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時は宋。
梁山泊では、晁蓋亡き後の静かな緊張が続いていた。
その百箇日の法要の席で――
宋江
は一人の名を何度も耳にすることになる。
北方・北京の大商人。
義に厚く。
武芸に優れ。
財力に富み。
そして人望に満ちる男。
その名は
盧俊義
宋江は言った。
「この人は必要だ」
そして静かに策を巡らせた。
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だが。
その策はあまりにも露骨だった。
結果――盧俊義は
「梁山泊へ内通した疑い」
という名目で逮捕される。
完全に宋江のせいである。
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その報せを運んだのは忠僕
燕青
彼は梁山泊の門前で叫んだ。
「主人が捕らえられた!」
宋江は立ち上がる。
「救う」
即断だった。
梁山泊軍は出陣する。
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北京を襲撃。
守備軍を突破。
牢を破壊。
盧俊義を救出。
さらに追撃してきた
関勝
率いる討伐軍も撃破。
盧俊義は梁山泊に加わった。
このあたりまでは英雄譚である。
実に順調だった。
順調すぎた。
⸻
続いて曾頭市との戦いが始まる。
晁蓋の仇。
梁山泊の宿敵。
激戦。
死闘。
突撃。
包囲。
そして――
討ち取ったのは盧俊義だった。
宋江は言った。
「首領はあなたです」
盧俊義は言った。
「いや違う」
全員が言った。
「違う」
結果。
妙な決定がなされる。
東平府と東昌府。
どちらを先に落とすか。
先に落とした方が首領。
非常に梁山泊らしい決め方だった。
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宋江軍は東平府へ向かった。
軍勢は整っていた。
士気は高かった。
勝利は目前だった。
だが。
その途中で――
問題が発生した。
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街道の先に荷馬車が並んでいた。
数十台。
いや。
百台。
荷は絹。
茶。
香料。
鉄。
薬材。
塩。
そして羊肉。
旗には書かれていた。
西門
宋江が止まる。
副将が言う。
「商隊です」
宋江が言う。
「進軍だ」
そして――
通った。
踏み荒らした。
壊した。
潰した。
焼いた。
理由はない。
軍だからである。
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その頃。
清河県。
西門邸。
西門慶レイ(193cm)は昼食中だった。
羊肉を食べていた。
魚も食べていた。
饅頭も食べていた。
そこへ番頭が走り込んできた。
「旦那様!」
レイが顔を上げる。
「のだ?」
番頭が言う。
「東平府方面の輸送路が」
レイの手が止まる。
「……のだ?」
「梁山泊軍に踏まれました」
沈黙。
空気が止まる。
料理人が動きを止める。
妻たちが視線を合わせる。
下男が呼吸を止める。
そして――
レイが立ち上がった。
⸻
「のだぁ?」
静かな声だった。
非常に静かな声だった。
それが一番危険だった。
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「吾輩の」
机を叩く。
皿が跳ねる。
「商売ルートを」
椅子が倒れる。
「邪魔したのだぁ?」
番頭が震えながら頷く。
「はい」
レイは笑った。
非常に優しい笑顔だった。
「そうなのだぁ」
そして言った。
「秘密兵器を出すのだ」
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東平府手前。
梁山泊軍は進軍していた。
勝利は目前だった。
士気は高かった。
歌もあった。
旗もあった。
そして。
風が吹いた。
⸻
最初に倒れたのは前列の兵だった。
「……?」
次に横の兵。
その次に後列。
その次に馬。
その次に将。
その次に旗手。
その次に全員。
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吸えば即死。
西門家秘蔵。
輸送護衛用。
対盗賊用。
対反乱軍用。
対役人用。
万能型。
毒ガス
だった。
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宋江は膝をついた。
盧俊義が振り向いた。
燕青が叫んだ。
だが。
もう遅かった。
風が通り過ぎた。
そして。
梁山泊軍は消えた。
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遠くの丘の上で。
レイが立っていた。
巨大だった。
静かだった。
満足していた。
そして言った。
「うむ」
腕を組む。
「商売の邪魔をするのが悪いのだぁ」
番頭が頷く。
「当然です」
下男が頷く。
「当然です」
料理人が頷く。
「当然です」
⸻
レイは続けた。
「戦争はよくないのだ」
非常に説得力がなかった。
だが本人は真面目だった。
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「物流が止まるのだぁ」
本音だった。
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そして最後に言った。
「首領争いは静かにやるのだっ♡」
その時点で梁山泊には
もう
誰も残っていなかった。




