政治家でございます(中編)
腹黒政治家の中編です。
長くなったので4分割になりました。
「市の未来に…」
「「「「「「「かんぱ~い」」」」」」」
ちょっとした料亭の一室。
政治家である彼と地元の関係者だけの細やかな飲み会。
市の未来と銘打ってはいるものの、中身は時々やっている只の慰労会。
その為、芸人は呼んでも、娯楽でネタにされがちな特別なお楽しみなどは無い、極々普通の健全な宴だった。
「あの件、思ったよりあっさりいきましたな。流石は伊澄氏」
「いえいえ、皆さんと、何より市民の皆様のお陰です」
実際、彼は当選以来上手くやっていた。
市民の前によく顔を出し、イベントにも積極的に参加し、親近感を誘った。
遊び過ぎと批難させない為に、先代以上に仕事も熟し、経過や結果をインターネットで公表した。
時間が足りなければ部下やスケジュールを使って作った。
善意のボランティアと言えば聞こえは良いが、関係者は事実上の労働基準法違反だ。
「料理をお持ちしました」
地元の公共事業を独占していた談合も潰した。
公正に競り落とした者から感謝されても、何も要求しないことで、彼らから自発的に法的に引っかからない見返りを寄進させた。
ゴシップ記事も作れないよう手を回している。
ドンへの献金も一切躊躇していない。
「おっ? 器が空じゃないか。注ぎますよ」
「これまたどうも」
その結果、市の財政は潤って上手く周り、市民の生活は良くなっている。
清濁併せ吞むどころか、汚い部分の方が多いのだが、誰も損はしていなかった。
不当な利益を得られないことを損をしたなどと宣う、盗人猛々しい連中の妄言を除けば。
…だからだろう。
パンッ!
料亭を出たところで、政治家が拳銃で撃たれた。
襲撃者は見るからに堅気では無い日本人男性。
恐らくはチンピラか暴力団員。
直ぐに警護官が応戦する。
「きゃーーーっ?!」
料亭の外を歩く通行人から悲鳴が上がる。
パンッ! パンッ!
「騒ぐんじゃねー! 逃げたり騒いだりしたら撃つぞっ!!」
襲撃者は通行人の足元にも拳銃を撃った。
コンクリートの地面で跳弾して誰かに当たり、また悲鳴が上がる。
彼らは救急車や警察が来るまでの時間を少しでも遅らせるつもりなのだ。
(…不味いな…まあ逆恨みの怨恨か……)
政治家は腹部の激痛に襲われながら考えた。
恨まれる覚えは少なくない。
地元の選挙のライバル、談合を再開したい企業、それに恩を売って天下り先の席を確保したい下っ端議員…。
いずれも彼が議員であるかぎり難しい。
しかし、彼を確実に殺すつもりなら、もっと良い方法が幾らでもある。
つまり、これは彼への警告であると共に、彼に続こうとする者たちへの警告でもあるのだ。
良く言えば「和を乱すな」、言葉を飾らずに言えば「俺たちのルールに逆らう者は許さない」と言う意味だ。
彼が死ななくても別に構わないのである。
(…これは死んだな…)
彼は敷地内に駐車場のある料亭にすれば良かったかと思ったが、直ぐにその考えを否定した。
それなら広い敷地内で襲われただけだ、大勢に変わりは無い。
政治家は遠ざかる意識の中で、秘書が遺書を上手く活かしてくれることを願った…。
間も無く後編を投稿します。




