表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵と殺し屋の幼馴染  作者: 平井 瑛太
潜入捜査の秋
6/7

第3章  真実

プロローグ 第3章


 ボクとカナは、手洗いから戻ってくると、会議が行われてる部屋の前に、片山巡査部長が立っていた。

「事件のあらましは知ってるんでしょ?」

「はい。大体は。」

「じゃ、もういいよね。会議の方は。」

「えぇ。まぁ。」

「今、捜査の分担を決めてるけど、私たちは捜査にでも出かけましょうか?」

「そうですね。とにかく、もう一度現場を精査したいです。」

「そう。じゃ、現場に行こっか。」

そう言うと片山巡査部長は、鼻歌交じりに署の廊下を進んでいった。ボクとカナはそれに黙ってついて行った。

 現場の北星川の河川敷は規制線で立ち入りが広範囲にわたって制限されていた。これなら、ボクたちの顔を知っている報道陣もボクたちが来たことには気づけないだろう。それに今、ボクたちはスーツに身を包んでいるし、帽子もかぶっている。腕には捜査一課の腕章、スーツの上着の襟には捜査一課のバッジも輝いている。

「ホントに二人、本物の刑事みたいに見えるね。」

「そうですか?」

「うん。捜査一課に居そう。」

「ふふふ。いつかそんな日が来るかもしれませんね。」

「楽しみにしておくよ。じゃ、どこに遺体があったの?」

「ここです。」ここです。そう言ってボクは遺体を見つけた場所を指さした。

「ここか・・・。」

「で、ここが拳銃が落ちていた場所だよね。お姉ちゃん。」

「うん。そうだな。」さっきまで組織の陰におびえていたカナ———今は真だが———も少しは落ち着いたようだ。いつもの完璧な演技の真に戻っている。

「拳銃?」

「凶器のです。」

「あっあれも二人が見つけてたの?」

「えぇ。」

「でも、他に手掛かりはなさそうだね。」真がつぶやく。

「うん。そうだね。」確かに、被害者が倒れていた周りには何も落ちていたり荒れたりした跡もないのだ。

「じゃ、被害者の家を調べてみたいんですけど、いいですか?」

「ちょっと待ってね。パトに戻ってから———」

「———本部長に確認する、ですよね?」

「ハハハ。うん。そうだよ。じゃ、パトに戻りましょう。」

「はい。」

そして、ボクと真は、片山巡査部長の運転するパトに乗って被害者の女性の自宅へ向かった。












第3章 真実

 「ただいま。」

ボクは、とっぷり日が暮れたころ、ようやく自分の部屋に戻ることができた。

あの後、警察による現場検証が始まった。部屋には電気が通っておらず、懐中電灯を使って、昼でも薄暗い部屋の中を捜索した。大麻の鉢植えの周りには被害者の遺留品とみられる学生証や財布、スマホ、それにバックが落ちていた。そして、検視の結果、被害者はボクたちが発見したおよそ3時間前には殺されていたことが分かった。寝ているところを殺されたようで、抵抗した痕は一切なかった。死因は首を絞められたことによる窒息死。抵抗していない点から何か薬を盛られていたのではないかと警察は見ているらしい。

 ついでに、大麻草のガサ入れも実施され、あの部屋には60キロ相当の大麻草が栽培されていたことが分かった。いよいよ警察は殺人と麻薬、二つの事件を捜査しなければならなくなったのだ。

「おかえり。随分と時間がかかったね。って、なんで警官の制服?あと、くっさ!何のにおい?!コレ?」

「制服は潜入調査のため。この匂いは大麻。もう大変だったんだぜ。大麻、60キロ近く見つかった。」

「そんなにどこにあったんだ?」桃夏が尋ねてくる。

「校門横の廃倉庫。」

「でも、あそこ、オレがこないだ生徒会の監査で入ったとき、何もなかったぞ?」

「その奥に扉があるんだよ。その扉の部屋に。」

「そんなのがあったのか・・・。」

「まあ、事件のことは後で。お姉ちゃん、早くお風呂入ってきて!その間に制服、消臭剤ぶっかけとくから。」

「はいはい。」

ボクはお風呂場へ向かった。

「はぁ・・・。」お姉ちゃん———真帆———を風呂へ向かわせた私はため息をついた。

「ほんとに二人は仲がいいんだな。」

「あっ。ごめんね。騒がしくて。」

「いいんだよ。にぎやかで楽しいよ。」

「そう?」

「うん。」

そう言った桃夏の表情はどこか悲しげなものがあった。

 やっぱり麻薬のにおいは落ちにくかった。千速さんに脅されていたが、想像以上に落ちなかった。もうどこが臭いのかわからなくなるほどだった。全身をくまなく3回洗って、ようやく匂いが落ち着いてきた———気がした。

