妹でございます(後編)
婦長さんの妹のお話。
天障院華蓮。
日和見病院の婦長である天障院花子の妹。
空手の全国大会、小学生の部において無敗。
毎年テレビにも映っていた。
また、その愛らしさにも定評があり、レポーターが彼女のことを100人に尋ねたら、勢い余って1000人が美少女と答えたと言うのは、あまりにも有名な逸話である。
「え? 小6なの?!」
ピキッ。
「…小さくてわるかったですね?」
年齢を聞いて思わず口にした新人看護婦に、華蓮が笑顔で反応する。
年齢の割りに小柄なことを気にしているのだ。
花子さんが大きいこともあって、彼女はよく年齢よりも幼く見られる。
「気付いたら年下にも抜かれているこの悲しみ…、一体どこにぶつけたら…」
「ちょ、ちょっと落ち着こうね、華蓮ちゃん?!」
小さな拳を震わせて見つめている華蓮を、新人看護婦は慌てて止めた。
彼女の脳内では、華蓮に殴られて壁の染みになる彼女の姿が上映されていた。
「そう言えば、今日は何の用事で来たざますか?」
婦長さんが助け舟を出した。
「あっ、そうだ」
華蓮は病院に来た目的を思い出し、物陰に隠しておいた手提げ籠から弁当を取り出した。
二段重ねの、婦長さん愛用のお弁当箱だ。
「はい、お姉ちゃん」
「あら、ありがとうざます」
食堂で食べるつもりだった婦長さんは、感謝して弁当を受け取った。
「婦長さんが弁当を忘れるなんて珍しいわね」
「お母さん、今朝は具合よく無かったからね」
「じゃあそのお弁当は…」
「うん! あたしの手作り!」
看護婦の予想に、華蓮は元気よく答えた。
もう世間は夏休みである。
そうで無ければ、彼女が弁当を作って持って来ることは出来なかっただろう。
「あらやだ、可愛い。うちの子にならない?」
「駄目ざます。やらないざます」
年配の看護婦――荒間――の手を婦長さんの手が軽く払う。
「あら残念」
荒間はあっさり引き下がる。
彼女も人の親。
この手の話は冗談で済ませる。
…例え本心であっても。
「ふふ~ん♪ あたしが欲しければ最低でもお姉ちゃんに勝ってからにしてね♪」
((((((無理だ))))))
華蓮が惚気た瞬間、姉妹を除く全員の心が一つになった。
自分より強い男と言わないあたり謙虚なのかもしれないが、誰なら婦長さんに勝てるのだろうかと看護婦たちは訝しんだ。
「そう言えば、お母さんは一人にして大丈夫?」
看護婦の一人が話題を逸らした。
「別に病気とかじゃないよ。出産が近いから時々辛そうにしてるだけなの」
華蓮は少し困ったように答えた。
「婦長さんのお母さま、おめでたなの?」
「…知らなかった。婦長さん、あんまりお家のこと話さないから…」
「言い触らすことでも無いざましょ。まだ予定には早いのに、変に気を遣われても困るざます」
婦長さんは面倒臭そうに言った。
「華蓮ちゃんは弟と妹、どっちが欲しい?」
「どっちも!」
両親が身籠った子供への定番の質問に、華蓮は間髪入れず答えた。
既に性別は検査で判明しているが、彼女が楽しみにしているので母親も婦長さんも黙っていた。
「名前も考えなきゃね」
「うん! 今度はあたしが名前を考えてあげるんだ」
「今度は?」
華蓮の異様なやる気に疑問を覚えた新人看護婦が尋ねた。
「うん。あたしの名前はお姉ちゃんが付けてくれたの」
「へぇ~、意外ねぇ」
他の看護婦たちも頷く。
「だってお母さんに任せてたらどんな名前になっていたか…」
深刻な表情をする華蓮を見て、看護婦たちは想像した。
昭和末期に花子と名付けるセンスである。
彼女たちの頭には、正子とか静子とかになる可能性しか思い浮かばなかった。
「お姉ちゃんには感謝してます。一生頭が上がらないよ~」
「こらこら」
冗談めかして両手を合わせて拝む真似をする華蓮に、婦長さんは苦笑しながらツッコミを入れた。
「それにしても、三人とも兎年と言うのも珍しいわよね」
「え?! …花子さん24歳だったの?!」
これには新人看護婦以外も今更気付いて驚いた。
天障院姉妹の話題で盛り上がっている中、誰も見ていない控え室のテレビから不穏なニュースが聞こえて来た。
「……次のニュースです。米航空宇宙局は本日未明、周回軌道を逸れた小惑星MX666が地球に衝突する危険性があると発表しました。小惑星MX666は…」
つづく。
普通に次回に続きます。
次は明日の08:00頃投稿予定です。




