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時は宋。
清河県、西門邸の大広間では――
西門慶レイ(193cm)がものすごい勢いで食事をしていた。
しかも怒っていた。
本気で怒っていた。
机の上には料理が山のように並んでいる。
蒸鶏。
焼羊。
煮魚。
団子。
餅。
点心。
酒。
菓子。
そして巨大な肉塊。
そのすべてが、怒りの速度で消えていく。
⸻
「全く最低ですのだぁ!」
どんっ
机を叩く。
皿が跳ねる。
下男が震える。
料理人が固まる。
番頭が帳簿を閉じる。
だがレイは止まらない。
羊肉を握る。
噛む。
飲み込む。
さらに言う。
「お風呂を覗かれるわ!」
使用人たちが頷く。
「恐ろしい事件でした」
「最低でした」
「許されません」
誰も事情を知らないが頷く。
⸻
「下僕は殺されるわ!」
肉団子を三つまとめて口に入れる。
番頭が言う。
「人材損失です」
帳場係が言う。
「補充費がかかります」
料理人が言う。
「包丁の持ち主が減りました」
全員、完全に経営視点であった。
⸻
「妻の元義弟は!」
酒を一気に飲む。
どんっ
杯を置く。
「官吏殺しに!」
もう一杯。
「兄殺しだわ!」
さらにもう一杯。
潘金蓮がそっと言う。
「大官人……」
李瓶児が続く。
「落ち着いてください」
孟玉楼がさらに続く。
「お身体に障ります」
だがレイは止まらない。
⸻
「この一カ月大変でしたのだっ!」
机を叩く。
点心が飛ぶ。
下男が拾う。
料理人が追加を持ってくる。
番頭が記録する。
「食事量、通常の三倍」
最低である。
⸻
レイはさらに怒っていた。
理由は多い。
とにかく多い。
そして順番もめちゃくちゃである。
「魯智深は下僕を殺すし!」
羊骨をかじる。
「宋江は覗くし!」
団子を飲む。
「武松は牛糞当てられて怒るし!」
意味不明である。
だが本人は正当な被害者のつもりである。
⸻
使用人たちは一生懸命働いていた。
一人が皿を運ぶ。
一人が酒を注ぐ。
一人が骨を片付ける。
一人が汗を拭く布を持つ。
そして番頭が言う。
「旦那様の御苦労は我々の御苦労です」
全員頷く。
なぜなら。
給料が良い。
食事が良い。
冬は暖かい。
夏は涼しい。
つまり。
忠誠心が高い。
⸻
レイはさらに怒った。
「もう!」
机を叩く。
「プンプンなのだぁ!」
巨大な体で腕を組む。
完全に拗ねていた
⸻
潘金蓮がそっと背中を撫でた。
「大官人、大丈夫です」
李瓶児が酒を差し出した。
「温かいものをどうぞ」
孟玉楼が言った。
「最近は本当に事件続きでした」
三人とも慰めていた。
だが心の中では一致していた。
(事件の半分はこの人のせいでは)
⸻
そのとき番頭が近づいた。
「旦那様」
レイが振り向く。
「のだ?」
「肉屋の補充ですが」
レイの表情が曇る。
「……のだ」
再び怒りが蘇る
⸻
「全くなのだぁ!」
立ち上がる。
椅子が鳴る。
「肉を解体できる男は貴重なのだぁ!」
使用人が頷く。
「その通りです」
料理人が頷く。
「骨の処理が難しくなりました」
帳場係が頷く。
「仕入れ効率が落ちます」
完全に一致していた。
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レイは再び座る。
そして巨大な饅頭を三つ同時に食べた。
「うむ」
少し落ち着いた。
だが完全ではない。
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「それに!」
突然また思い出す。
「林冲の妻も!」
全員止まる。
「変な顔だったのだぁ!」
誰も返事をしない。
潘金蓮だけが言った。
「……そうですね」
空気を守った。
⸻
レイは腕を組んだ。
深く頷いた。
「今月は本当に災難なのだ」
番頭が言った。
「まさにその通りです」
料理人が言った。
「厄月です」
下男が言った。
「来月は良くなります」
根拠はない。
だが慰めとして完璧だった。
⸻
レイは最後に言った。
「もう嫌なのだぁ」
少し静かな声だった。
そして追加の蒸鶏を受け取る。
もぐもぐ食べながら続ける。
「静かに商売したいだけなのだぁ」
番頭が深く頷いた。
「旦那様ほど平穏を望まれる方はいません」
全員頷いた。
誰も信じていない。
だが全員頷いた。
⸻
レイは満足した。
最後に酒を飲む。
そして宣言した。
「来月は事件禁止なのだぁ!」
使用人たちは一斉に頭を下げた。
「承知いたしました」
どうやって禁止するのかは
誰も知らなかった。