「お先、いただきました~。」

「どう?匂い落ちた?」桃夏が尋ねてくる。それと同時に真が近づいてきて、匂いをかいでくる。

「大丈夫みたい。制服もだいぶ落ちたよ。」

「ありがとう。」

「じゃ、事件の話を聞かせてくれ。」桃夏が待ちきれないと言った様子で尋ねてくる。

「あぁ。いいよ。まず、麻薬は今回の一連の事件と関係してると思う。」

「一連?まだ一件しか起きてないだろ?」

「いや、実はさっきの麻薬があった部屋で遺体が見つかったんだ。近くに落ちていた生徒証から、森谷 明華と分かった。」

「えっ?!明華ちゃんが?!」桃夏が驚いた声を出す。しかしすぐに顔に暗い影が落とされた。

「うん。あらかじめ、薬で眠らされて、首を絞められて殺されたらしい。それで一つ聞きたいんだが、その森谷さんは例の3年生とは仲が良かったのか?」

「うん。確か仲が良かったと思う。葵つながりで。」

「それで何か証拠はあったの?」

「いや、目ぼしい物はなかった。そこでだ。麻薬は押収したかに見せかけて、今もまだあの倉庫にある。事件のことも公表してない。すると、麻薬のグループは今日にでも何か動きを見せると思うんだ。だから、今日、3人であの倉庫を張ってみないか?」

「いいね。」真がうなずく。

「桃夏も来るか?」

「あぁ。二人の仇、とってやる。」

「じゃ、決まりだな。」

 その後ボクと真、そして桃夏は件の倉庫の裏に身を潜めていた。

「ねぇ、ほんとに来るのかな。」真が小声で尋ねてくる。

「分かんない。でもかけてみるしか。」ボクも小声で返す。

「誰か来たぞ。」桃夏が声を上げる。小声で。

「あれは・・・、見回りの警官だな。」ボクにとっては見覚えのある千速さんだった。ボクは彼女に声を掛けるか迷ったが、結局知らないフリをすることにした。

 そして、何も起きずに2時間が経った。

「まだかな・・・。」さすがにつらくなってきたようで、桃夏が小声で言った。

「まあ、そう焦るなって。いつかは来るよ。」

「だね。」

「ふあぁぁぁぁ・・・。」

「真、眠いのか?」

「うん。疲れた。」

「寝るなよ。真。こんなところで。風邪ひくぞ。」

「分かってまひゅよ。ふわぁぁぁぁぁ・・・。」

「戻って寝たら?」

「いやだ。私だけ結末見れないとかいやだもん。」

こういうところだけは妙に意地っ張りなのである。

「にしても、もう夜の12時か・・・。」桃夏がため息交じりにつぶやく。

「そろそろ動きがあってもおかしくないんだけど・・・。」

「ねぇ、あの光何?」

「うん?」

真が指さしたほうを見ると、そこには、ぼんやりと光が見えた。

「誰かが来たんだよ。」ボクが言う。

「しかもあっちは学生寮のほうからだ。」

「さすがは桃夏ちゃん。この学校のことがよくわかってるぅ~。」

「ここに来るかもしれない。静かに。」

桃夏を茶化す真を黙らせる。一気に現場に緊張が走った。その光はどんどんこちらに近づいてくる。

近づくにつれ光は二つあると分かった。そして、その光はボクたちが隠れている横の道を通り、倉庫に向かった。ドアが閉まった音を聞いてからボクは二人に合図した。

「行くぞ!」

ボクと真、それに桃夏は隠れていた場所を飛び出し、倉庫のドアの前に走りこんだ。

「開けるぞ、いいな。」

「うん。」

ボクはドアを開け放つ。もちろん予想していた通り最初の部屋には誰もいなかった。そこでボクは二人にマスクをつけるように言い、自分もマスクをつけた。もちろん、二人にも大麻のにおいを嗅がせるわけにはいかない。そして、奥の部屋のドアのノブに手を掛けた。

