砂漠への遠征と新しい弓
エリエスト家での宴が終わり、ゼナ達は、雑貨屋アリアンワースに戻って来ていた。カルラやクリス達も、そのままアリアンワースに遊びに来ている。再度、宴がアリアンワースで開かれていた。キスカは、自家製パンを作り、クリス達は、旬の食材を市場より買ってきて皆で調理している。ジェシカは、酒に酔った振りをしながらゼナに迫るも、さらりと躱されていた。ヴェルテが食器を準備しながら、ジェシカを牽制しているのをカルラ達も笑いながら見ている。
「やっぱ、うちに居るのが一番落ち着くね」
ゼナが、ヴェルテ達に微笑みかける。
「うん!初めての坑道は濃かったネ」
ヴェルテは、ゼナに微笑み返す。
確かに初めての坑道は、激しかった。紙一重の攻防だったとゼナも思う。しかし、新たな仲間も増え、今後、坑道に再チャレンジする楽しみも増えた。その為には装備の充実と自身の実力を高めなければ、坑道の奥地へ進むのは厳しいのも現実である。
エミリオが、明日からの行動について聞いてきた。
「ゼナ明日は、どう動く?」
ゼナは、少し考えながら答える。
「皮が欲しいから、森の南にある砂漠に行こうと思って!皆の防具を新調するには皮が足りないから。明日は砂漠用の装備を準備をして、準備出来次第出発したいと思ってる」
ゼナや、ヴェルテは、フルプレートの装備をつける程の体力は無い。革の板に金属のプレートを要所に付けた鎧などの軽装でないと自身の持ち味の素早さが死んでしまうからである。ゼナは、現在主流として使っているブラッティバイソンの皮ではなく、それより強度の高い皮を使用したいと考えていた。
「ファイヤーリザードの皮か?」
エミリオは、ゼナに問いかける。
ファイヤーリザードとは、砂漠に生息する火炎を繰り出す中型のトカゲで、よくサラマンダーに間違えられる魔物だ。飛翔能力は無いがファイヤードレイクの仲間である。
今回、ファイヤーリザードの皮を選んだ理由は、坑道にガーゴイルが現れたことに起因する。あれの火炎を喰らえば、一般の冒険者は、なすすべもなく殺られてしまう。
「流石、エミ兄!ドレイクの皮やドラゴンの皮が手に入るなら、そっちにしたいけど、希少過ぎて手に入らないから、ファイヤーリザードの皮を使おうと思って!」
エミリオは、醸造酒を呑みながら微笑む。
「ガザールを拠点にして動いたら良いかもな!俺は、皆の武具と防具を作って待つとしよう」
妖精の森から南に向かうとガザールと言う宿場町がある。砂漠の入口として冒険者が立ち寄る町で、砂漠越えの商隊などが利用する町であった。そこを拠点としてファイヤーリザードを狩り、皮を集めるのが良いとエミリオからアドバイスを受けた。
それを聞いて、カルラが馬を用意してくれると言い。キスカとヴェルテは、朝一でポーション用の薬草を取りに行くと話す。クリス達は、明日から商隊の護衛の仕事が有り、別行動となる。ジェシカが、ゼナ達に付いて行きたいと騒いでいるが、クリスに一蹴されていた。
ゼナ達は、その様子を見ながら、笑い、今夜は取り敢えず楽しむことを優先し夜遅くまで宴は続いた。
◇◆◇◆
朝になり、各自が動き出した。
ジェシカは、名残惜しそうにアリアンワースを後にし、いや正確にはクリスに首根っこを掴まれて引きずられて行ったのだが…また来るとクリス達は笑いながら町並みに消えていく。
ヴェルテとキスカは、森に薬草を取りに向かった。カルラは馬の調達に出かけている。
エミリオは、砂漠用の武器としてハンドボーガンを作り始めた。砂漠では、足が取られ、重い得物では機動力が下がる。ヴェルテとカルラにボーガンを装備させ、遠距離からの攻撃も出来る様にさせるのが目的であった。
今回のボーガンは、魔物だけで無く対人用の武器である。カルカナ周辺は魔物を討伐する為に自警団が巡回等をしている為、比較的治安は良い。しかし砂漠地方はカルカナから離れている為、治安が悪く魔物だけでなく盗賊も頻繁に現れ、商隊を襲撃することが度々あり、ゼナ達も遭遇する可能性が高いとエミリオは判断したのだった。
