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アイドルでございます(4/5)

入院アイドルを襲う謎の陰。


 夜中。

 拓巳は寝苦しさに魘されて目が覚めた。

 消し忘れたのか、電気が点いている。

 汗を拭こうとしたが、手首に何か引っかかって、腕が少ししか動かない。

 寝ぼけた頭で、何も考えずに逆の腕を動かそうとしたがこちらも動かなず、そこで初めて異変に気付いた。

 彼の両手両足は縄でベッドの端に結ばれていたのだ。


 ぴちゃっ。


 病室には似つかわしくない水音が聞こえた。

 彼が首を巡らせると、股の間に女が居て、彼の股間のモノをアイスキャンディーのように頬張っている。


は、はふひふんほひた(あ、たくみくんおきた)?」


 彼は何が起きているのか理解した。

 女にベッドに縛られて性的に襲われているのだ。

 彼は女に見覚えが無かった。

 仮にもトップアイドルだ、一緒に仕事をしたことのある芸能人なら忘れるはずが無い。


(芸能人じゃない。スタッフの誰かか?)


 もう少し記憶を掘り起こしてみると見覚えがあった。

 ファンの一人である。

 トップアイドルともなればファンの数は万では済まず、ファンだって成長もすれば老けもするので、直ぐに判別が付かないのは当たり前だ。

 しかし、何度も足繁く握手会に来るような重度のファンは別だ。

 そういうファンは大抵二つに分類できる。

 一つは非公認の後援者として、アイドルが事務所を離れて独り立ちしたり事業展開したりする時に協力して支えになるタイプ。

 もう一つはあくまで個人で動く狂信的に付き纏う――後に言うストーカー――タイプ。

 この女は後者だった。


「うっ!」


 彼が達すると、女は嬉しそうに目を細めて、口の中に出た白濁液を味わってから飲み干した。

 女の顔が離れて外気に晒され、彼は今更ながら下半身が露出していることに気付いた。


「拓巳くん、おはよう」

「あぁ、おはよう」


 笑顔で挨拶をする彼女に、彼も笑顔で返した。

 大したプロ根性である。


「あたしも見たよ」


 何がとは尋ねない。

 アイドルの熱狂的なファンが見たと言うのならアイドルのことしか無いし、入院している彼の何を見たかと言えば、それは決まっていた。


「拓巳くん、かわいそう」


 そう言われて彼は嫌な予感がした。


「仕事なのに勘違いするなんて最低だよね」


 予感が確信に変わっていく。


「でも大丈夫だよ。あたしは知ってるから」


 何を知っていると言うのか。


「あんな女の相手もアイドルだから仕方ないよね」


 雑誌に投稿した承認欲求の強い女のことだ。


「いつもあたしを見てくれてるよね。テレビでも、雑誌でも、コンサートでも…」


 その視線はカメラや多数のファンに向けたもののはずだが、


「拓巳くんの一番はあたしだって分かってるから許してあげる」


 何を彼女に許してもらう必要があると言うのだろう。


「だから…ね? ……しよ?」


(…何故そうなる?!)


 彼は彼女の言っている理屈は分からないが状況は把握した。

 雑誌やテレビを見て彼の情事を知った彼女は、彼の一番である自分が彼との関係を持っていないことに不満を感じて強硬手段に出たのだ。


 つぷ…


 彼の返事を待たず、二人の身体は繋がった。

 彼女の中では、見つめ合って気持ちを確かめ合った彼が、無言で返事をしたことになっていた。

 彼女が自分の胸を揉み、喘ぎながら彼の腰の上で腰を振って跳ねる。


「…拓巳くんっ、…気持ち…いいっ?」


 彼は今までで最高の快感を味わいながらも不満だった。

 確かに状況は理解したし、入院生活で性欲も溜まっていたし、彼女は初めてにしては上手くて具合も良いし、ついでに言うと彼のストライクゾーンだった。

 しかし、彼に縛られる趣味は無かった。

 枕営業で散々色々な接待プレイを強要されたせいで、ベッドでの受け身は嫌な思い出が多過ぎたからだ。

 もし彼女が素直に告白していたら、普通に――世間からは隠れて――付き合ったかもしれないが…。


「安心してっ、ねっ。もう誰にも渡さっ、なぃっ、からぁっ!」


 押し寄せる快楽に流されて、「もうどうでも良いか」という考えが彼の脳裏を過ぎった時に、


「…だから一緒に……死の?」

「………へ?」


 彼女の両の手が、彼の首に回された。

 彼の上で腰を振りながら、器用に彼の首を絞め上げていく。


「大丈夫っ! …ずっとっ! …一緒だっ、ぁからっ…!」


(思い出作りに付き合うのは構わないが、殺されるのは勘弁だ!)


「あんっ! うれっ…しぃ! もっとぉ! ……もっと来て!」


 彼の思考は息苦しさで快楽から現実に引き戻されたが、身体はまだ快楽を教授している。

 縛られた手足では彼女を振り解くことは叶わず、多少身体を動かしたところで、腰の上の彼女を喜ばせるだけだった。

 彼女を逆上させないために下手なことを言わなかったのは、正しかったのか、間違いだったのか。


(これが俺の最期か…)


 実は彼にはあまり後悔が無かった。

 トップアイドルになれた。

 憧れた芸能人と一緒に仕事が出来た。

 気に入った女も抱けた。

 嫌なことも沢山あったが、それも自分で選んだ道だ。

 『ファンに逆レイプされた末に無理心中されたバカなアイドル』と世間は彼を嘲うだろうが、彼に取ってそれさえ後悔に値しない。

 死後、彼の遺産の半分は親に、残り半分は寄付されることになっていた。

 彼はそれをボランティアとは考えていない。

 やりたいようにやった世界への恩返し、正当な対価だと思っていたからだ。

 …しかし現実は非情である。


 バキンッ!


 病室のドアが鍵を壊しながら開け放たれる。


「大丈夫ざますか!」


 彼の死は認められなかった。

 彼女の悲願は許されなかった。

 この日和見病院という場所では、凡ゆる理不尽は更なる理不尽によって粉砕される。

 天障院花子という理不尽によって。


 婦長さんは即座に状況を把握し、次の瞬間にはベッドの上で彼に馬乗りの女に当て身を喰らわせて気絶させていた。


(最近の理不尽はナース服を着てるんだな…)


 理不尽だらけの芸能界でアイドルの頂点を極めた男は、首絞めから解放されて酸素の供給が再開された頭でそんなことを考えていた…。

次も直ぐです。

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