「開けるよ。」

二人が後ろで静かにうなずいた。ボクはドアノブを回した。

ガチャ

「誰かいるのか?!」

「・・・。」部屋からは何の返事もしなかった。その時、ボクは右手のほうでガサっという音が聞こえたのを聞き逃さなかった。

「危ない!伏せろ!真!桃夏!」とっさにボクは叫んでいた。次の瞬間、ボクの右腕に痛みが走った。その痛みをこらえ、その痛みを与えた犯人の腕をつかんだ。

「うぉりゃぁぁぁぁ!」ボクはそのままその犯人の腕をつかんだまま、一本背負いの要領で犯人を床に投げ飛ばした。

「お姉ちゃん!」真が僕に向かって叫ぶ。慌ててボクはしゃがんだ。

「てりゃぁぁぁ!」真はボクと犯人を飛び越えるとボクの背後に立っていたもう一人の犯人に蹴りを入れた。

「ほら、おとなしくしろ!あんたたちが犯罪をした証拠はそろってるんだ。桃夏、電気をつけてくれ。」

しばらくして、電気がつく。その光によって照らされたのは———

「久保井先輩!?野村先輩!?」桃夏が叫んだ。

「やっぱりあんたたちだったんだな。麻薬の栽培、密売、そして殺人をやったのは。」

「証拠はあるの?!」

「あるもなにも、今君たちが持ってるだろ。ここのカギ。」

すると、ハッとしたような表情で久保井先輩がスカートのポケットを生地の上から触った。

「ほら、やっぱりそうですね?今、久保井さん、あなたスカートのポケットに無意識に手を伸ばしましたよね。この倉庫、先生によるともう10年は使われてないそうですねぇ。なんで鍵を持ってるんですか?」

「まっ麻薬は認めるわ。でも、殺人なんか・・・。」野村先輩がおどおどしながら言う。

「昨日、君たちの部屋の捜索があっただろ。その時君たちは外に出されていたから知らないだろうけど、警察は台所も調べているんだ。そしたら、他の調理器具はそろっているのに、一つだけそろっていないのがある。何かと思えば、包丁じゃないか。しかも、一人目の殺人の時の凶器は包丁。これだけあれば十分かと思いますが。大方、麻薬の密売か栽培かをめぐって仲間内で対立したんでしょ?調べれば出てくるはずだ。あなた方のどちらからの指紋が。」

「智花・・・腕から血が・・・」

後ろから桃夏の声が聞こえてくる。

「えっ?!」

その時ボクは犯人を取り押さえるときに走った右腕の痛みを思い出した。見ると右腕の肘下に刺し傷があった。ん。待てよ・・・。この刺し傷は、包丁か・・・?だとしたら、あの時の事件の包丁は・・・。そう考えたすぐ後だった。

「ゔっ・・・ガハァッッ!!」

腹部に普段は絶対に感じえない痛みを感じた。見ると腹から包丁の柄が飛び出している。でも痛みを感じたのは一瞬で、次の瞬間には肌が冷たい床を感じていた。その時になってボクはやっと自分が刺されたことに気が付いた。時間にしてほんの数秒だっただろうが、ボクにはひどく長く感じられた。近くではカナが久保井先輩を組み伏せながらボクに向かって何かを言っているように感じる。そして、桃夏の必死に通報する声が聞こえる。

