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幸運付与師~追放された僕は、美少女たちに幸運をもたらし最強に育て上げる。  作者: 秋ヶ瀬胡桃
第一部。アレクが自分のパーティーを作るまで。

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4.うわあ、可愛い

 イヨの手から魔物に向けて治癒の光が発せられる。

 光を浴びた魔物は、何故か一瞬(ひる)む。

 魔物の魔力が弱まる。

 その隙に、ヌールが瞬間移動魔法を行う。

 五人は、屋敷の外の森へと逃れた。


「はあ、はあ、どうなってるの?」


 カーラは、息を切らしながら仲間に尋ねる。


「相手が魔属性なので、もしかしたら聖属性のヒールを嫌がるのではないかと……」


 イヨが答える。


「ふうん」


 カーラは、イヨを目下だと思っているので、感謝の言葉はない。

 ただうつむいて地面をにらみつけている。

 他のメンバーも悔しそうな表情だ。


「あいつ、ここまで追ってくるんじゃ……」


 大剣を失ったキューボックは怯えている。


「家に付く魔物のようなので、外までは……。

 でも、早く町に帰って計画を立て直した方が……。

 きっと、あれは、レイスの中でもハイレイスと呼ばれる高等な……」


 イヨの言葉に対して、メンバーの反応は悪い。

 帰ることは、敗北を意味する。

 無敗を誇った特級冒険者の称号に傷がついてしまう。


「あんなのが出てくるなんて、運がなかったぜ」


 立てるまでに回復したエルベが、吐き捨てるように言う。


「運……」


 イヨは、周りに聞こえないほど小さな声でつぶやく。

 アレクのことを思い出していた。




 その後、五人は、モローニョのギルドに帰った。

 仕事の失敗を隠していたが、一日もしないうちに知れ渡ってしまった。

 有名なパーティーは、行動を注目している人も多いのだ。

 依頼を受けて出発したのに暗い顔で戻ってきたら、たちまち噂になる。


「町の連中は、好き勝手なこと言ってやがる」


 ギルド内の部屋で、エルベが愚痴る。


「あんな強い奴、誰だって倒せやしねえっつうんだよ」


「うるせえなあ。

 さっきから何度同じこと言ってんだよ」


 キューボックが、苛立ちをエルベにぶつける。


「はあ、何だと?

