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幸運付与師~追放された僕は、美少女たちに幸運をもたらし最強に育て上げる。  作者: 秋ヶ瀬胡桃
第三部。三人娘は、アイドルを目指すのだけど。

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51/52

51.こいこい!

 エルールと女神の花札対決は、三回戦、四回戦と順調に回を重ねる。

 一進一退の緊迫した勝負が繰り広げられる。

 ミサキ以外の花札のやり方を知らない者も、固唾かたずをのんで見守る。


「こいこい!」


 エルールが宣言する。

 この対決で初めての「こいこい」だ。


「ほお、大胆であるこん」


 ミサキが、感嘆の声を漏らす。

 女神の側も「赤短あかたん」が揃いそうな状態なのだ。

 エルールの背後で応援する皆は、エルール以上に緊張する。


「本当によろしいのかしら」


 女神が微笑む。

 もったいぶって梅のカス札を出し、梅の短冊札を取る。


「はい、『赤短』の完成」


「ああ、負けたわ」


 一瞬落ちこむエルールだったが、すぐに気を取り直す。

 間髪を入れずに次の回の開始。

 手に汗を握る駆け引きが続く。


「こいこい!」


 またしてもエルールが宣言。

 前回の失敗に懲りていない。


「あらまあ、せっかく『青短あおたん』がそろったのに」


 女神は、挑発的に高笑いをする。


「でも、私にはこの種札が……」


「えーっ」


 思わず叫ぶ女神。

 エルールが、「花見で一杯」を成立させたのだ。


「これで十点だね」


「子供のくせに『花見で一杯』だなんて生意気よ、もう」


 悔しがる女神。

 だが、女神も気持ちの切り替えが早い。

 余裕の笑みを取り戻し、次の回のために札を整える。


 対決はなおも続き、とうとう最後の十二回戦。

 女神の方が八点のリードだ。


「もしかして、これってエルールのピンチ?」


 ルナは、心配そうにミサキの顔を見る。

 ミサキは、厳しい表情でうなずく。


「だけど、アレクの幸運付与がまだ効いているはずよね?」


「どうかなあ」


 アレクは、自信なさげだ。

 向かい合うエルールと女神を見つめる。


「この真剣勝負に僕の力なんかが介入できるだろうか」


 勝負は最終局面へ。

 エルールの取り札には、「桜に幕」と「松に鶴」と「桐に鳳凰」がある。


「ここで『坊主』が取れれば『四光しこう』で八点であるこん」


 ミサキが、ルナたちに解説する。


「ってことは、同点のチャンスね」


 ルナは、わくわくしながら、エルールが場札をめくるのを見つめる。

 何と、狙い通り「坊主」が出た。

 幸い手札に「すすきかり」がある。

 見事に「四光」ができたのだ。


「やったあ」


 ルナたち三人娘は、エルールの後ろで喜んで抱き合う。

 少し離れて見物していたギーゼラも、無表情だが、内心安堵している。


「あらあら、運に助けられたわね」


 嫌みったらしく言う女神。

 手札を床に置こうとする。


「こいこい!」


「えっ?」


 女神は、少女エルールの豪胆さに驚く。

 観戦する皆も同じだ。

 だが、エルールの笑顔は、ゲームを楽しむ少女そのものだ。



ᓚᘏᗢ



「ここで『五光』を狙うって、正気なの?」


「正気だよ」


 女神の問いに、あっけらかんと答えるエルール。

 全く負けを恐れていないようだ。


「だったら、ここで私が役を作れば……」


 女神が札を引く。

 手元に同じ月の札はあるか。

 残り少ない手札を慎重に調べる。

 アレクたちには、その時間が非常に長く感じられた。

 実際は、十秒もかからなかったのだが。

 女神が引いたのは、「萩に猪」だった。


「うー、残念」


 女神は、役を作れなかった。

 命拾いしたエルール。

 応援するアレクたちは、ほっと胸をなで下ろす。


「君の好きな封豨ほうきに似てる猪でよかったじゃん」


 エルールが皮肉を言う。


「私は、『菊に盃』の方が好きだけど」


「じゃ、これで決まるかな」


 エルールの番。

 山札から現れたのは……。


「嘘……」


 絶句する女神。

 女神の手から手札がはらはらと落ち、透明な床に散らばる。

 エルールの手には、「柳に小野道風」が。

 滅多に見られない「五光」が、最後の最後に完成したのだ。


「えへへ、できちゃった」


 エルールは、満面の笑みを浮かべる。

 後ろの応援者に振り向いてサムズアップをする。


「凄いのであるこん」


 あんぐりと口を開けるミサキ。


「へえ、これでエルールちゃんの勝ちなんだね」


 ルナは、まだエルールの勝利を完全に実感できていない。

 何か見事な逆転勝ちらしいことだけ理解した。


「それで、この勝負で何が決まったというのですの?」