あぁ・・・死ぬんだな・・・———かすれ行く意識の中でボクはそう感じた。

 目を開けると知らない天井があった。それで分かった。あぁ、ここは病院なんだと。そしてカナの顔がぬっと視界に入ってくる。

「真帆・・・。目が覚めた?」

「うん。ごめん。無茶して。」

「ホントだよ。もし死んでたら、私、遥香先輩にどう顔向けすれば・・・。」横から綾さんの声も聞こえてくる。

「ごめんなさい。」

「でも、よかったね。傷は浅かったから、明日には退院できるみたいよ。」

「そういえば、事件のほうは?」

「無事、二人とも逮捕したよ。」

「二人だけか?!」思わずボクは叫んでしまった。

「うっうん。そう。二人だけ・・・えっ?あの二人じゃないの?」

「よく考えろ。事件の証拠品にあっただろ?包丁が。」

「あっ!真帆を刺した凶器も包丁。でも、事件に使われたのが彼女たちの包丁なら不可能になるってこと?」カナが言う。

「そういうこと。」

「てことは、他にも協力者がいた・・・。」綾さんがあごに手を当てながら言う。

「ボクの勘を信じてくれるなら、ボクたちの潜入先のクラスの担任、村井先生に事情を聴いてみてください。」

「えっ、なんで?」

「あの人と最初に出会ったのはあの廃倉庫の前なんだ。そん時の挙動が怪しかったから。」

「なるほど・・・。分かった。事情を聴いてみるよ。」そういうと綾さんは病室を後にしていった。

バタン

病室の扉が音を立てて閉まった。

「ねぇ、カナ。」

「どうした?真帆。」

「ボクが刺されたとき、本気出してたよね?」

「あっうん・・・。つい・・・。」

「バレてないよね?」

「えっ?」

「正体、バレてないよね?桃夏に。」

「うん。バレてないと思うけど・・・。」

「そっか。ありがとうね。」

「うん。どした?刺されて気でもおかしくなった?真帆がお礼をすんなり言うなんて珍しい。」

「なんだと~?その言い方は。人が感謝してるのに~。」

そしてボクたちは顔を見合わせ、そして大声をあげて笑った。

病室内の笑いが一段落したころだった。

ガラ

病室のドアが開いた。ボクのベットからではドアのところは見えない。

「あれ、綾さん?もう帰ってきたの?」

「・・・。」

その時、ボクの探偵としての本能が警鐘を鳴らした。咄嗟にベットの上に飛び起きる。

「真帆?」

「しっ。」

音を殺しながらこちらに近づいてくる気配がする。ボクの行動にすべてを察したようだ。カナが黙る。気配の主はどんどんとこちらに近づいてくる。そして、気配の主の姿が見える。

「何をしてるんですか?村井先生?」

村井先生はハッとしたように動きを止める。病室に忍び込んできていたのは、ボクたちの潜入先のクラスの担任、村井先生だったのだ。

「持ってるんでしょ?凶器。」

「なんの話をしてるの?阪本智花さん?」

「とぼけても無駄ですよ。村井先生。」カナが割り込んで言う。「あなたが麻薬の元締めだったんですよね?あの廃倉庫のカギを変えたのもあなた。そして、赤羽さんと森谷さんを殺したのもあなたですよね?あなたの家を調べれば出てくると思いますよ?血にまみれた手袋と衣服が。」

「ふっ。よく分かったわね。でも、森谷さんを殺したのは私ではないわ。」

「なに?!」

「あの子は、3年の連中が勝手に殺したのよ。どうせ、森谷が良心の呵責に耐えられなくなって、警察に自首しようとか言い出したんじゃないかしら。昨日の朝、久保井と野村が青い顔してたから問い詰めたら、言ってたわ。でも、本当に残念ねぇ。あなたたちはここで死んでしまうんだから。」村井先生はおもむろにスーツの上着の胸ポケットに手を伸ばした。そして、取り出したのは———

「ハッ!」拳銃だった。

「それで殺せば、事件の真相には迫られないとでも思ってるのか?」

「いいえ、違うわ。あんたたちを殺して、私も死ぬの。」

「くっ・・・。」

どうすればいいのだろうか。村井との距離は結構ある。ベットの近くにも来ていない村井を制圧するのは至難の業だ。だからと言って、今の村井の精神状態からすると、ナースコールでも押そうものならすぐに発砲しかねない。それに、ボクは今ベットの上に寝っ転がって半身を起こした状態だ。それに刺されて体も弱っている。そんな状態では太刀打ちできない。そんな事を頭の中でぐるぐると考えていた、その時だった。

