アイドルでございます(3/5)
頑張るアイドルの話の続き。
「入るざます」
浮かれた様子の無い静かな声を掛けられた拓巳は不思議に思ったが、その姿を見た瞬間にそんな疑問は忘れてしまった。
(………)
彼も芸能人だ、変わった見た目の人間は見慣れているし、何なら彼自身もバラエティー番組で酷い仮装をしたことは一度や二度では無い。
しかし、その彼をして声の主は言葉を奪うほどの見た目をしていた。
咄嗟の状況でも慌てたり驚いたり、変な声を出したりといった醜態を晒さずに済んだ彼は、正しくトップアイドルの器と言える。
(そう言えば先日食べたファンが、親がプロレスラーだとか自慢してたけど、捨てたのがバレてお礼参りか?)
酷い濡れ衣である。
そのファンは一夜の思い出に満足しているし、プロレスラーなのは父親の方であり、婦長さんより縦も横も一回り以上小さい。
「検温の時間ざます」
(あぁ…よく見たらナース服だ。これでも女だったのか)
「やあ、ありがとうね。サインは何処にすればいいかな?」
体温計を受け取った彼は、婦長さんのことを一度見たら忘れられない容姿から初見だと判断した。
「サインざますか? 入院手続きの署名なら既に終わっているざますよ」
(マジか、この女? 俺に全く興味が無いのか)
首を傾げる婦長さんに、彼は新鮮な衝撃を覚えた。
彼の自慢の容姿は甘いマスクに加え、かなりの高身長で時代を先取りした感のある細マッチョ。
背が低めな一般的な日本人女性は元より、高身長な体育会系の女性にも受けが良い。
それでも、
(…あ、うん、俺の筋肉なんてこの女に比べたら鶏ガラだな)
比べる相手が悪かった。
彼には婦長さんの好みは分からなかったが、ご機嫌取りが要らないなら好都合、バカなファンを相手にするより気が楽だと考えることにした。
次は直ぐです。




