ガルシアと砂漠の蠍
ゼナは、ガザールに向かいながら、騎乗での弓の練習をしていた。ゼナは、馬と一心同体と言わんばかりの馬術を見せる。エルフの森で育ったゼナは、動物と意思の疎通を取るのが得意であり、馬自体がゼナをフォローしてくれていた。
「ゼナは馬術も得意なのネ」
カルラがゼナの馬術を見て、問いかける。
「カルラ程ではないよ〜」
ゼナは、微笑み答える。
馬の扱い方においては、カルラの方が上である。カルラは、武術師範から馬術も叩き込まれており、その馬術は、ゼナ以上であった。
馬術の得意なカルラには、一番早い馬を使って貰い、体力のある馬2頭を馬車に使用し、残りの馬をゼナが乗っていた。ヴェルテも、それなりに馬は乗りこなすが、カルラやゼナ程ではない。それにキスカが馬に乗ったことが無いと言っていたので、ヴェルテが馬車の手綱を握り、キスカに教えながら、妖精の森を進む。
ミントは、馬車の天幕の上に乗り皆を見ながら微笑んでいた。なぜキスカに指導しているかと言えば、戦闘時にキスカには馬車の手綱を握って貰い、ヴェルテは戦闘に参加出来る様にする為でもあった。
キスカはヴェルテから説明を受けながら、馬車について聞いていた。
「今迄乗ったことのある馬車とは乗り心地が全然違うのは何故なのです?」
ヴェルテは、自慢気に答える。
「エミリオが、馬車の車輪の軸に特製の板を重ねて振動を抑える様にしてるからだよ〜」
エミリオのドワーフの秘術を使った車輪は悪路を走っても振動を吸収していた。合わせてヴェルテが作った荷台は、座り心地が良い様に加工されている。ゼナが作った革のシートも更に長時間座って居ても疲れない様に工夫されていた。
また荷台の天幕には、アラクネの反物を使い、防水処理も施している。側面には、軽量化されたグリーンメタルの板を要所に張り、その上からアラクネの反物を使ったシートを張っていた。外見だけ見たら普通の布を張った荷馬車なのだか、アラクネの反物は、普通の矢などは貫通することは出来ない。加えて内側に見えない様に張られているグリーンメタル板によって襲撃を受けても耐えられる様に作られていた。
また、後方には移動式の連射できる砲台式ボーガンが設置されている。
また、各馬には馬鎧も装着させていた。ゼナ製作の馬鎧は、急所には金属プレートを付け全体は革で覆い、その上に更にゼナ得意のアラクネの反物を重ねている。
その装備は軍馬が付ける馬鎧より見た目は厳つくはないが性能は、それより上だ。
キスカは、ヴェルテから説明を受け改めて雑貨屋アリアンワースの凄さに驚いていた。それを聞いていたカルラも頷く。
「貴方達の作る物は、どれも一級品なのね!特に自分達が使う物については更に上の次元の物ばかりだわ」
今回、砂漠用で新たに作った革の鎧も、一点物で各自の戦闘スタイルに合わせてゼナが作っていた。その妥協の無い物作りが、雑貨屋アリアンワースの商品の人気に繋がっているのだとカルラは思う。また今回収集しようとしているファイヤーリザードの皮を使った製品は、今後坑道に挑戦する冒険者に人気になること間違いないし、その動きの早さにもカルラは感心していた。
「自分達を守る物に妥協はしたくないからね」
ゼナは、カルラに微笑み答えていた。
「ガザールに着いたら、ファイヤーリザードの皮の相場を確認して、高く無ければ、購入も考えてるよ。うちらの商品もガザールで売って物々交換も有りかな〜と思ってる」
ゼナは皆に伝え、馬上でレモール水の入った水筒を取り出し口に含む。
ヴェルテもゼナがレモール水を飲んでる姿を見て自分も飲むと騒ぎながら、水筒を取り出し飲み始めていた。
妖精の森では、魔物に遭遇することなく森を抜けることができた。
森を抜けた所でゼナ達は休憩を取り、馬たちも休ませる。日も沈みかけてきたので今日は、ここで野宿することが決まった。
ヴェルテとキスカが食事の準備を始め、ゼナは野鳥を射落としカルラと二人で捌きヴェルテ達に渡す。
今日の夜食は、鳥の塩焼きと、野草の入ったスープとパン。デザートで森で取った野生のリンゴが皿に盛り付けられる。
鳥の塩焼きは絶品で皆が、唸りながら美味いと頬張り幸せな時間が過ぎる。