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁああ~!」

ベットの隣の椅子に座っていたはずのカナが村井に飛びかかっていた。

「カナッ!!!!」

パァァァン

ボクの右頬を風がかすめてゆく。発砲音が病室に響いた。

「カナ!大丈夫か?!」思わずボクは叫んでいた。

「うっうん。」

いつものカナの声が聞こえて、ボクはとりあえず安心した。ベットの端から身を乗り出し、声のするほうを見るとカナと村井が組み倒れているのが見えた。———正確には、村井が床で伸びていた。

「あのさ・・・これって正当防衛になるよね?」

「えっ?」

「気絶させちゃった。いつもの癖で・・・」

「うん。なるよ・・・。けど、もうちょっといつもの癖出さないでもらっても?」

「はい・・・すみません・・・。」

「ま、いっか。誰もケガしてないし、助かったし。」

廊下から警官の応援を呼ぶ声と走る靴音が聞こえてきたのは、そのすぐ後だった。

 村井も逮捕されたことで今度こそ本当に事件は幕を下ろした。学園は麻薬に殺人が起きたことで世間から非難を浴び、今在籍している生徒の卒業を待ってから、閉校することが決まったらしい。

 麻薬は、村井が麻薬の売人と恋愛感情を持って付き合いだしたのがきっかけだったようだ。そして、麻薬を売って一儲けしようと彼氏に言われたらしい。そこで目を付けたのが閉鎖的な空間の女子高。それも全寮制の。担任を任された村井は生徒に次々と麻薬を売りさばいていった。調べてみると、3学年中30人もの生徒が麻薬をやっていたことが分かった。そして、麻薬の受け渡し場所があの廃倉庫だったのだ。赤羽さんは麻薬の実態に気づき、内部告発しようとしていたのが村井にバレ、村井に殺されてしまったのだった。森谷さんは麻薬グループの一人だったが、殺人事件が起きたことで久保井と野村に一緒に自首をしようともちかけたところ、絞殺されてしまったようだ。家宅捜索の時、久保井と野村の部屋になかった包丁は村井が疑いの目を向けさせるために部屋からこっそり持ち出し、捜索が終わった後に再び戻していたらしい。そして、ボクらが麻薬に気づいたことを久保井たちに言ってあの日、麻薬部屋に包丁を持ってくるように言ったそうだ。この事件をきっかけに厚労省のマトリ¬¬¬———麻薬取締官たちによる捜査が行われ、村井の彼氏のバックにある麻薬の密輸・密売組織の連中も逮捕されたそうだ。———それを知ったのは、事件解決から2か月後だった。

ボクは村井逮捕の翌日、無事退院した。そして、ボクとカナの潜入調査も終わることになった。ボクとカナは荷物を取りに学園へ向かった。

「ねぇ、お姉ちゃん。今日で桃夏ともお別れなんだよね?」

「うん。」

「連絡先、交換してもいい?」

「いや、残念だけど・・・。正体がバレるのもまずいし。」

「そうだよね・・・。」

そんなことを話しながら、ボクとカナは寮の201号室のドアを開けた。

「桃夏、ひ———」

「二人とも、動かないでくれる?」玄関には、不敵な笑みを浮かべた桃夏が拳銃を片手に立っていた。

「・・・っ桃夏。どうしたんだ?」

「桃夏ちゃん。そんな物騒な物、しまって?ね?」

「いいから。君たちの部屋に入れ。」

桃夏は淡々と指示を出す。まるで感情を押し殺しているかのように。殺し屋の仕事をしているときのカナのように・・・。

 ボクたちは促されるまま、自分たちの部屋へと入った。桃夏はボクたちに拳銃を向けたまま、後ろ手に部屋の鍵を閉める。

「じゃ、二人とも座って?」

そういうと、桃夏はドアの前にボクの勉強机の椅子を引っ張り出し、座った。そうなると椅子は一脚足りないから、ボクは仕方なく部屋の大部分を占拠している二段ベッドの下段に腰かけた。ふと、カナをうかがうと殺し屋の仕事をしているときにしか見せないクールを通り越して冷酷な表情になっていた。その顔を見たボクは覚悟を決めた。———もちろん殺される覚悟を、だ。