 てめえのあの無様な逃げ方は何だったんだよ。

 てめえがしっかりしてねえから負けたんだろうが」


「そうよ、そうよ。

 あんたがいけないのよ」


 カーラは、エルベに同調する。

 三人の言い争いは、次第に激しくなる。

 失敗を反省し合うならまだよいのだが、ただの罵倒の応酬だ。

 ののしり合いは、一向に終わりそうな気配がない。

 ヌールは、離れた位置からその様子をニヤニヤしながら眺めている。


 イヨは、部屋の隅で膝を抱えて縮こまりながら考える。

 一度の敗北でこんな酷い仲違いをしてしまうだなんて。

 私たち憤怒の掌の結束なんて、実態はこんなもの。

 今までは、勝てていたから一緒にいたに過ぎないのではないか。




 一方その頃、アレクとルナは、クリガの町に到着した。

 町のメインストリートは、人通りも多い。

 多くの商店が軒を連ね、活気がある。


「依頼人とは、この町の冒険者ギルドで会う約束なんだ」


「ちょっと気になってたんだけど、その依頼人ってどんな人?」


「それがさ、身分は明かせないんだって。

 まあ、あたしとしては、その人の身分なんてどうでもいいし」


 そんな会話をしながらギルドの近くまで来る。

 何やら通りが騒がしい。

 数人の男が、大声を張り上げている。


「この辺って、ああいうのが多いんだよねえ」


 ルナは呆れ顔だ。

 それでも、見過ごせないようで、男たちのそばまで様子を見に行く。

 アレクも、しょうがないなあと思いつつ、ルナの跡を追う。

 余計な揉め事に巻き込まれなければよいのだが。



ᓚᘏᗢ



「どう考えても、やっぱりインチキだ。

 お前たちが途中からあんなに勝ち続けるなんて」


 泣きそうな声の中年の男。

 身なりからして、貧しい農民だ。

 農村からこの町に来ているのだろう。


「だからさ、どこがどうインチキなのか説明してくれよ」


 中年男を取り囲んでいる男たちは、見るからチンピラといった風貌。

 西洋の町人風の服なのにラメ入りの腹巻きをつけた不思議な恰好。

 この世界では、これがチンピラのお約束のスタイルなのだ。


「その金がないと困るんだ。

 頼むから返してくれ」


 中年男は、チンピラの一人の手をつかんで懇願する。

 チンピラは、手を振りほどき、その場を去ろうとする。


「あの様子だと、インチキギャンブルに引っかかっちゃったのね。

 田舎から来た人なんかが、だまされちゃったりするのよね。

 だけど、インチキを証明できないと助けようがないなあ」


 ルナは残念そうだ。


「全財産なんだ。

 その金がないと、俺の家族が……」


 中年男は、必死に頼みこむ。

 惨めで見るに堪えない姿だ。


「うるせえんだよ!」


 チンピラが中年男を殴る。

 中年男は、地面に転がる。


「待ってくれえ」


 チンピラの足にすがりつく。

 その手が踏みつけられる。

 さらに、顔や脇腹にも蹴りが入れられる。


「ちょっと、あなたたち!」


 たまりかねたルナが、チンピラたちに叫ぶ。

 野次馬をかき分け、男たちの前に出る。


「いくら何でも、殴ることはないでしょ」


「何だよ、お嬢ちゃん。

 ガキには関係ない大人のやりとりなんだから引っこんでな」


 チンピラの中で一番強そうなのが、ルナを睨みつける。

 しかし、ルナは、魔物や盗賊と戦ってきた女だ。

 少々強そうな男程度では全く怯まない。


「いかさま賭博に誘いこんで、お金を巻き上げたんでしょ。

 賭け事なんてやろうとするこのおじさんもよくないけどさ、こんなに必死に頼んでるんだし、お金を返してあげなさいよ」


「必死の演技ぐらいで金を返してたら商売にならねえだろうが」


 チンピラたちは、ルナの言うことなど聞くつもりはない。

 薄ら笑いを浮かべながら歩き出す。


 ルナも、これ以上の言葉が出てこない。

 暴力に訴えれば、ルナの体力なら勝てるはずだ。

 だが、それではチンピラと変わりはない。

 黙って立ち尽くす。


「あの、待ってください!」


 今度叫んだのはアレクだった。


「まだ何か用か!」


 チンピラは、一層強くドスをきかせる。

 アレクは、この類いの人間に接するのは初めてだ。

 冒険者として遭遇した魔物より恐ろしく感じる。


「え、ええと、ぼ、僕に考えがあるんですけど」


 アレクの声は、少し震えている。

 まだ度胸ではルナにかなわない。


「アレク、考えって?」


 アレクは、ルナのそばによって小声で話す。


「僕の幸運付与が使えそうな気がするんだ」


「なあ、考えってのは何なんだよ」


 チンピラの一人が、下卑た顔をアレクの顔にくっつくほど近づける。

 魔物とは別種の恐ろしさを感じさせる顔面だ。


「あ、あのですね、もう一度この人とギャンブルをやってみたらと……。

 次の勝負でおじさんが勝てば、お金はおじさんに戻りますよね」


 チンピラも中年も周囲の野次馬も、呆れた表情をしている。

 ルナだけが、アレクの考えを理解して微笑む。



ᓚᘏᗢ



「もう一度やったって勝てるわけがないじゃありませんか。

 余計に取られるだけだ」


 中年男は、アレクに抗議する。


「周りに人がたくさんいる状態なら結果が違うかも知れませんよ」


 アレクは、幸運付与のことは隠して話す。


「まるで俺たちが、いかさまをしてたみてえに言うじゃねえか」


 チンピラの一人が、アレクに詰め寄る。


「い、いえ、いかさまだなんて、そんな……」


「まあ、いい。

 俺たちは、何度やったっていいんだぜ」


「どうしますか、おじさん?」


 中年男は迷っている。

 そこへルナが近寄ってささやく。


「アレクならなんとかしてくれるわ。

 少なくとも、町の治安係よりは頼りになると思うわよ」


「それなら……」


 中年男は、再勝負を了承した。




 チンピラたちが、賭け事の道具をこの場に用意する。

 長さが五十センチほどのY字型の雨樋あまどいのようなものだ。

 アレクとルナには、ぱっと見では使い方がわからない。

 そのY字型を地面に置き、さらに小さな箱を取り出す。

 箱を開けると、中から出てきたのは、一匹の小さなハムスターだった。


「うわあ、可愛い」


 ルナは、目を輝かす。

 続けて、ぼそっと、


「こいつらに全然似合ってないけど」


 と付け足す。


「で、これをどうするの?」


 チンピラの説明はこうだ。

 Y字の下がスタートで、上の二つある先端のどちらかがゴール。

 ハムスターを歩かせ、左右どちらのゴールに出るかを当てる。


「へえ、意外と単純なギャンブルだったのね」


 ルナは、ちょっと拍子抜けした。

 アレクも同じだ。

 想像していた反社の賭博は、もっと悪徳の香りがするはずだった。

 しかし、見た目の可愛さで、賭け事へのハードルが低い。

 かえって悪辣な気もする。

 中年男がインチキだと主張していたのにも理由があるはず。

 どんな仕掛けがあるのだろうか。


「じゃ、始めやすよ」


 チンピラが、ハムスターをスタート地点に置く。

 ハムスターに手を当てたまま、中年男に問う。


「どっちにしやすか?」


「ええっと……、右!」


「あんたたちも賭けますかい?

