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お星様でございます(2/4)

小惑星の脅威。

「…番組の途中ですが、緊急速報です。政府は本日未明、非常事態宣言を発表しました」


 そのニュースは最初、誰も真面目に受け止めていなかった。

 あまりにも現実感が無かったからだ。

 隣国が戦争を開始したと報道されても慌てないような危機感の無さは、何も日本人に限った話では無い。


「…米航空宇宙局の報告では、小惑星MX666は地球衝突コースに入り、衝突は避けられないとのことです…」


 例えば、『明日、地球が滅びます』と言われても、一体どれだけの人間がそれを信じると言うのか。

 馬鹿にされるのが嫌で深く考えない者が多数だろう。


「…落下予想地点は…えっ?! これ言っても良いんですか!?」


 横から渡された速報の資料を読み上げていたニュースキャスターが、驚いて思わず素でカメラとは別方向に詰問してしまった。

 明らかに放送事故である。

 番組は直ぐに放送中止となり、昭和からの伝統の『しばらくおまちください』の画像が表示される。

 間も無く、放送は何事も無かったかのように再開されたが、


「…失礼いたしました。落下予想地点は日本ですが、全長333メートルの小惑星MX666が落下した場合、地球全土に少なからぬ影響があるものと予想され…」


 少なくない視聴者が気付いた。

 その突拍子も無いニュースが、エイプリルフールでもドッキリカメラでも無いことに。

 地球に…日本に小惑星――隕石――が落下するのである。


「…専門家の話では…」


 直ぐに気付かなかった者たちにも、不安は徐々に、そして加速度的に伝搬していく。

 オイルショックの時に、トイレットペーパーを買い込む人を見て危機感を煽られた人たちが、釣られて買い漁った時のように。


「…政府は自衛隊による迎撃を立案…」


 最初にパンクしたのは旅行会社の電話回線だった。


「…国民の皆様には、慌てず、落ち着いて行動していただきたく思います」


 一般の電話回線がパンクする頃には、勝者と敗者の明暗がはっきりと分かれていた。

 金持ちは早々に飛行機の予約を取り、或いは自家用飛行機の調整を始め、持ち出す財産の選別に勤しんだ。

 飛行機の予約を取れた一般人も大差ない。

 外国行きの船は飛行機に比べると圧倒的に数が少なく、もっと早く埋まった。

 自前のクルーザーで大陸に逃げようとした者も一定数居たが、密入国や言葉の壁を考える余裕のあった者は更に少ない。

 国外に逃げられない人々も黙っては居ない。

 空港や港、旅行会社の窓口などで喚き散らす者、保存食などの買い占めに走る者、現実を受け入れない者、神や仏に祈る者、もう助からないと犯罪に奔る者など様々だった…。


***


(…四神(しかみ)は知っていたざますか)


 本家からの連絡を受けた花子さんは、珍しく内心で悪態を吐いた。

 天障院の本家に当たる四神は、この事態への対処を不可能と判断して、自前の地下シェルターに避難すると言う。

 末端の分家に過ぎない天障院に席は無い。

 見届けろとの指示だが、従う義務は無い。

 氏族とて、従わなかったからと言って、末端を態々潰そうとするほど無能でも暇でも無いので、末席から外されて、上流階級との繋がりや出世が無くなるだけだ。

 そして彼女は、元からそのどちらも捨てている。


(せめて身重の母や華蓮を避難させてくれるなら、喜んで指示に従うざますが…)


 彼女が案じるのは家族の安否。

 それ以上でもそれ以下でも無かった。

 仮に彼女の母や妹が本家の地下シェルターへ受け入れられたとしても、快く扱われはしないだろう。

 彼女は自分の無力さを痛感する。

 どんなに言葉を尽くしても。

 どんなに心を歩み寄っても。

 どんなに身体を鍛えても。

 宇宙から飛来する小惑星――隕石――の前では無力だ。


 走馬灯のように家族や病院の同僚、患者たちの笑顔が脳裏を過ぎる。

 母や華蓮、看護婦たち…。

 幽体離脱をしていた少女、伴侶を見つけたアイドル、解放された女子大生、いつもマスコミから逃げて来る政治家、母性に目覚めたママさん、服役中の記者、失恋した優等生、姐御と呼んでくる暴走族、悪戯好きの子供…。


(!)


 彼女は天啓が閃いた、と同時に覚悟も決まっていた。

 出来る確証は無いが、何もしなければ可能性はゼロなので迷いは無かった。

 直ぐに電話を掛ける。


「もしもし、伊澄さんざますか?」

「…初めてだな、お前の方から電話を掛けて来るなんて。知っていると思うが今は忙しい。要件は手短にしてくれ」

「お願いがあるざます」


 花子さんのお願いの内容を聞いた政治家は、我知らず獰猛な笑みを浮かべた。

 隣に控えていた秘書が思わず絶句するほどの。


「…分かった。俺に任せろ」

「頼んだざます」


 電話を切った彼女は目を瞑り想いを鎮め、静かにその時を待つ。

 親しい人たちへの遺書の用意も、別れの言葉も無い。

 それが彼女の、必ず成功させると言う覚悟の現れだった。

続きは09:00頃投稿予定です。

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