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16

時は宋。


天下は

宋徽宗

の治世であった。


芸術に秀で、


書を愛し、


絵を愛し、


花を愛し、


石を愛し、


そして――


人を見る目だけは壊滅的であった。


その寵臣として異例の出世を遂げた男がいた。


その名は

高俅


もとは無頼。


後には権臣。


蹴鞠の腕だけで天子の寵愛を得た男である。


そして彼は、


その寵愛を笠に、


好き勝手に振る舞っていた。


だが。


清河県には、


別の意味で好き勝手に振る舞っている男がいた。



西門慶レイ(193cm)


である。



その日。


彼は珍しく真剣な顔で歩いていた。


尻も揺れていない。


ふり


ふり


ふり


……いや揺れていた。


だが本人は真剣だった。



番頭が恐る恐る聞いた。


「旦那様」


レイが振り向く。


「のだ?」


「今日はどちらへ」


レイは胸を叩いた。


どんっ


「大事な用事なのだぁ」


番頭が震える。


料理人が止まる。


帳場係が息を止める。


嫌な予感しかしない。



レイは懐に手を入れた。


ごそごそ


取り出した。


紙だった。


長かった。


非常に長かった。



「うむ!」


誇らしげだった。


「これこそ御守りですのだっ♡」


番頭が固まる。


帳場係が固まる。


料理人が固まる。



番頭が聞いた。


「……何の」


レイが胸を張る。


「胸のでかい若い女性の名前リストなのだぁ」


沈黙。


完全沈黙。


市場の音が遠くなる。


犬が止まる。


風が止まる。


鯉も止まる。



帳場係が言った。


「御守り……?」


レイが頷く。


真剣だった。


非常に真剣だった。


「重要なのだぁ」



「商売の基本なのだぁ」


番頭が聞いた。


「どういう意味ですか」


レイが紙を広げた。


そこには整然と並んでいた。


名前。


出身。


年齢。


家族構成。


胸囲(推定)。


評価コメント。


極めて体系的だった。



「うむ!」


指でなぞる。


「これは北倉庫方面なのだぁ」


次を指す。


「これは関所役人の縁者なのだぁ」


さらに指す。


「これは布商の娘なのだぁ」


さらに指す。


「これは酒屋の姪なのだぁ」


番頭が座り込んだ。



「つまり」


レイは言った。


誇らしげだった。


「物流なのだぁ」


帳場係が言った。


「物流……」


料理人が言った。


「物流……」


門番が言った。


「物流……」


誰も理解していなかった。



そのとき別の使用人が走ってきた。


「旦那様!」


レイが振り向く。


「のだ?」


「北方の関所で」


沈黙。


全員止まる。


「通行が止まりそうです」


レイが頷く。


紙を見る。


三秒。


五秒。


そして言った。



「三番なのだぁ」


番頭が震える。


「三番……?」


レイが指を置く。


そこには書かれていた。


関所副官の妹(胸評価:極めて良好)



「これで通るのだぁ」


番頭が空を見た。


帳場係が壁を見た。


料理人が床を見た。


全員が理解した。


通る。


確実に通る。



レイはさらに紙を折った。


丁寧に折った。


三回折った。


四回折った。


そして懐に戻した。



「うむ!」


満足そうだった。


「御守りは大事なのだぁ」



そのとき。


遠くから別の使用人が来た。


「旦那様!」


レイが振り向く。


「のだ?」


「京から知らせです」


空気が変わる。


番頭が姿勢を正す。


帳場係が息を止める。


料理人が皿を置く。



「高俅様の関係者が」


沈黙。


さらに沈黙。


「南路の管理を始めました」


全員が凍る。


危険だった。


非常に危険だった。



だが。


レイは落ち着いていた。


ゆっくり懐に手を入れる。


紙を出す。


広げる。


指を置く。



「七番なのだぁ」


番頭が聞いた。


「七番……?」


そこには書かれていた。


蹴鞠仲間の姪(胸評価:優)



レイは深く頷いた。


完全に勝利の顔だった。


「これで円滑なのだぁ」



番頭が小声で言った。


「旦那様」


レイが振り向く。


「のだ?」


「それは御守りではなく」


沈黙。


そして続けた。


「戦略です」



レイは少し考えた。


三秒。


五秒。


そして言った。


「うむ!」


満足そうだった。



「最強の御守りなのだぁ」

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