5.パーティーを組もう
「その人がどうやってハムスターを操っていたのかを説明しましょう」
アレクは、周囲の人々に向けて話を続ける。
「何か目で見てわかるトリックを使っていたわけではありません。
この人が天から授かった職業が、鼠使いなんです」
「鼠使い?」
ルナは、耳慣れない職業名に驚く。
「僕も、名前だけ知っていて、今日初めて出会いました。
その名の通り、鼠の類いを使役できるのです。
特殊な職業の人が放つ魔力を感じたので、鼠使いのスキルでハムスターを操っているに違いないと考えたのです。
それで、その魔法にちょっと妨害を加えたら、こうなりました。
せっかく珍しい職業なのですから、もっと工夫して正しいことに使って欲しかったと思います」
「でも、どう使えばいいんだか」
ルナが、小声でつぶやく。
「あーあ、ばれちまったか。
魔力を感じ取る奴がいるとはな」
チンピラのリーダーが、悔しそうに吐き捨てる。
周囲からの厳しい視線が、チンピラたちに降り注ぐ。
「それじゃ賭けにならないじゃないか」
「そうだ、そうだ」
あちこちから非難の声が上がる。
「返しゃいいんだろ、ほれ」
リーダーは、お金の入った袋を中年男の足下に放り投げる。
ハムスターを箱に入れ、仲間にギャンブルの道具を持たせて逃走。
すたこらさっさという古典的な擬音が似合う走り方だ。
野次馬たちが、一斉に笑う。
「よかったですね、おじさん」
と、ルナ。
「本当にありがとうございます」
中年男は、ルナとアレクに何度も頭を下げる。
「今度からは、あんまりギャンブルなんかやらない方がいいわよ」
ルナの忠告に、中年男は照れ笑いをする。
中年男は、さらに何度も礼を述べてから故郷へと帰った。
「それにしても、さっきの人の魔力に気づくなんて、アレクって凄いよ。
あたしには魔力がないから、他人の魔力も感じられないんだ」
「これも経験かな。
あの人が鼠使いの能力があるのに僕の魔力を感じられなかったのは、詐欺ばかりやってて魔力を鍛えることをしてこなかったからだと思う」
「なるほどね。
アレクほどの年齢で魔力が鍛えられてるってのは、やっぱり凄いよ」
「魔法なしであれだけ戦えるルナも相当なものだけど……」
そんな会話をしつつ、二人は、クリガ市の冒険者ギルドに到着。
アレクは、ギルドの門前で足を止める。
ルナに確認したかったことがあった。
「サンダーニカを依頼した人って、どんな人なの?
信用できるの?」
「信用できるかどうかってことまで考えてなかったなあ。
何かの学者らしいけど、依頼人の名前もよく知らないの。
依頼者の名前は明かせないって代理の人に言われてて。
他にも何人かの冒険者に同じ依頼してたみたいよ」
「この大陸にない植物を冒険者に探してこさせるなんて、やっぱり怪しいと思うんだけど」
「代理のシュルツさんは、今このギルドのサロンにいるはずよ。
毎日午後にここに来て待ってるって」
「誰かがサンダーニカを持ってくるのを待ち続けるつもりなのか」
誰も持ってこなかったらどうするつもりなのだろう?
アレクは、シュルツという人の忍耐力に感心する。
「とりあえず、代理の人に会ってみましょうよ」
ルナは、ギルドの扉をくぐる。
仕方なく従うアレク。
「あっ、あの人よ」
ルナは、すぐにシュルツを見つけた。
雰囲気の暗い初老の男だった。
身なりからすると、金持ちの家の使用人らしい。
サロンの奥まった一角で、何もせずにテーブルの椅子に座っている。
本当に忍耐強く待ち続けていたらしい。
ᓚᘏᗢ
「依頼された品ですが……」
ルナが、シュルツの前に座る。
アレクは、少し離れた場所に立つ。
「あなたは、確か、ルナ・エル・レジナルド様ですね」
シュルツは、ルナのことを覚えていた。
「はい、そうです。
そこにいるのは、あたしの仲間です。
この葉っぱでよろしいのでしょうか?」
ルナは、鞄からサンダーニカの葉を三枚取り出す。
五枚あるが、二枚はまだ鞄の中だ。
「では、拝見いたします」
シュルツは、サンダーニカの葉を手に取る。
葉の裏と表を何度も入念に見る。
手触りや匂いも確かめる。
「確かに本物に違いありません。
本当に持ってくる人がいるとは、正直に申し上げると、驚きました」
なぜこの大陸に存在しない植物なのに本物だとわかるのだろう。
疑問に思うアレクだったが、口には出さない。
「葉だけなのでしょうか?」
「ええ、その、木が小さかったのと途中モンスターが出現したのとで、それだけになってしまいました」
ルナの説明は、事実とは少し違うが、嘘でもない。
「そうですか。
それでは、これが報酬です」
ジンナラ金貨が三枚。
当分は遊んで暮らせる金額だ。
ルナは、目を丸くして金貨を見つめる。
金貨は、滅多に手に入らない代物なのだ。
「では、私はこれで」
シュルツは、一礼してギルドを出て行った。
「儲かっちゃったあ」
ルナは、満面の笑みだ。
「ねえねえ、これで美味しいものでも食べに行こうか。