ゼナは、砂漠用の防具やマントの準備を始める。
アラクネの反物を惜しみなく使いマントを作る。ミントに手伝って貰い、水の加護をマントに付加させ、耐熱の効果を上げていった。防具についても、革をメインで構成し、金属部分が少ない軽装を用意する。革の板を重ね、防御力を高めた上で、こちらにもミントの水の加護を付加させる。合わせてボーガン用の矢筒を作りだした。
矢筒を作っていると、エミリオが工房に入って来た。
「ゼナ、ボーガンの試作品が出来たから、試してみてくれないか?」
エミリオが持ってきた、ボーガンをゼナに差し出す。ゼナは、ボーガンを手に取り構えてみた。エミリオの作ったボーガンは、魔石を組み込み、弦を引く力を補助する様になっている。魔石は使い捨てになるが、矢を回転式の筒に8本装填しゼナの弓の速射程では無いが、連射出来る様に作られていた。
「エミ兄!また凄い物を作ったネ」
ゼナは、ボーガンを眺めながらエミリオに言う。エミリオの作ったボーガンは間違いなくカルカナに同じ物は無い代物である。今回もドワーフの秘術を用い作ったボーガンは、画期的な性能であった。魔石が使い捨てになるので、魔石を使ってまで使用する冒険者は、皆無ではあるが、護身用具としての性能は高い。
「魔石が使い捨てだから、売り物には成らないがな!」
エミリオは笑いながら、ボーガンの説明を始める。魔石は矢を50本程度は発射出来き、回転式の筒と魔石の予備も用意していた。回転式の筒用のホルダーを作ってくれとゼナは言われ頷く。回転式の筒も脱着式で8本撃ち終えたら、交換し、再度速射が可能となる流れだ。予備の回転式の筒は合計6本用意し、馬の鞍にも装着させる予定だ。
ゼナとエミリオが話をしている所に、カルラが戻ってきた。
「砂漠に強い馬を4頭連れてきたよ!」
カルラは、胸を張りながら、ゼナ達に言う。カルラの用意した馬は、暑さに強い馬で、スタミナも有る優れた品種の馬であった。
「お疲れ様!ボーガンの説明をするから裏庭に行こう」
エミリオはカルラを労い裏庭に連れて行く。ゼナも作業の手を止めて裏庭に付いていった。
裏庭には、カルラが連れて来た4頭の馬が繋がれている。どの馬も馬体は大きくスタミナが有りそうな良馬だ。ゼナは、カルラが合わせて買って来た秣を桶に入れ与える。
「ホント良い馬だ!」
ゼナはカルラを褒めながら、馬達の世話を始める。カルラは、でしょでしょ!っと言いながらエミリオからボーガンの説明を受けていた。
カルラはボーガンを構え、的に目掛けて試射してみる。矢は、的確に的を捉えて的を破砕した。
「凄い!こんなに扱い易いボーガンは初めてっ」
カルラは、エミリオ製のボーガンを気に入った様子で、8本撃ち終えた後にエミリオに歩み寄る。
「気に入って貰えて良かった!砂漠で存分に使ってくれっ」
エミリオは、カルラに微笑む。そして、ハルバートを作り直すから、貸して欲しいと言い、カルラのハルバートを預かる。代替え品をカルラに渡した。代替え品は、カルラが使っていた物より更に軽い得物であった。
「軽い!こっちも扱い易いっ」
カルラは、ハルバートをブンブン奮い喜んでいる。
「作り直すハルバートは、それ以上の出来を約束するよ」
エミリオは自身の胸を叩きカルラに答えた。
「期待してる!」
カルラは、華麗な演武を披露しながら、エミリオに微笑み返した。
カルラには、以前ヴェルテとエミリオ達で作った馬車を整備してもらうことにした。馬2頭で馬車を引き、食料や予備の装備品などを馬車に積む予定である。
ゼナは再度工房に戻り、ボーガン用のホルダーの製作を始める。エミリオもボーガンの製作に戻った。
ヴェルテとキスカも戻り、キスカとミントは、ポーションを作り始める。ヴェルテは、カルラよりボーガンの説明を受け試射しまくり満足してから、カルラと馬車の整備を始めた。
