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お星様でございます(3/4)

花子さんの選択。

 数時間後。

 花子さんは政治家から連絡を貰った路上に一人立っていた。

 病院からは遠い、地球の自転を考慮した小惑星の落下軌道と重なる道路である。

 周りには人っ子一人居ない。

 住民も、警察も、自衛隊すら居ない。

 周辺住民は政治家が手を回して避難済みだった。

 尤も、大半は避難勧告前から、少しでも遠くへ逃げようと批難していたが。

 落下軌道上には、民間機・軍用機を問わず飛んでいる影は無い。

 自衛隊は待機しているが、政治家の指示が無い限り近付くことは無い。

 成功率が低過ぎる上に、被害だけは確実に広範囲に拡散するからだ。


 …つまり、花子さんの案はそれより成功率が高いのである。


「………」


 花子さんはサングラスを外した。

 その切れ長で夜空よりも深い蒼い瞳には、珍しく緊張の色が浮かんでいた。

 彼女は屈伸をしたり、垂直跳びをしたりとウォームアップを始めた。

 あまりにも自然で、速度も高さもあまりにも普通。

 だからこそ遠くから見ていた政治家には、あまりにも不自然に見えた。


 パンッ!


 彼女は両手で頬を叩いて気合を入れた。

 彼女にとって、人生でまだ指数えほどの珍しい行為。

 空を見上げると、彼女の目はまだ成層圏の外にある小惑星を捉えた。


 ドンッ!


 彼女が地面を垂直に蹴ると、足元のコンクリートが砕け散った。

 砕け散った多数のコンクリートの破片を空中で掴み、それから前方上空に向けて続けて放り投げた。

 刹那、彼女は身体を落とし、クラウチングスタートの要領で走り出していた。


 ――ドッ―ドッ―ドッ―ドッ―ドッ―ドッ――


 彼女が一歩踏み出すごとに地面が割れ、音すら置き去りにして道路を前へ、前へと駆け抜けていく。


 ドゴンッ!!


 一際大きい音を残し、彼女の巨体が高く飛ぶ。

 地面には巨大なクレーターが出来、数メートル離れた道路脇の建物までが衝撃波でひび割れていく。

 そして巨体が落下するよりも早く、


 ガッ!


 最初に放り投げたコンクリートの破片を踏み台にして、更に高く飛んだ。

 巨体が飛ぶほどの反動は凄まじく、蹴られた破片は物凄い速度で地面に衝突すると、小隕石の墜落も斯くやというクレーターを作って砕け散った。


 ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ………


 破片を次々に踏み台にして、花子さんの巨体が天高く昇っていく。

 オゾン層を越え、成層圏を越え、中間圏を越え、カーマンラインをも越えてオーロラが見える頃には、小惑星も外気圏を抜けて間近に迫っていた。

 千載一遇のチャンス。

 恐るべきは地球の自転も小惑星の落下も投石も何もかも計算し尽くした頭脳か、それを可能にした人知を超えた身体能力か。

 しかし、力が入り過ぎたのか、最後のコンクリートの破片は花子さんよりも、そして小惑星よりも上に浮かんでいた。

 否。

 これが、これこそが完全で完璧で完成されたタイミング。


 ぐるんっ!


 花子さんは小惑星を越えて反転すると、最後のコンクリートの破片の間近で地球の重力に捕まり、


「天障院――」


 破片を下から全力で蹴り、


「――ライトニングゥ…」


 更に反転した花子さんの巨体が重力と反動を伴って、


「…ゥシュートォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 流星の如く摩擦熱の炎を纏って、小惑星に右足の裏から叩きつけられた。



 ズドンッ!!!!!!!!!!



 そのあまりの衝撃に、巨大な質量の塊である小惑星の落下速度が、目に見えて加速する。

 しかし花子さんの目に焦りは無い。


 メキッ!


 彼女の足元から小惑星に亀裂が入り、


 メキメキメキメキッ…


 亀裂は小惑星全体を縦横無尽に奔り、



 ドッカーーーーーーーーンっ!



 終には小惑星は砕け散った。

 砕け散った小惑星の欠片が地上に降り注ぐ。

 しかし、その欠片は大きい物でも数十センチに過ぎず、全てが大気圏で燃え尽きた。

 地球は…日本は救われたのだ。

次は直ぐです。

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