アイドルでございます(1/5)
みんな大好きアイドル回。
「トップアイドル東條拓巳が緊急入院!」
大袈裟なテロップがテレビに流れた。
その日のニュース番組は何処も彼処も彼の話題ばかり。
それもそのはず、彼は屈託のない甘いマスクと喋りで男女問わず人気があり、最近のドラマには必ずと言って良いほど出演、年末の紅白歌合戦にも毎年出場するような飛ぶ鳥を落とす勢いの実力派アイドルなのである。
先日リリースした新曲もオリコンチャートで一位になったばかりだ。
それが急に入院したとなれば話題にもなる。
しかし良い話題ばかりではない。
『東條拓巳、ラブホテルで若い女性と密会?』
昨日、ゴシップ雑誌で女性とホテルに入る写真が公開された。
トップアイドルらしく、付き合っている女性はいないと公言しているので、ショックを受けたファンも少なくない。
他にも、女性がピースサインをしている横で彼が寝ている写真も掲載されていた。
勿論、一般人である女性の目線には黒塗りがされ、特定されないように配慮がなされている。
出版社の「市民の味方ですアピール」は万全だ。
テレビ局も、キャスターが情報を朗読している間中、画面の背景では彼の歌って踊っている姿を流して、視聴率稼ぎに余念が無い。
捏造記事だと認めないファンも少なくない。
入院はこれが原因で、熱りが冷めるまで隠れたのだと揶揄する意見も多い。
真実はどうあれ、好き好んでマスコミのこの手の質問に答えたい人間はいないだろう。
尤も、事務所が手回しをして入院したのは事実なのだが…。
***
――日和見病院。
某県某市の片隅にある、ごく普通の総合病院。
そこには、ごく普通の建物があって、ごく普通のお医者さんが居て、ごく普通の診療が行われていました。
ただ一つ普通と違っていたのは…婦長さんは――だったのです!
***
「ねー、ねー! たくみ君見た?」
「見た見た! 可愛かったよねえ~」
「イケメンよイケメン!」
「私がもう少し若かったらなー」
「サイン貰っちゃった!」
「あ、忘れてた! 今度貰わなくちゃ!」
姦しい看護婦が控え室に戻るなり放った第一声で、控え室は特別病棟に入院した若いアイドルの話題で持ち切りになった。
「はいはい、仕事仕事。アイドルも良いざますが、仕事に差し支えないようにするざます」
やはりこういう時に仕切るのは婦長さん。
「固いな~。ちょっとくらい良いじゃん」
「サインとか挨拶くらいは良いざますが、相手は仮にも患者さん。それを忘れては駄目ざますよ?」
「は~い」
イケメンに嫌われては元も子も無いし、婦長さんの言葉は尤もなので、看護婦たちは素直に仕事に戻った。
次、直ぐです。