「わざわざ拳銃まで引っ張り出してボクたちを脅してまで聞きたいことはなんだ?」

ボクはできるだけ落ち着いて桃夏に尋ねた。

「その拳銃、組織の物よね?」カナが言う。

「組織ってなんのことだい?」

「しらばっくれても無駄よ。〝緋色の組織〟を置いて他にないでしょ?あなたも組織の一員なんでしょ?灰原桃夏さん?」

「勘が鋭いね。阪本 真———いや、狛江叶汰さん。」

「どうしてその名前を?!」

慌ててボクが尋ねる。言ってからまずい質問をしたと後悔した。

「ほぼ素顔のまま乗り込んできて気づかないほうがおかしいでしょう?お姉ちゃん役の石綿 真帆さん?」

「そっそれで、目的はなんだ?ボクたちを殺そうっていうのか?」

「いえ。そんな物騒なことは致しませんよ。ただ、上から阪本姉妹の正体を調べろと言われましてね。」

「それでこの間、あの廃校舎にいたのかっ・・・!?」

「そうです。あそこが組織の連中との約束の場所だったので。では、ボスに連絡させていただきますね?」

すると桃夏は制服の胸ポケットからスマートフォンを取り出した。すぐに桃夏は誰かと話し始める。ボクはごくりと生唾を飲み込んだ。

「もしもし。ボス。分かりました。正体が。」

「もったいぶらずに言えって?まあまあ。そう焦らずに。どのみち、あなたの期待していた結果にはなりませんでしたよ。」ここで長い間が開いた。

「阪本姉妹は本当の阪本姉妹でした。ボスの言う狛江叶汰なんて少女じゃありませんでしたよ。では、私は学校のほうの用事がありますので、これで失礼いたしますね。」

桃夏は画面をタップするとスマホを制服の胸ポケットに戻した。ボクは意表につかれていた。

「なんで・・・?」

「なんで、嘘をついたかって?そんなの、君なら分かっているんじゃないか?真帆。」

「悪いが分かっていないな。説明してくれるか?」

「キラーエンジェル。」

「その名前はっ・・・!」反応したのはカナのほうだった。

「カナ。心当たりがあるのか?」

「組織内で生きる伝説と言われている狙撃手だよ。でも、2年前からぱたりと話を聞かなくなった。正体不明で、唯一分かっているのは、女性だということだけ。」

「そう。生きる伝説の狙撃手。キラーエンジェル。それはオレの母だよ。」

「なに!?」

「組織が君たちの両親を殺したのにも一枚かんでいるとオレは考えている。」

「・・・っ!?」

「もしかして、お母さんが死に際に言っていた〝スナイパーは天使〟って・・・。」

「かもしれないな。」

「そういう意味だったんだ・・・。あの言葉・・・。」

「でも、オレの母さんはあの事件の後すぐに行方が分からなくなった。オレの親父は小さい頃に組織を裏切って始末されたから、身寄りがいなくなった。だから、この女子高に進学したんだ。」

「じゃあ、なぜボクたちの正体を嘘ついたんだ?君の身に危険が及ぶだろ?」

「あれ?オレのこと心配してくれるんだな。」

「当ったり前だ。命救ってもらったんだから。というか、こんな近くに組織の内部とつながっている人がいるんだ。まぁ、利用する気はないが、情報は教えてほしいな。」

「それって利用してない?」

「確かに。」カナが笑いながら言う。それにつられて笑うほどの余裕はなかった。桃夏の行動の真意が読めなかった。

「言われなくとも、そうするつもりだったさ。だって、さっき言ったろ?オレの母親は行方不明、父親は組織に殺された。そんな人が組織を恨まないわけないだろ?」

「まぁ、そうね・・・実際、私も許してないし。」カナが答える。その声には怒りが感じられた。

「だろ?だから、オレが知っている情報はすべて流す。君たちにはあの事件の真相を解き明かして、オレの母親の行方を調べてもらいたいんだ。そして、できるなら組織をぶっ潰してほしい。」

