第70話 ネイルの亡骸
久々の更新になります。
色々あって、この章で終わりです。
「はぁぁぁぁぁッ!」
四尺刀を地面に突き刺し、体を回転させるエメラル。
自分自身を軸にすると、コボルト達を蹴り飛ばす。
重い靴の一撃は、軽く脳震盪を起こす程度には留まらず、頭蓋骨を割っていた。
「それっ。はっ!」
一方僕も負けてはいない。
手にしている二本の短剣。日々の研鑽を垣間見せると、赤と青が交差する。
暗がりの中を駆け抜けると、コボルトの首を的確に落としていた。
スパッ! と容易く最小限の動きで仕留めると、コボルトの数もある程度は減る。
「バウワッ!」
「縛れ。ブラックバインド」
それでも注意は散漫になるものだった。
後ろにも目を付けた様子で、僕達は的確に捌くけれど限界もある。
クロンが要所要所で補助すると、動きを止めてくれていた。
「バウワッ!?」
「ありがとう、クロン」
驚いているコボルト。流石に理解が追い付いていない。
今だと思い飛び出して胸を貫くと、短剣の刃はスッと入った。
シッカリと急所を貫くと、重い体がのしかかる。
「それっ!」
「バウッ……」
蹴飛ばすようにして放り出すと、流石に死んでいた。
もう動かない死骸になると、短剣を抜く。
血をパッと飛ばしてしまい、一旦の平穏を確立させるも、道中だけでも結構な戦いを強いられていた。
「はぁはぁはぁはぁ……流石に数が増すわね」
「そうだね。明らかに、この先になにかあるよ」
エメラルの呼吸が若干乱れている。
かくいう僕も軽口を言うのが限界で、疲れているよりも連戦が多い。
それでも敵対したコボルトは全滅させると、クロンはポーションをがぶ飲みする。非常に嫌そうだった。
「疲れた」
「魔力切れを起こしたら、早くポーションを飲みなさい」
「むっ。それで回復するほど甘くない」
これだけ不味いポーションを飲んでも、自然回復には敵わない。
無理やり作り出した無尽蔵でも無い魔力に支えられている。
ここから先もこのような戦いが繰り広げられれば、Bランクの冒険者とはいえ、少々厄介だろう。
「けれど数の多さは、ロアコボルトに近付いている証よね」
「そうだね。急ごうか」
「分かっているわよ」
これだけコボルトの軍勢が湧いてくる以上、ロアコボルトとの対面は近い。
一応呼吸を整え直すも、早急に倒さない限り、地上が大変なことになる。
そう長くは持たないと思いつつ、僕達は暗闇に溶け込んだ。
「ん?」
暗がりの中を駆けて行く。
そんな折、僕は絶対に見逃がしたりしなかった。
暗闇に溶け込む形で蹲った何か。その脇を通り掛けた時、スッと足を止める。生き物の、人間のものとしか思えない血のニオイが漂った。
「どうしたのよ、オボロ」
「いや、今のって……やっぱりだ」
少しだけ壁際を確認する。
エメラルの眩しさに気が付かなかったかもしれないが、確かに蹲っていた。
改めて確認すると人間であり、冒険者らしい。装備が残っているが、切り刻まれた……と言うよりも、叩き付けられた痕跡が多い。
「遺体ね。結構新しいけれど……まさか!」
「ん? この遺体、爪が折れているね。なるほど、爪状の武器なんだね……エメラル、クロン?」
既に息はしていないが、当たり前のことだった。
死亡してから時間が経っているものの、ごく最近ではある。
よく見る時になるのは鉤爪状の武器であり、本人の爪も長いがどちらも折られている。
「クロン、これってそうよね」
「うん、間違い無いよ」
「間違いないって……顔は潰されているけど、そう言うこと?」
どれだけ察しが悪くても、この反応を見れば分かるだろう。
遺体の顔は潰されていて、判別は付かなかった。
けれど状況証拠的に、ここで戦ったのだろう。その証拠に左右の壁が少し削れており、遺体の人物に二人は心当たりがあった。つまり探していた人物だろう。
「ネイル……」
直視する現実。当たり前の不条理。
目の前にはネイルの遺体が転がっていた。
全身から血が滴り、かなり時間が経った後。そのためか? 既に固まっていた。
流石に欠損している部分が多過ぎる。
今更蘇生など不可能で、もうここに魂は無かった。
奇跡的に身体が繋がっているけれど、後頭部は……言わない方がいい。
とにかく残酷なまでの真実が映し出される。
その場に存在しており、このままではいずれ朽ちてしまうだろう。
もしくはアンデットにでもなってしまうだろうか? そうなる前に燃やした方がいい。
「悪かったわね、助けられなくて」
「エメラル」
「仕方が無いよ。冒険者だからね」
エメラルは悲しんでいた。
ネイルが無事であれば万々歳の結果だったが、そう奇跡は起こりえない。
ベルトのように骨折で済む話ではなく、僕が口走った通り、これは仕方が無いと受け入れるしかなかった。
「そうね。ふぅ……ネイルの遺体は回収するわよ」
「そうだね。その前に……」
冒険者である以上、受け入れる用意は出来ている。だからこそ、そこまで深くは悲しまない。
何よりこれだけ残っているのだから、せめて遺体だけでも回収したい。
それで浮かばれるのならば充分だと、僕も思った。
「もちろん分かってるわよ。ロアコボルトを倒すわ」
やることを見失ってはいなかった。
ロアコボルトを倒さない限り、コボル洞窟は平和にならない。
このままにはしておけないので、ロアコボルト探しに移る。
「とは言え、何処にいるのかしらね?」
「かなり下層まで来たから、そろそろ見つかってもいいよね」
ロアコボルトの姿が全然見つからなかった。
けれどこのままだと、時間だけをただ浪費するしかない。
流石にそんな訳には行かないので、自然と視線がクロンに移る。
「なに?」
「クロン、なにか見つけられるアイテムは無いの?」
クロンに訊ねたのには意味があった。
何せクロンは徹夜をしてでも作り上げた幾つもの魔導具がある筈。
流石に期待してしまったけれど、やり過ぎたらしい。否定的な反応が返る。
「魔導具とかだよ、便利な魔導具。色々作っていたよね?」
「無いけど」
「無いんだね。さてと、どうしようか……」
クロンは攻撃特化の魔法使い。黒魔法が得意だ。
だからこそか? ロアコボルトを見つけるのは骨が折れる。
それでもやるしかないのだが、溜息を付いている暇は無かった。
洞窟の奥底、何かが近付く足音が殺気と共にやって来る。
ズシン! ズシン!
地面を微かに揺らす足音。
一際強い殺気の飲まれてしまいそうにもなる。
これは一体? 不意に視線を預けると、孤独な虚空が口を開いた。
「な、なにか来るね」
「うん」
「そうみたいね。アレが……」
黒い影が揺らめいていた。
一体何者なのかと疑いの目を向けると、仲間を率いることもしない。
ただし天井にも背伸びをすれば届きそうな図体で威嚇しながら近付くそれを、僕達は流石に見過ごせない。
「ロアコボルト」
「ヴァウワァウワァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
口を開いた洞窟の番人。大量のコボルト達を使役するコボルトの中でも上位種。
二足歩行で、かつ一際大きかった。ましてや簡単にだが防具を身に付け、大剣を構えている。
ボロボロになっているのはネイル達が鎬を削ったおかげであり、片目が潰されている。逆に言えば開いた右目は赤く染まり、凶暴性を増していた。これがロアコボルト、如何やら向こうから来てくれたみたいでラッキーとは言えなかった。
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