ママ友でございます(後編)
自転車ママさん後編です。
数日後。
ピーポー、ピーポー、ピーポー!
日和見病院に救急車が到着した。
救急車は通常、近い順に患者に適した病院の受け入れ確認を行うので、長閑な地域にあるこの病院に搬送されることは多くない。
しかし、今回はその数少ない搬送であり、何時に無く慌ただしかった。
救急車から担架に乗って運び込まれる患者は小さい。
どうみても未就学児である。
付き添いの女性たちは、受け入れ指示をしている婦長さんを見つけて泣き付く。
「助けて! うちの子を助けて!」
「お願いします! お願いします! お願いしま………」
自転車暴走ママさんたちだ。
「何があったざますか?」
婦長さんはテキパキと看護婦と救急隊員に指示を出しながら、彼女たちに事情を尋ねた。
勿論、既に救急車から説明を受けているので、本来であれば聞く必要は無い。
それどころか、無駄に時間を取られることになれば、患者を危険に晒すことになりかねない。
それでも、彼女は指示の合間合間を見て、救急に一切の遅延をさせることなく彼女たちの相手をした。
「ぐすっ…こいつが…! こいつが、うちの子に突っ込んで…!」
「仕方なかったの…! 見えなかったの…! 止まれなかったの…!」
彼女たちの説明は要領を得なかった。
端的に纏めると、片一方のママさん――吾狸叉――の子供が歩道を歩いているところに、もう一人――夜依――が自転車で突っ込んで車輪に巻き込んだのだ。
完全に過失である。
自転車で事故なんて珍しいと思われがちだが、実は珍しくも何とも無い。
仮に一千万台のママチャリが毎日10人の歩行者に対して危険運転を行えば、毎日一億回の事故ガチャである。
個人でも年に三~四千回だ。
自分は絶対に大丈夫と言って良いのは、万に一つもミスをしない人間だけだろう。
「お前のせいだ! お前がちゃんと避ければ! お前のせいで…!」
「…ごめんなさい…ごめんなさい……」
吾狸叉が拳を振り上げ、夜依が謝りながら怯える。
夜依の顔が腫れ上がっているのは、既に何度か殴られたからだった。
それでも彼女が逆切れをしないで謝っているのは、自転車に巻き込まれた親友の子供の惨状を見てしまったからだ。
「喝ーっ!!」
婦長さんの大声にびっくりして、彼女たちの批難と謝罪が止まった。
「騒いでもお子さんは助からないざます!」
怒鳴られて一瞬我に返った二人は責任転嫁を止めて、先程以上に必死に懇願し始めた。
「うちの子を助けて! 反省するから! もうバカなことはしないから!」
「お願い! 私も何でもするから!!」
婦長さんは震える二人の肩に手を置いて断言した。
「任せるざます!」
二人の涙腺が一気に緩み、目元に涙が溢れる。
「…患者が誰であれ、私たちは全力を尽くすざます…!」
((菩薩さま…))
二人は振り向いて手術室に入っていく婦長さんの後ろ姿に菩薩を見た……。
***
子供の手術は無事に成功した。
流石に退院までは少し時間が掛かったが、後遺症の心配も無かった。
そして、
「こらっ。信号が点滅したら止まる」
ママさんたち――吾狸叉と夜依――は仲直りし、今では見知らぬ子供にも注意をするほど交通ルールに厳しくなった。
勿論、もう自転車で危険運転などもしていない。
これには彼女たちに注意したこともある若い警察官もニッコリ。
話では聞いていても事故の惨状を直接見ていない魅玲遊は、退院後、二人に注意されて目を白黒させることになるが、それはまた別の話である。
めでたし、めでたし。
事故の詳細描写は今後も避けたいです。
名前は今までで一番ネタ度が高かと。
次は明日の08:00頃投稿予定です。