「分かった。いいけど、その代わり、最後、組織をぶっ潰す段になったら手伝ってくれよ?さすがに二人じゃキツイ。」

「あぁ。分かってる。連絡してくれよ。そしたら、関東だろうと北海道だろうと沖縄だろうと外国だろうとどこでも駆けつけるさ。」

「じゃ、その拳銃。しまおう?」やはりカナは臆病だ。

「あぁ。すまない。」そう言うと桃夏は自分の部屋に戻っていった。

「はぁぁぁ・・・。びっくりした・・・。終わったと思った・・・。」カナが安堵の声を漏らす。

「そうだな・・・。疲れたよ・・・。」

「ね、こうなったら連絡先、交換してもいいよね?」

カナはまだ諦めていなかったようだ。ボクはふっと笑ってから言った。

「うん。いいよ。」

「でもさ、なんかこの部屋、片付いてない?」

「そうだな。確かに片付いてる。」

ガチャ

そこへ桃夏が戻ってきた。

「ねぇ、二人とも。お茶飲まない?」

「うん。いただこうかな。」

こうしてボクとカナ、桃夏はリビングのテーブルを囲んで座った。

「あの、桃夏。ボクたち今日でここを去ることになったんだ。」

「分かってた。君たちの正体に気づいた時から潜入調査だと思っていたから。」

「今まで本当にありがとう。」

「いえいえ。大したことは、」

「でさ、これからも友達でいてくれないか?」

「えっ?」

「依頼人と探偵じゃなくてさ、友人として過ごさないか?なんか、桃夏とはすごく仲良くなれそうな気がするんだ。」

「うん。いいぜ。」

横でカナの顔がパッと輝いたのが見えた。

「あっあとさ、桃夏、なんで部屋の中が整理されてるんだ?」

「あぁ・・・実はオレ、転校することになった。」

「「えっ?」」

「なんで?」

「いやぁ、こないだの事件で二人に協力したじゃない?」

「うん。すごい助かったけど。まさかそれが原因?」

「いや、全然関係ない。」

「なんじゃそりゃ。」

「なんかこの学校にいるのが嫌になってさ。今の状況じゃまともな授業もしてもらえないだろうし。そしたら学校側が編入支援をしてくれるって言いだしてね。それで転校することになった。」

「そっか、ごめんな。ボクらが来たばっかりに・・・」

「いいんだよ。君たちが来てくれたおかげでこうして友達になれたのだから。」

「ありがとう。そう言ってくれて。」

「で、桃夏ちゃんはこれからどこに行くの?」

「女子の制服にスラックスがあるところがいいな~、なんて思ってる。でも、どこに行くかは内緒。」

「えぇ~、なんで~?」

「別になんでってまだ決まってないからなんだけどね。」

「なんだ・・・桃夏ちゃんのことだからなんか隠してるのかと思ったよ。」カナが笑う。

「なにそれ?ふふふ・・・ハハハハハ・・・」

桃夏も笑いだす。つられてボクも笑った。部屋に笑い声が響いた。

「決まったらまた教えてね。桃夏ちゃん。」

「うん。そのつもりさ。」

「じゃ、カナ。荷物をまとめちゃおう。」

「分かった。真帆。」

「じゃ、オレも荷物をまとめちゃうか。」

「えっ?でもまだ行く先、決まってないんでしょ?」カナが尋ねる。

「決まってないって言っても、もう候補は絞られてるからな。慌てて荷物を作るよりはあらじめ、荷物をまとめといたほうがいいだろ?」

「そうだな。カナはいっつもギリギリだから、見習った方がいいぞ。」

「うぅ・・・、そっそんなことないもん。」

「あるね。この間の待ち合わせの時だって遅刻したじゃない。」

「そっそうだけど・・・。それを言ったら真帆だって、寝坊して遅れてきたことは何度もあったでしょ?」

「それは今関係ないだろ。」

「ふふふ・・・ワハハハハ・・・」

突然桃夏が大声をあげて笑い出した。びっくりしたボクとカナは顔を見合わせた。

「いや、ごめん。ほんとに君たち、姉妹みたいだな。」

「えっ?」

「今の掛け合い。最高だった。」

そういうと桃夏はニコッと笑って自室に戻ってしまった。ボクとカナはリビングのテーブルの上に置かれたお茶の入ったコップのようにただそこに立っていることしかできなかった。