あっ、金貨をすぐには町で使えるお金に換えられないんだっけ。
おっと、いけない。
あんまりしゃべると掏摸に狙われちゃう」
大金に浮かれて、そわそわしている。
きょろきょろとギルドの中を見回す。
周囲の人の様子を気にしながら金貨を鞄の奥にしっかりとしまう。
「あっ、そういえば、あの人に何か怪しいところはなかった?」
やや冷静さを取り戻したルナが、アレクに尋ねる。
「魔力も感じなかったし、よくわからなかった」
「あたしも、込み入ったことを聞くわけにはいかなかったし」
「サンダーニカが必要な理由も、それを研究して新薬を開発するとかぐらいしか思いつかないな。
僕の気にしすぎだったかも」
「悪いことに使えそうにないし、お金もちゃんとくれたしね。
あたしたちは、冒険者としての仕事をこなしただけ。
それでこの一件は全て終わったの。
それでいいんじゃないかしら」
アレクには、まだ心に引っかかるところがあった。
だからといって、自分にできることは、今は特にない。
ルナの言葉に従い、とりあえず忘れることにした。
さて、一仕事終わって、することが何もない。
アレクとルナが一緒にいる理由もない。
しかし、分かれたところで、行く当てもない。
「ルナは、今後はどうするの?」
「そりゃあ次の仕事を探すっきゃないっしょ」
ルナは、少し大人びた表情で、サロンの一角に目をやる。
ギルドの掲示板だ。
何人かの冒険者が、自分に向いた仕事の依頼を探している。
「今回儲けたお金だって、しばらくすればなくなっちゃうし、仕事をし続けるしかないわ」
若いに似合わず冒険者慣れした感じだ。
「ところで、アレクに提案があるんだけど、いいかな?」
ᓚᘏᗢ
「提案って?」
「あたしとパーティーを組まない?」
アレクにとっては、意外な申し出だった。
前のパーティーから追放されて以来、パーティーのことを考えていなかったのだ。
「でも、僕なんか……」
「あたし、アレクと一緒に過ごして思ったの。
今まで一人でやってきたけど、やっぱり一人だけじゃ駄目だって」
アレクにとっても嬉しい誘いだった。
幸運付与師とは、もちろん他者を幸運にする仕事だ。
その能力は、経験上、悪人や魔物が絡んだ場合しか発動しない。
ただ不幸なだけの人を幸せにするのは難しいのだ。
そもそも、幸せを振りまくだけでは商売にならないという現実もある。
冒険者としての戦いの中でこそ自分の力は発揮される。
「そうだね。
パーティーを組もう」
「嬉しいっ」
ルナは、アレクに抱きついて喜びを表す。
アレクの頬が赤くなる。
ルナの胸の大きさを実感しているのだ。
「あっ」
ルナも、胸を押しつけすぎたことに気づいて赤面する。
照れ隠しにギルド内をきょろきょろと見回す。
掲示板の前へと駆け寄る。
「何かあたしたちにできる依頼はないかなあ」
掲示板には、何枚もの紙が貼られている。
魔物退治、単なる力仕事、パーティーメンバー募集などなど。
ルナは、自分たちに見合った依頼を探す。
しかし、都合よくちょうどよいのはない。
「あまりお金にならないのばっかりね。
遠くの町とかが多いから、そこへ行く旅費だけで依頼料を越えそう」
「いい仕事は、先に他の人に取られちゃうからね」
「お金になるのは、ランクの高いパーティー限定になってるし。
かといって、そういうパーティーに入れてもらうのもなあ……」
「そういえば、どうしてルナは、今まで一人だったの?
ルナなら高いランクのパーティーに入れそうなのに」
アレクの問いに、ルナの顔が曇る。
「あ、いや、答えたくなければいいんだ」
聞かれたくないことを聞いてしまったらしい。
慌てて謝る。
「意地……かな。
あたしも、いろいろあってね」
ルナの顔に明るさが戻る。
「ギルドの職員に聞いてみるか。
掲示板にない細かい情報があるかもしれないから」
ルナは、すぐさま窓口に向かう。
職員の女の人に仕事がないかをしつこいぐらいに尋ねる。
だが、職員は、首を横に振るばかりだ。
「こうなったら、町に出よう。
仕事の種を探すのよ」
ルナは、アレクを連れてギルドを出る。
アレクは、ルナの行動力に感心しながらついてゆく。
「人手を求めてそうな人を探したり、噂話に耳を傾けたりするの。
そうしてると、意外と見つかるものよ」
ルナとアレクは、クリガの町中を当てもなく歩き回る。
仕事探しというよりは市内見物だ。
活気に満ちた人々の様子を見るだけでも、結構楽しい。
ルナは、ちょっとしたデート気分でいる。
金貨もあるので、先の心配はあまりしていない。
そんな時だった。
人混みの中から女の声がした。
「あっ、ルナじゃん。
こんなところで何やってんだ」
目つきの悪い女が、不良っぽい話し方で問いかける。
ルナの顔が、再び曇る。
「あー、嫌なのに会っちゃったなあ……」
ルナは、目をそらして小声でつぶやく。
どうやら因縁のある相手らしい。
一体何者なのだろうか。




