表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/35

妹でございます(後編)

婦長さんの妹のお話。

 天障院華蓮。

 日和見病院の婦長である天障院花子の妹。

 空手の全国大会、小学生の部において無敗。

 毎年テレビにも映っていた。

 また、その愛らしさにも定評があり、レポーターが彼女のことを100人に尋ねたら、勢い余って1000人が美少女と答えたと言うのは、あまりにも有名な逸話である。


「え? 小6なの?!」


 ピキッ。


「…小さくてわるかったですね?」


 年齢を聞いて思わず口にした新人看護婦に、華蓮が笑顔で反応する。

 年齢の割りに小柄なことを気にしているのだ。

 花子さんが大きいこともあって、彼女はよく年齢よりも幼く見られる。


「気付いたら年下にも抜かれているこの悲しみ…、一体どこにぶつけたら…」

「ちょ、ちょっと落ち着こうね、華蓮ちゃん?!」


 小さな拳を震わせて見つめている華蓮を、新人看護婦は慌てて止めた。

 彼女の脳内では、華蓮に殴られて壁の染みになる彼女の姿が上映されていた。


「そう言えば、今日は何の用事で来たざますか?」


 婦長さんが助け舟を出した。


「あっ、そうだ」


 華蓮は病院に来た目的を思い出し、物陰に隠しておいた手提げ籠から弁当を取り出した。

 二段重ねの、婦長さん愛用のお弁当箱だ。


「はい、お姉ちゃん」

「あら、ありがとうざます」


 食堂で食べるつもりだった婦長さんは、感謝して弁当を受け取った。


「婦長さんが弁当を忘れるなんて珍しいわね」

「お母さん、今朝は具合よく無かったからね」

「じゃあそのお弁当は…」

「うん! あたしの手作り!」


 看護婦の予想に、華蓮は元気よく答えた。

 もう世間は夏休みである。

 そうで無ければ、彼女が弁当を作って持って来ることは出来なかっただろう。


「あらやだ、可愛い。うちの子にならない?」

「駄目ざます。やらないざます」


 年配の看護婦――荒間――の手を婦長さんの手が軽く払う。


「あら残念」


 荒間はあっさり引き下がる。

 彼女も人の親。

 この手の話は冗談で済ませる。

 …例え本心であっても。


「ふふ~ん♪ あたしが欲しければ最低でもお姉ちゃんに勝ってからにしてね♪」


((((((無理だ))))))


 華蓮が惚気た瞬間、姉妹を除く全員の心が一つになった。

 自分より強い男と言わないあたり謙虚なのかもしれないが、誰なら婦長さんに勝てるのだろうかと看護婦たちは訝しんだ。


「そう言えば、お母さんは一人にして大丈夫?」


 看護婦の一人が話題を逸らした。


「別に病気とかじゃないよ。出産が近いから時々辛そうにしてるだけなの」


 華蓮は少し困ったように答えた。


「婦長さんのお母さま、おめでたなの?」

「…知らなかった。婦長さん、あんまりお家のこと話さないから…」

「言い触らすことでも無いざましょ。まだ予定には早いのに、変に気を遣われても困るざます」


 婦長さんは面倒臭そうに言った。


「華蓮ちゃんは弟と妹、どっちが欲しい?」

「どっちも!」


 両親が身籠った子供への定番の質問に、華蓮は間髪入れず答えた。

 既に性別は検査で判明しているが、彼女が楽しみにしているので母親も婦長さんも黙っていた。


「名前も考えなきゃね」

「うん! 今度はあたしが名前を考えてあげるんだ」

「今度は?」


 華蓮の異様なやる気に疑問を覚えた新人看護婦が尋ねた。


「うん。あたしの名前はお姉ちゃんが付けてくれたの」

「へぇ~、意外ねぇ」


 他の看護婦たちも頷く。


「だってお母さんに任せてたらどんな名前になっていたか…」


 深刻な表情をする華蓮を見て、看護婦たちは想像した。

 昭和末期に花子と名付けるセンスである。

 彼女たちの頭には、正子とか静子とかになる可能性しか思い浮かばなかった。


「お姉ちゃんには感謝してます。一生頭が上がらないよ~」

「こらこら」


 冗談めかして両手を合わせて拝む真似をする華蓮に、婦長さんは苦笑しながらツッコミを入れた。


「それにしても、三人とも兎年と言うのも珍しいわよね」

「え?! …花子さん24歳だったの?!」


 これには新人看護婦以外も今更気付いて驚いた。

 天障院姉妹の話題で盛り上がっている中、誰も見ていない控え室のテレビから不穏なニュースが聞こえて来た。


「……次のニュースです。米航空宇宙局は本日未明、周回軌道を逸れた小惑星MX666が地球に衝突する危険性があると発表しました。小惑星MX666は…」




 つづく。

普通に次回に続きます。


次は明日の08:00頃投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