 それから2時間後。ボクたちは荷物をまとめ終わり、リビングに戻ってきた。そこにはさっき置いたままにしたお茶の入ったコップが3つ置いてあった。

「お茶、ぬるくなっちゃったね。」カナが言う。

「だな。」ボクもそれに頷く。

「桃夏ちゃん、まだかな。」

「声かけてみれば?」

「でも、まだやってたら悪いし、いいや。」

そういうとカナはソファーに座った。ボクもカナの隣に腰掛ける。カナがボクの肩に頭をのせてくる。

「やっと終わったね。」

「あぁ。そうだな。今回もありがとう。カナ。」

「いいんだよ。無理言ってついてきたのは私のほうなんだから。」

「いやぁ、刺されたときは助かったよ。」

「ほんとに真帆は無茶しかしないんだから。」

「〝しか〟は余計だっての。」

ボクはカナの小脇を突っつく。

「やめてよ。真帆。」

嫌がっている風に言っているがカナは笑っている。あぁ、今、ボク、生きてるんだ。なぜだかそう感じた。今までたくさん無茶はしてきたが、刺されたのは今回が初めてだった。死を間近に感じると人は変わるらしい。

本当に生きててよかった。そんなことを思う自分がいた。

「真帆?ねぇ、真帆?」

「えっ?」

突然カナの声が聞こえてきて、ボクは驚いた声をあげてしまった。

「聞いてなかったでしょ?」

「うっうん。ごめん。物思いにふけってた。」

「珍しい。真帆が事件の時以外に物思いにふけるなんて。」

「いいだろ、別に。」

「まあ、いいけどね。で、何のこと考えてたの?はっ!もしかして好きな子の事とか?」

「違います~。好きな人なんていません。」

「な~んだ、面白くないの。」

「オホン。」

ボクたちの後ろで咳払いが聞こえた。ボクとカナは振り返る。

「あれ、桃夏。いつのまに。」

「なんなの?君たちは。」

「えっ?」

「付き合ってんのか?」

真剣な顔で聞いてくるものだから、思わずボクとカナは笑ってしまった。

「そんな訳ないだろ。ボクがカナと?」

「そんな訳ないでしょ。私が真帆と?」

ボクとカナの声がぴったりと揃う。

「ほら、息もぴったり。」

「たまたまだよ。小さいころから一緒にいたからかな。」ボクが答える。

「そうだよ。桃夏ちゃん。」

「そっか。でも、あの雰囲気はカップルのそれだったぜ。」

桃夏はニコッといたずらっ子のような笑みを浮かべていた。

「あら、そうだった?ごめんね。私たちが付き合ってなくて。」

カナもからかうようにしながら答えた。そして、再び部屋は笑いに包まれた。

しばらくしてから、部屋のインターフォンが鳴らされた。

「はぁ~い。」桃夏が玄関に向かう。

ガチャ

「どちら様ですか?」

「久しぶり、桃夏ちゃん。」

「あっ、蔵前さん。久しぶりってまだ3日しかたってませんよ、最後に会ってから。」

「確かに、そうだね。真帆~、叶汰ちゃん~。用意できた~?」

やってきたのは綾さんだった。

「終わったよ。綾さん。」

「じゃ、行こうか。」

綾さんが手ごろな段ボールを持つ。

「この寮の前に車を止めてあるから。」

「分かった。」

ボクとカナもそれぞれ段ボールを持つ。

「じゃ、オレも手伝うよ。」

「あっありがとう。桃夏ちゃん。」

こうしてボクたち4人は部屋を出た。

「なぁ、そういえば、君たちの本当の家ってどこにあるんだ?」

「ボクは今は綾さんの家に居候してる。向戸市のほう。」

「カナは?」

「私は・・・まあ、秘密ってことで。知られちゃまずいし。」

「あっ・・・そうだね。ごめん。」

「いや、いいんだよ?」

「うん。ありがと。」

「今度、うちにおいでよ。桃夏。」

「えっ?いいの?」こう言ったのは、桃夏ではなくカナだった。「今まで私しか行ったことないのに?」

「うん。いいでしょ?綾さんも。」

「いいよ~。」

「ほら、綾さんもこう言ってることだし。」

「じゃ、落ち着いたらお邪魔しようかな。」

「ぜひぜひ。」

ちょうどその時、ボクたちはバンの前に着いた。バンの手前には秋桜がきれいな花を咲かせていた。

これはちょうどボクたちが高校1年の秋のお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