 ギーゼラが、最大の疑問に切りこむ。


「もちろん、君たちの命、生命力だよ。

 これで君たちの命は保証されたよ」


「その小さな紙切れに私たちの命が……。

 そんな魔物、私がもう一度葬り去ってくれたものを」


 苦虫をかみつぶしたような表情になるギーゼラ。


「ま、平和的に解決したんなら、それでいいんじゃないの」


 ルナは、暢気のんきに微笑む。


「よくありませんわ。

 私たちの命で賭け事をされたようなものですわ」


 ギーゼラは、怒りをあらわにする。

 取り巻きたちも、賛同して何度も頷く。


「でも、これでもう元の場所に帰れるのですね?」


 アレクは、エルールに確認する。


「もう一つあるんだよね、これが」


 エルールは、申し訳なさそうに苦笑いする。


「そうよ」


 女神が、項垂れていた顔を上げる。

 獲物を狙う爬虫類のような目でエルールを睨む。


「この私が、美味しい餌を目の前にしてそう簡単に引き下がるわけないでしょ」


 禍々しいオーラを身にまとって立ち上がる。


「素直に敗北を認めなさいよ」


 ルナが、女神に人差し指を向けて非難する。

 同時に戦闘態勢に入る。

 ミサキとイヨも、火球を作り出す準備をする。

 しかし、相手は不死身に等しい女神だ。

 果たして勝ち目はあるのだろうか。



ᓚᘏᗢ



 エルールが、女神の前に立ちはだかる。

 女神と睨み合いになる。

 身長差があるので、エルールが上目遣いだ。

 無言で睨み合いが続く。

 アレクが、何か様子がおかしいことに気づく。


「あの二人、どういう関係なのかな?」


 アレクが小声でささやく。


「どういうって、確かに謎ね……」


 ルナは、ミサキとイヨを横目で見て考えを聞こうとする。


「初対面ではなさそうであるこん」


「なんだか似ているような」


「まさか、姉妹?」


「母と娘こん?」


 三人は、顔を近づけてひそひそと会話する。

 言われてみれば、顔が似ている気がする。

 子供と大人であり、雰囲気も違うので、今までは気づきにくかった。

 エルールが成長すれば、女神ルーレのようになりそうだ。

 成長の途中で性格がねじ曲がればの話だが。


 女神が、一歩エルールに接近する。

 戦いが始まるかと思ったが、違った。

 いきなり女神がエルールを抱きしめたのだ。

 エルールも、黙って女神の抱擁を受け入れる。

 見ていた一同は、皆ぽかんとした顔に。

 だが、これでもう争いはないはずだ。

 誰もが安心したその時だった。

 エルールと女神の体が光を放ち始めた。

 二人の体は、次第に融合して、一人の女へと変わる。

 アレクたちは、その姿に目を見張る。


「私は、真の女神ルーレ」


 今までの女神ルーレと顔は変わらないが、全く違う美しさを感じる。

 悪そうな雰囲気が全然ないのだ。


「またこうして一つの体になることができたのも、あなたたちがいてくれたおかげです」


 優しく微笑みながら話す。

 しかし、皆には、言葉の意味がわからない。

 唖然として聞き返すこともできない。

 ルーレは、なおも説明を続ける。


「私の力を自分の都合のよいように利用したい人たちが祈ったせいで、私に悪しき心が生じて善い心はエルールとして分離してしまったのです」


「それが、どういうわけか元に戻れたのですね」


 アレクが、ようやく口を開く。


「あなたたちが、二人の私を結びつけてくれたのです」


「え、そうかなあ?」


 ルナが首をかしげる。


「エルールのいる森へ悪のルーレを導いてくれたではありませんか」


 また全員きょとんとした顔になる。


「あれは、仕方なく森へ向かっただけでしたよね」


 イヨは、そばにいるミサキに耳打ちする。


「女神様は、もしや何か誤解をしているのであるかこん」


「まあ、誤解でもいいんじゃないの」


 ルナは、明るく笑う。


「本当にあなたを信じてよろしいのですわね」


 疑いの眼差しを女神に向けるギーゼラ。

 これまでのこともあるので、当然だろう。


「信じていただけるように努めます」


 女神の誠実な返答に、ギーゼラの表情が緩む。

 ギーゼラの様子を見て、取り巻きたちも安心する。


「もうすぐ最初の暗い森の上空です。

 残された少女たちを助けましょう」


 飛行船の周りを覆っていた厚い雲はなくなっていた。

 また透明な壁の外に雄大な景色が広がっている。

 飛行船の進む先に、霧に包まれた盆地が見えてくる。


「あそこに着陸します」


 高度を下げ、霧の中へと降りる。

 そこは、確かに最初に転移した枯れ木の森だった。

 フェスティバルの参加者たちは、まだこの森にいるはずだ。

 無事でいればよいのだが。

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