ゼナは、ボーガン用のホルダーの製作は完了し、今は自身の腕輪を作っていた。エリエスト家より貰ったシルフの宝玉をはめ込み側面にはグリーンサファイアで飾り上げる。完成し宝玉を見つめていると宝玉が深緑の光を放った。柔らかな風を纏いながら、それは現れる。
「これは…」
ゼナは、宝玉をより現れた精霊に目を奪われていた。
「妾を着飾ってくれてありがとう!其方の名は?」
眩い光から現れた精霊は、深緑の髪に銀色ローブを着込み、グリーンサファイアの首飾りを身につけている。
「僕の名は、ゼナ・アリアンワース。精霊さん、初めまして!僕に力を貸して欲しい」
ゼナは、自己紹介しながら、精霊に頭を下げる。その姿を見ながら精霊は微笑む。
「妾は風の精霊シルフィード。其方の願い叶えよう。其方から風の民の匂いがする。」
「ありがとう!僕はハーフエルフだからエルフの匂いがするのかな?」
シルフィードは、再度微笑み、答える。
「妾のことは、シルと呼べば良い。エルフと言うだけで風の民にはなれない。其方は先天性な力があるようだ。」
ゼナは戸惑いながら頷き、シルに再度、よろしくと伝えた。
シルは、用があれば、いつでも現れるし、力は常にゼナに与えると言い、宝玉に戻っていった。
ゼナは宝玉の腕輪を左手に装着し、エミリオの元に向かった。
エミリオはボーガンを作り終え、盾を作り始めていた。
「エミ兄!シルフの精霊さんが仲間になった」
ゼナは、左手の腕輪をエミリオに見せながら言う。
「流石だな!ゼナは風を使うから仲間になると思ってたよ。それと、まだ早いが、誕生日プレゼントだ!」
エミリオは微笑みながら、ゼナに新しい弓を渡す。ゼナは、大喜びで弓を構えた。新しい弓は、ミスリルとグリーンメタルを合わせて作られており、中心部には、特大グリーンサファイアが埋め込まれている。白銀に深緑の色が走り綺麗な色彩を放っていた。前の弓より少し小さくなったが、弦を引く力は以前よりも強く引かなければ引けない感じではある。しかし、常に弓を使っているゼナにとっては大差ないレベルだった。
「エミ兄!これまた凄い弓だ」
「この弓も風の付加が付けやすい様に作ったし、見た目より軽いだろう?」
ゼナは、弓を構えながら頷く。確かに軽い。金属の弓なのに、この軽さと弦の力を考えれば、超一級品!加えて風を使うゼナにとっては、現時点では最高の弓であった。
「威力も格段に上がると思うよ!射程も、かなり伸びると思う」
エミリオは、満足気に頷いた。ゼナは裏庭に行き、試射して見ることになり、エミリオが的に店で売っている盾を括り付ける。
「ゼナ、これを射抜いて見てくれ」
的には、黒鉄で作った盾が付けられている。
「流石に盾は、射抜けないよ〜」
ゼナは、苦笑いする。
「いや、風を付加すれば、イケると思うぞ!」
エミリオに言われゼナは、風の付加を付ける。弓の中心部にあるグリーンサファイアが光だし、合わせて左手の腕輪も一瞬輝く。
ゼナは矢を放つ。
矢は風を纏い一筋の槍となり盾に迫る。爆裂音が響き、盾が爆散していた。
「凄い…」
ゼナは、絶句する。
自身の矢が、これ程まで威力が上がるとは思っても見なかった。盾を射抜くことが出来れば、盾持ちの魔物にも苦戦せずに戦える。格段に戦闘レベルが上がったと実感するのであった。
「我ながら素晴らしい出来だな!」
エミリオは、クシャっと破顔してゼナに微笑んだ。それに釣られゼナも破顔し、弓を眺めていた。
キスカ達のポーションの製作も終わり、ゼナ達は、砂漠用の装備を装着していく。エミリオから、小型と中型の盾を渡され、小型の盾は、ヴェルテ以外全員が装備し、中型は、馬車にストックすることにする。キスカには、片手用の杖を用意し、ヴェルテには、専用の盾を用意した。
各自、予備の装備は馬車に積み込み出発の準備が進む。
馬車には、キスカとヴェルテが乗り、先頭には、ゼナが、後方にカルラが付き砂漠の街ガザールに向かうのであった。




