19
時は宋。
清河県、西門邸の正門前では――
朝から妙な騒ぎが起きていた。
門番が眉をひそめていた。
下男が困っていた。
帳場係が遠巻きに見ていた。
理由は単純である。
子供が立っていた。
しかも。
ひどく痩せていた。
衣は擦り切れ、
足は裸足に近く、
顔は煤で汚れ、
そして目だけが妙に強かった。
⸻
門番が言った。
「誰だ」
子供が言った。
「西門大官人に会いたい」
門番が言った。
「何の用だ」
子供が言った。
「父だ」
沈黙。
完全沈黙である。
⸻
その報告は奥へ運ばれた。
帳場へ。
番頭へ。
料理場へ。
そして――
寝台の間へ。
⸻
西門慶レイ(193cm)は朝食中だった。
蒸鶏を食べていた。
魚粥を飲んでいた。
点心を三つ同時に食べていた。
そのとき。
番頭が言った。
「旦那様」
レイが振り向く。
「のだ?」
「門前に子供が来ています」
レイが言った。
「追い返すのだぁ」
番頭が言った。
「旦那様の子だと」
沈黙。
三秒。
五秒。
十秒。
⸻
「のだぁ?」
首を傾げる。
完全に本気で分かっていなかった。
⸻
庭へ出る。
歩く。
どす
どす
どす
門前に到着する。
子供が見上げる。
門番が退く。
下男が道を開ける。
全員が静かだった。
⸻
レイが見た。
三秒。
五秒。
十秒。
そして言った。
⸻
「のだぁ?」
さらに近づく。
顔を覗き込む。
そして言った。
⸻
「吾輩にこんな小汚い子供はいないのだぁ」
断言だった。
極めて断言だった。
⸻
子供が言った。
「母が」
レイが遮る。
「いないのだぁ」
子供が言った。
「金を」
レイが遮る。
「知らんのだぁ」
子供が言った。
「飢えて」
レイが遮る。
「関係ないのだぁ」
完全に処理が早かった。
⸻
そして。
腕を組む。
誇らしげだった。
⸻
「うむ!」
深く頷く。
⸻
「いないのだっ♡」
再確認だった。
⸻
番頭が小声で言った。
「旦那様」
レイが振り向く。
「のだ?」
「顔が似ているような」
沈黙。
レイが子供を見る。
三秒。
五秒。
十秒。
⸻
「似てないのだぁ」
即答だった。
⸻
子供が言った。
「母は」
レイが言った。
「知らんのだぁ」
子供が言った。
「あなたが」
レイが言った。
「違うのだぁ」
完全遮断だった。
⸻
そして。
後ろを振り向く。
声を張る。
⸻
「下僕どもぉ!」
全員が姿勢を正す。
門番が直立する。
下男が前に出る。
帳場係が筆を止める。
料理人が包丁を置く。
⸻
「この薄汚いやつをどっかに連れてけぇ!」
命令だった。
即時だった。
例外なしだった。
⸻
下男が動いた。
門番が腕を取る。
帳場係が背を押す。
子供が踏みとどまる。
だが。
人数が違った。
立場が違った。
環境が違った。
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「離せ!」
子供が叫ぶ。
誰も止まらない。
⸻
「父だろ!」
誰も止まらない。
⸻
「金だけでいい!」
誰も止まらない。
⸻
門の外へ出された。
どさっ
砂埃が舞う。
門が閉まる。
がたん
完全排出だった。
⸻
門の内側で。
レイは腕を組んでいた。
満足そうだった。
⸻
「うむ」
深く頷く。
⸻
「最近は詐欺が多いのだぁ」
番頭が頷く。
「確かに」
帳場係が頷く。
「多いです」
料理人が頷く。
「多いですね」
門番が頷く。
「多いです」
誰も検証しなかった。
⸻
そのとき。
潘金蓮が静かに言った。
「大官人」
レイが振り向く。
「のだ?」
「本当に違うのですか」
沈黙。
三秒。
五秒。
十秒。
⸻
レイは言った。
⸻
「違うのだぁ」
即答だった。
⸻
そして続けた。
⸻
「もし違ってなかったとしても」
全員が止まる。
⸻
「知らんのだぁ」
完全に結論だった。
⸻
庭の鯉が跳ねた。
風が吹いた。
門の外では足音が遠ざかっていた。
そして西門邸の中では――
帳簿が再び開かれ、
蒸鶏が再び運ばれ、
物流が再び動き始めた。
清河県の朝は、
今日も非常に
円滑だった。




