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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー3:悲しみさえも踏み潰して

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第72話 普通に強いロアコボルト

あの怪しい薬品が役に立つフラグ。

僕とエメラルは、狂気に憑りつかれたロアコボルトに突撃した。

 当然のことだが、前に出るのは僕じゃない。エメラルが先頭を切ると、大剣を振り下ろしたロアコボルトを相手に、堂々と避け切った。


「そのくらい、私が避けられない訳無いでしょ?」


 かなり大振りだったが、ロアコボルトの斬撃は挙動が分かりやすい。

 魔物とは言え、どのみち腕の筋肉を動かす際には、微弱な静電気が走る。

 中止して見ていれば、肩や肘の辺りが微かに動く気配があるので、エメラル同様、大きく横薙ぎに払った大剣を僕が躱す。


「隙が大き過ぎるのよっ!」

「そうだね。切り裂くよ」


 僕が右に、エメラルが左に走り抜ける。

 ロアコボルトは視線を右往左往させるが、狂気状態では目で追い切れない。

 アドレナリンが多量に出ていたとしても、大剣一本では捌き切れない筈だ。


 ズドッ。バサッバサッ!


 鈍い蹴りがロアコボルトの方に直撃した。鈍器にでも殴られたような鈍い音が走り、肩の骨が砕けるのが分かる。

 筋肉の線維が千切れるものの、ロアコボルトは動じる気配がない。

 ましてや僕が短剣で幾つもの斬撃痕を付けたものの、それでもビクともしない辺り、充分タフだった。


「ダメね。ただのキックだとビクともしないわ」

「充分削っているけどね」

「充分ですって? なに言ってるのよ、オボロ。動きを削れて……ないでしょ!」


 呑気に会話をしつつも、ロアコボルトは待ってくれない。

 大剣を振り下ろした速度は〇秒を余裕で切っているが、気配だけでエメラルは回避した。

 一歩だけ後ろに下がりロアコボルトの斬撃を煽ると、仕方が無いので次の手を打つ。


「クロン!」

「うん、ブラックチェーン」


 クロンは杖を振り抜くと、黒い鎖が飛んだ。

 ロアコボルトの腕を拘束すると、大剣を手放させようとする。

 けれど無駄だったらしく、ロアコボルトは野性味溢れる強引さで引き千切った。


「ヴァウンジャァァァァァァァァァァッ!」

「想定済み。エメラル、オボロ」


 クロンは魔法が破られても動じなかった。

 わざと出力に制限を掛け、鼻っから解除されることを想定していた。

 悠々と鎖を破壊するロアコボルトだったが、殺気の無い気配への対応は若干遅かった。


「背後ががら空きなのよ」

「そうだね。はぁぁぁぁぁッ!」


 空中に散った僕とエメラルは同時攻撃を仕掛ける。

 別に背後を取ることが血迷った行為でも、反則級な訳でもない。

 拳と斬撃の競演を見せつけるものの、うなじを切り付けた筈がやはり効いている節が無い。


「ヴァージャ?」

「うん、困るね。倒れてくれないか」

「仕方ないわね。正直、ダメージを与えているのに、倒れる気配が無いわ」


 振り返り様に拳を叩き付けようとした。

 僕とエメラルに当たる訳も無く余裕で躱すと、愚痴を零してしまう。

 相当ダメージを与えている。全身が傷だらけなのだが、狂気に憑りつかれているせいで、まるで倒れる気配がない。


「こうなったら……抜くしかないわね」


 ロアコボルトは想像以上にタフだった。

 そのせいか、まともな攻撃はほとんど通用していない。

 もちろん筋肉が薄い部分もあるけれど、それでは直接的な決定打には繋がらない。

 そう確信したエメラルは、背中の四尺刀に手を掛ける。


「エメラル、それってつまり?」

「もちろんよ。この刀を……」


 まさかとは思ってしまった。

 ついにエメラルが四尺刀を抜く。今までまともに見たことが無い。

 完全に奥の手であり、四尺刀をエメラルが抜いた時、姉であるトパーザにも匹敵すると、クロンは言っていた。

 期待して視線を飛ばすと、四尺刀を少し抜いた瞬間、鯉口から溢れる圧倒的な殺意に気圧される。


「ヴァウリヤァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 ロアコボルトも死の香りを感じ取ったらしい。

 急に高らかに吠え始めると、手にしていた大剣を地面に突き刺す。

 身軽にした状態で距離を縮めると、分厚い筋肉の拳を叩き付けた。流石にこれには如何してしまい、エメラルは瞬時にバックステップを取る。


「ちょっと待ちなさいよ……チッ!」


 舌打ちをすると、エメラルは軽やかに躱してみせる。

 元々小柄であり、善戦を張れるアタッカーなエメラルなので、芯を捉えきれない。おまけに全て見切っている。

 きっとこんなこと言ったら「オボロもでしょ!」と怒られるかもしれないけれど、そのおかげで直撃を喰らわずに拳を素早く躱して見せた。全然当たらないので、ロアコボルトの動きを惹き付ける。


「狙われているね、エメラル」

「背後ががら空き」

「そうだね」


 僕とクロンは眼中にさえなかった。

 急に視界からずれて余裕を持つと、ロアコボルトの背後に回り込む。

 これだけ余裕を持てるならきっと援護した方がいい。実際、エメラルはしばらくは持ちそうだよ。


「感心している場合じゃないわよ!」


 だけどムキになって怒られた。

 でもロアコボルトはエメラルにだけ興味津々で、嘲笑うみたいに攻撃を受け流す。

 最小限の動きでロアコボルトを惹きつけ続けると、感心している場合でしかない。


「そうだね。なにか決定的な手段があればいいけど」

「私には無い」

「そうだよね……あっ」


 とは言えエメラルでもそう長くは持たない。

 五分……いや、十分……十五分くらいが限界だと思う。

 何かロアコボルトにダメージを与える方法は無いだろうか? せめてこの暴走状態を覆す方法が欲しい。クロンに死線を置くってダメらしく、持って来たアイテムを確認する。何か特効薬になるようなものは……あっ!


「どうしたの?」

「いいや、少し試したくなったんだよ」


 ポケットから取り出したのは小さな箱。

 中にはアイリッシュに貰った注射器が入っており、中には謎の液体。役に立つとは言われていたけれど、本当に役に立つのだろうか?

 鎮静剤みたいな硬貨なら最高だけど、まさかそんな読んでいたような最高の薬な筈が無いだろう。

 それでも僕は注射器を見た瞬間に嬉々として、ゴクリと喉を鳴らした。


「アイリッシュさん、頼みます」


 試して見たくなった。特異な態度で気配を殺す。

 一応僕には三人の師匠から教わった業があるから、それを駆使すれば……行ける。

 確信と覚悟を以って注射器を手にすると、クロンに援護を任せてロアコボルトに接近した。

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