 一回三クワンだ」


 アレクとルナにも尋ねる。


「僕は結構です」


「あたしもやりません」


「そうっすか。

 じゃ、スタート」


 ハムスターは、Y字の樋を歩き始める。

 途中、何度か休みながらも、少しずつゴールに近づいてゆく。

 樋のふちを乗り越えられないので、コースアウトすることはない。

 やがて分岐点にさしかかる。

 ハムスターは、迷っているように顔をきょろきょろさせる。

 やがて、左へ進んだ。


「あーあ、外れちゃった」


 ルナは、自分が賭けたかのようにがっかりする。

 それ以上に、中年男は落胆している。

 掛け金の三クワンは、決して大金ではないが、無一文なのだ。


「負けてしまったじゃないですか」


 中年男は、顔をゆがませ、アレクをなじる。



ᓚᘏᗢ



 ハムスターの行動に変なところは見られなかった。

 自然にゴールを目指していたようだった。

 見物人も、口々にインチキはないと言う。


「アレク……」


 ルナは、心配そうにアレクを見る。

 チンピラに不正がないのであれば、大損したのは中年男の自業自得だ。

 一方的に肩入れしてよいのか疑問なのだ。

 だが、アレクには自信があった。

 チンピラ側の不正を感じ取っていたのだ。


「僕は、冒険者をやっていたおかげで、魔力には敏感なんだ」


 ルナにささやく。


「え? 魔力?」


 ルナは、きょとんとしている。

 アレクは、中年男に手をかざし、幸運付与の魔法をかける。


「お金は、僕が肩代わりしますから、賭けを続けてください」


「あんたが払ってくれるのなら」


 再びハムスターがY字の道を歩き始める。

 今回は、左に賭けている。

 ハムスターが分岐点に近づく。

 緊張の瞬間だ。

 ハムスターは、少々迷ってから右へ進み出した。


「ああっ、またハズレ」


 悔しがるルナ。

 ところが、奇跡が起きた。

 ハムスターが道を引き返したのだ。

 分岐点に来ると、左のゴールへと向きを変える。


「やったあ」


 ハムスターがゴールする。


「ななっ」


 チンピラの顔が引きつる。

 あり得ないと言いたげだ。


「もう一度やりませんか。

 今度は、このおじさんから取った金額を賭けるのはどうでしょうか」


「ああ、いいだろう」


 アレクの提案をチンピラは受け入れる。

 まぐれは二度も続かないと思っているのだ。

 しかも、確実に自分が勝つ自信がある。

 ハムスターが、再びスタート地点に置かれる。


「じゃあ、今度も左だ」


 中年男が選ぶと同時にハムスターがスタート。

 ハムスターは、今度は速く歩く。

 吸い寄せられるように左のゴールに到達する。


「やったあ」


 ルナと中年男が、同時に歓声を上げる。

 チンピラたちは、言葉もなく、口をあんぐりと開けている。


「約束したように、この人にお金を返してあげてください」


「う、うるせえ。

 今のは、なかったことにさせてもらう。

 ハムちゃんは疲れてるんだ」


 チンピラは、アレクとの約束を破る。

 Y字型の樋を持ち上げて帰ろうとする。


「ずるいわよ。

 ちゃんとお金を返しなさいよ」


 ルナが、チンピラを責める。


「何だとお」


 チンピラのリーダー格が、ルナの胸ぐらをつかむ。

 ルナは動じない。


「暴力に訴えるつもりなら無駄よ。

 あたし、今までたくさんの魔物と戦って倒してきたの。

 ただの人間なんて簡単にやっつけちゃうわ」


「うぬぬ」


 胸ぐらをつかんだ男は、手を緩める。

 ルナの態度から、はったりではないと悟ったのだ。


「その人、ただの人間ってわけでもないんですよ」


 アレクは、リーダー格の男を見ながら言う。

 男がただの人間ではないとは、どういうことなのだろうか。

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