言ってくれるね。

 僕に「また」って何? 全然覚えは無いけれど、ニヤニヤ笑みが止まらない。


「あっ、血……そっか、エメラルの装備に鼻をぶつけて」


 完全に自業自得だった。

 エメラルは何も悪くないけれど、鼻を折ったっぽい。

 この辺は師匠達には全然追い付けなくて、僕は自分の鼻を触る。

 ああ、血だ。血だよ血。いい色をしていて、ドクンドクンと心臓が脈打つ。

 何かが呼び覚まされるような感覚に浸ると、とても心地よかった。


「ふっふふふ、あはははははははははははははははッ!」


 突然腹の底から笑いが止まらなかった。

 頭の中がやけに透明でクリアになっている。全てが見通せるような快感がそこにある。

 全身の制限が完全に外れてしまうと、身体能力の上限は消えていた。

 圧倒的な殺意。純粋なサイコパスではない、養殖産かもしれないけれど、それでも僕には手に余った。


「「はぁ、始まった」」


 引かれはしないけれど、溜息を付かれた。だけどそんなの関係無くて、今の僕は早々負けることは無い。

 結局こんな事故的な感じだけど、全身から殺意がみなぎっていて、弱ったロアコボルトは敵でも無かった。

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