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8

時は宋。


梁山泊では、晁蓋亡き後の静かな緊張が続いていた。


その百箇日の法要の席で――

宋江

は一人の名を何度も耳にすることになる。


北方・北京の大商人。


義に厚く。


武芸に優れ。


財力に富み。


そして人望に満ちる男。


その名は

盧俊義


宋江は言った。


「この人は必要だ」


そして静かに策を巡らせた。



だが。


その策はあまりにも露骨だった。


結果――盧俊義は


「梁山泊へ内通した疑い」


という名目で逮捕される。


完全に宋江のせいである。



その報せを運んだのは忠僕

燕青


彼は梁山泊の門前で叫んだ。


「主人が捕らえられた!」


宋江は立ち上がる。


「救う」


即断だった。


梁山泊軍は出陣する。



北京を襲撃。


守備軍を突破。


牢を破壊。


盧俊義を救出。


さらに追撃してきた

関勝

率いる討伐軍も撃破。


盧俊義は梁山泊に加わった。


このあたりまでは英雄譚である。


実に順調だった。


順調すぎた。



続いて曾頭市との戦いが始まる。


晁蓋の仇。


梁山泊の宿敵。


激戦。


死闘。


突撃。


包囲。


そして――


討ち取ったのは盧俊義だった。


宋江は言った。


「首領はあなたです」


盧俊義は言った。


「いや違う」


全員が言った。


「違う」


結果。


妙な決定がなされる。


東平府と東昌府。


どちらを先に落とすか。


先に落とした方が首領。


非常に梁山泊らしい決め方だった。



宋江軍は東平府へ向かった。


軍勢は整っていた。


士気は高かった。


勝利は目前だった。


だが。


その途中で――


問題が発生した。



街道の先に荷馬車が並んでいた。


数十台。


いや。


百台。


荷は絹。


茶。


香料。


鉄。


薬材。


塩。


そして羊肉。


旗には書かれていた。


西門


宋江が止まる。


副将が言う。


「商隊です」


宋江が言う。


「進軍だ」


そして――


通った。


踏み荒らした。


壊した。


潰した。


焼いた。


理由はない。


軍だからである。



その頃。


清河県。


西門邸。


西門慶レイ(193cm)は昼食中だった。


羊肉を食べていた。


魚も食べていた。


饅頭も食べていた。


そこへ番頭が走り込んできた。


「旦那様!」


レイが顔を上げる。


「のだ?」


番頭が言う。


「東平府方面の輸送路が」


レイの手が止まる。


「……のだ?」


「梁山泊軍に踏まれました」


沈黙。


空気が止まる。


料理人が動きを止める。


妻たちが視線を合わせる。


下男が呼吸を止める。


そして――


レイが立ち上がった。



「のだぁ?」


静かな声だった。


非常に静かな声だった。


それが一番危険だった。



「吾輩の」


机を叩く。


皿が跳ねる。


「商売ルートを」


椅子が倒れる。


「邪魔したのだぁ?」


番頭が震えながら頷く。


「はい」


レイは笑った。


非常に優しい笑顔だった。


「そうなのだぁ」


そして言った。


「秘密兵器を出すのだ」



東平府手前。


梁山泊軍は進軍していた。


勝利は目前だった。


士気は高かった。


歌もあった。


旗もあった。


そして。


風が吹いた。



最初に倒れたのは前列の兵だった。


「……?」


次に横の兵。


その次に後列。


その次に馬。


その次に将。


その次に旗手。


その次に全員。



吸えば即死。


西門家秘蔵。


輸送護衛用。


対盗賊用。


対反乱軍用。


対役人用。


万能型。


毒ガス


だった。



宋江は膝をついた。


盧俊義が振り向いた。


燕青が叫んだ。


だが。


もう遅かった。


風が通り過ぎた。


そして。


梁山泊軍は消えた。



遠くの丘の上で。


レイが立っていた。


巨大だった。


静かだった。


満足していた。


そして言った。


「うむ」


腕を組む。


「商売の邪魔をするのが悪いのだぁ」


番頭が頷く。


「当然です」


下男が頷く。


「当然です」


料理人が頷く。


「当然です」



レイは続けた。


「戦争はよくないのだ」


非常に説得力がなかった。


だが本人は真面目だった。



「物流が止まるのだぁ」


本音だった。



そして最後に言った。


「首領争いは静かにやるのだっ♡」


その時点で梁山泊には


もう


誰も残っていなかった。

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