「シンプルだけど、塩焼き美味いネ」
ヴェルテが、ニコニコしながらスープの、おかわりをゼナに渡す。
「うん!塩で鳥本来の旨味が引き立ってる」
ゼナは、スープを受け取りヴェルテに微笑む。見張りは交代で先にカルラとキスカが休み、その後ゼナとヴェルテが仮眠を取ることで決まる。
夜は襲撃も無く静かに朝を迎えられた。
◇◆◇◆
朝食を終え、再度出発の準備をしゼナ達は動き出した。
森を抜け、辺りの木々も少なくなり、所々に大きな岩が点在する景色に変わっていく。大地は徐々に砂地になり、ゼナ達は砂漠の入口に踏み入ろうとしていた。
「ガザールは、どんな街かな〜」
ヴェルテがゼナに問いかける。
「オアシスの側にできた街で活気はあるみたいだよ!ただ治安は、あまり良くないみたい…」
ふむふむとヴェルテは頷き、その横でキスカは苦笑いしていた。
そろそろ周囲を警戒しながら進もうとゼナが言い皆が頷く。
丘を登れば、そろそろガザールの街が見える所まで来てゼナが急に横に手を出し、皆を止める。
「怒号が聞こえる。皆、ここで待機してて!カルラは、状況によっては自分のフォローよろしく!ヴェルテは戦闘準備して待機!」
ゼナは、ゆっくり馬を進め怒号の鳴る方角へ進む。岩陰から状況を確認すると、そこでは商隊と思われる集団に盗賊と思しき集団が襲いかかっていた。商隊の護衛隊が奮戦しているが盗賊の方が数が多い。盗賊の人数は20人を超えていた。
「言ってる側から盗賊さんのお出ましですね…」
ゼナは、溜息をつきながらカルラにサインを送り、カルラが側に近づいてくる。ゼナは弓を構え風の付加を付けた。
「理不尽な略奪は絶対許さない!」
ゼナは、自身のエルフの村が理不尽に壊滅された過去がある。あの時、非力だったゼナは逃げることしか出来ず、非力な自分を心底悔やんだ。
理不尽な略奪者を叩きのめすことに静かに闘志を燃やす。
ゼナは、盗賊のリーダーを探し始めた。盗賊の集団の中心に居るプレート装備の顎髭を触りながら、指示を出している偉丈夫を見つける。騎乗している馬も他の馬より立派な馬鎧を付けた、その人物をリーダーと確信する。
ゼナは、威嚇も込めて左肩を狙い狙撃した。風刃を纏った矢は、瞬く間に盗賊のリーダーに迫り、左手に持っていた盾ごと貫き、リーダーと思われる男は落馬した。
「頭ぁぁ」
子分と思われる男が叫び、周囲は混乱し始めた。
ゼナは、叫んだ子分にも矢をお見舞いし落馬させる。
「うぎゃぁぁあ」
子分は左腕を貫かれ、のたうち回る。
ゼナは、弓を連射し、盗賊の集団を落馬させていった。
周囲には、怒号と悲鳴が響き渡る。落馬した盗賊のリーダーが叫ぶ。
「狼狽えるな!たかだか一人の弓にやられてたまるか!野郎ども、あの弓兵を潰せ!」
盗賊のリーダーの指示に周囲の盗賊達は、ゼナに向かい突撃してくる。盗賊もボーガンを使いゼナに矢を射かけるがゼナは、見事な馬捌きで躱す。
盗賊の弓兵を逆に次々と射落としていった。弓兵は、瞬く間に沈黙する。
「怯むな!数で攻めろ。接近して馬から引きずり降ろせ!」
ゼナを捉え一部の集団がゼナに向かってくる。盾を構え突撃して来た。
ゼナは、盾を狙い弓を射る。
ドゴンと金属音と共に盾を砕かれた盗賊が吹き飛ぶ。
ゼナに近づくことも出来ず盾をもった盗賊達は落馬していく。数名が執念で目の前まで来るも、カルラのハルバートで叩き落とされていった。浮き足立った集団は、落馬した仲間を見捨てて逃走を始める。
「まて、俺を置いて逃げるんじゃねー」
プレート装備のリーダーと思しき人物は仲間に叫ぶも蜘蛛の子の様に子分達は逃走していく。
「さて、気合を入れて威嚇しますか…」
ゼナは、心の中で呟き、弓を構えたまま盗賊に対し降伏勧告を告げる。風の付加を最大にし、弓が深緑の光で包まれる。
「盗賊どもに告ぐ。直ちに武器を捨てて降伏しろ。我の矢はプレート装備だろうと関係無く貫くぞ」
ゼナは警告を入れた後、盗賊達の側にある大岩に矢を放つ。
放たれた矢は、風を纏い、風刃の槍となり大岩に突き刺さり、いとも簡単に貫き、岩を爆散させる。
「ひぃぃぃ」
倒れていた、左腕を貫かれた盗賊の子分が頭を抱えて地面に平伏した。
「次は、当てる」
ゼナは再度弓を構え、風の付加を最大にする。弓が深緑の光を纏い風が舞い上がる。
「わかった、降伏する。降伏するから命だけは助けてくれ!」
盗賊のリーダーは、手を上げて戦意は無いと武器を投げ捨てる。その姿を見て周囲に居た子分達も武器を捨てた。
商隊の護衛隊が、盗賊達を制圧していく。その中から、商隊のリーダーと思われる人物が歩み寄って来た。
ゼナは、馬から降り対峙する。
「危うい所を助けてくれて有難う!本当に助かった」
ゼナより少し年上と思われる。黒髪の青年がゼナに対して礼を言い頭を下げる。
「負傷者は居ませんか?回復できる仲間も居ます!同業者を見捨てる訳には、いかないから」
ゼナは、青年に微笑む。
「申し遅れた。俺はアルバート・ガルシア!ガザールの商人でカルカラからの戻りを盗賊に襲われたんだ」
ガルシアは、右手を差し出し握手を求めてきた。ゼナも右手を出して握手する。
「僕は、ゼナ・アリアンワース。カルカラで雑貨屋を営んでる。ファイヤーリザードの皮を仕入れに向かう途中で戦闘に遭遇したんだ」
ゼナとガルシアは、互いの状況を説明しあい、ガザールまで同行して移動することが決まる。盗賊達は、武装解除されてから、縄で縛られ街まで連行することとなった。
捕らえた盗賊は、砂漠の蠍と名乗る集団でガザール周辺で略奪を繰り返していた。ガザール周辺には盗賊は、まだまだ居るとのこと。砂漠の蠍には、賞金が掛けられていたので、ガザール都市警備隊に引き渡して賞金を貰う様に勧められる。
ヴェルテ達も合流し、ガザールに向けて動き出した。
「それにしてもゼナは、弓の達人なのだな!ほぼ一人で盗賊を壊滅させて、凄い戦闘技術だ」
ガルシアは、ゼナを褒め千切る。
ゼナは、奇襲が決まっただけだと笑い返していた。ガルシアはゼナ達に御礼をしたいと言いガザールに着いたら、自分の家に泊まってくれと言われゼナ達は、その言葉に甘えることにした。
カルカラには、岩塩を売りに行き、鉄の製品や果物などの食料と薬を購入して戻る途中だったと話す。ゼナ達はファイヤーリザードの皮について聞き、市場には、そんなに出回っては居ないと説明を受ける。
「そっかー市場に出てても高そうだね」
ヴェルテが残念そうに言う。
やはり自分達で収集するしかないねとゼナが言い、ヴェルテ達は、気合を入れていた。
それを聞いていたガルシアが砂漠のことなら自分に聞いてくれと胸を張り、ファイヤーリザードの生息地まで案内すると言う。今夜は取り敢えず、ガルシアの家に世話になり、明日から本格的に動くことに決まった。
ガザールに到着し、ヴェルテは街並みを見て喜ぶ。カルカラとは違い建物が密集して建てられていて、外壁は茶色の土壁が主流になっている。
「カルカラとは全然違うのネ」
ヴェルテは、初めて見る建築物に興味が尽きない様子だ。外壁の装飾も
独特な雰囲気が有り、目を奪われている。ガルシアに導かれ警備隊本部に到着した。
「砂漠の蠍を捕らえたので確認して欲しい」
ガルシアが警備隊に伝え、盗賊達の身柄を引き渡す。確認が終わり、警備隊から賞金を貰い受けるが、その金額にゼナ達は驚く。
「1500万ゼジル!!!」
偶々助けたことにより、高額な賞金を貰うことになるとは思っても無く、ゼナ達は大いに喜んだ。また、ガルシアは、盗賊達の馬も捕らえていた。馬はガルシアが売り払い、その利益の半分はゼナ達の物だと言う。ゼナは、馬の利益と賞金でファイヤーリザードの皮を仕入れたいとガルシアに伝えた。
ガルシアは、詳しい話は、俺の家に着いてからしようと言いガルシアの家に向かう。
ガルシアの家は他の家とは違い外壁の色が青い装飾が施していて神秘的な建物であった。また商人の家と言うことも有り、敷地も広いし警備兵も配置していることから、ガザール有数の商家と見受けられる。
「立派な家だね〜」
ヴェルテがキョロキョロ周りを見て話す。カルラは、ガルシア家のことを思い出す。ガザールの名家で当代は、まだ若いが行動力のある人物だと以前レイチェルから聞いた記憶が蘇った。
「うん!凄い家だね」
ゼナも相槌を打つ。
その後、ガルシア家で晩餐が開かれ夜遅くまで宴は続くのであった。




