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幸運付与師~追放された僕は、美少女たちに幸運をもたらし最強に育て上げる。  作者: 秋ヶ瀬胡桃
第三部。三人娘は、アイドルを目指すのだけど。

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46.スープから湯気が立っています

「ぎええっ」


 またしても、数匹のゴブリンが、棍棒を振り回しながら襲ってくる。

 今までと攻撃の仕方に特に違いはない。

 そのうちの一匹をルナが迎え撃つ。

 ゴブリンが、ルナに向かって棍棒を振り下ろす。

 ルナが、ダガーで棍棒を受け止める。


 ガチッ。


 金属的な音が響く。

 棍棒は木でできているはずなのにだ。

 ゴブリンは、さらに激しく棍棒を振り回す。

 ルナは、腕で棍棒をいなそうとする。

 その行動は、ゴブリンの思う壺だった。


「あっ」


 ルナのダガーを握る腕から大量の血が噴き出す。

 棍棒をよく見ると、薄い金属片が何枚か埋めこまれている。

 傷口を押さえて引き下がるルナ。

 ミサキが一人で数体のゴブリンを相手にしなければならなくなる。


「あいつらが刃物なんて文明の利器を使うなんて驚いちゃった」


 苦笑するルナ。

 痛みに耐えながら、イヨのヒールを受ける。


「秘密兵器だったんだろう。

 大事な武器だから出し惜しみしていたのかも」


 アレクが、敵の事情を考察する。


「一丁前に出し惜しみだなんて、ゴブリンらしくもない」


「ルナっち、我一人では大変であるこん」


 押され気味のミサキが、ルナに助けを求める。

 ルナの傷は思いのほか深く、まだ完全に塞がっていない。


「もう少し待ってください」


 イヨが、ミサキに言う。

 焦るイヨだが、精神が乱れると魔法の効果が弱くなる。

 余計に焦ってしまう。

 もしかすると、敵の刃物に呪いの効果があって治癒魔法を妨げているのかもしれない。


「もういいよ」


 ルナは、血が流れる腕でダガーを握るが、力が入らない。

 腕を動かすだけで傷口がゆがんで激痛が走る。

 それでも、痛みを顔に出さない。


「まだ無理です」


 イヨが、ルナを引き留める。

 ルナが無理をしていることなどすぐにわかる。

 その時、イヨがあることを思い出した。


「サンダーニカの葉を出してください」


 ルナがアレクと出会って最初の冒険で入手した薬草だ。

 以前、暇なときにルナからサンダーニカの葉を見せてもらっていたのだ。


「イヨのヒールがあるから忘れてた」


 ルナは、鞄の奥から二枚のサンダーニカの葉を取り出す。

 乾燥した枯れ葉になってしまっていた。

 イヨの治癒魔法を受けながら、葉で傷口を撫でる。

 枯れているので効果があるか心配だったが杞憂だった。

 傷が急速に消える。


「もう大丈夫」


 早速ダガーを握り直し、ミサキに合流。


「助かったこん」


 ミサキの体にも浅い切り傷がたくさんだ。

 アイドル衣装のあちこちに切れ目ができている。

 呼吸も乱れている。

 ルナの復帰で、やっと一息つくことができた。


「よっしゃ、やるぞー」


 今度は、ルナが暴れ回る。

 立て続けに四匹のゴブリンを斬り伏せる。

 その四匹の中には、ルナを負傷させたゴブリンもあった。

 他のゴブリンたちは、ルナたちから距離を取る。

 ギーゼラたちも奮戦し、何匹かのゴブリンを倒した。

 攻めあぐねるゴブリンたちは、遠巻きに走り回っている。


「今のうちにここを離れるべきですわ。

 それで、その……、食べ物の匂いのする方へ向かいましょう」


 空腹を隠しきれないギーゼラの口調に若干の照れくささが混じっている。


「それがいい」


 この場から逃れたいのは、アレクたちも同じだ。



ᓚᘏᗢ



「匂いの元は、あちらであったのであるこん」


 ミサキが指で方向を示す。

 だが、そこにもゴブリンが何匹もいる。


「突っ切って行こう」


「でも……」


 ルナの決断に気後れするイヨ。


「さっきイヨちゃんにヒールしてもらったら、体力まで上がった感じがするんだよね。

 今のうちにじゃんじゃんやっちゃいたい気分なの」


 ルナは、足踏みをして、走り出す準備をしている。


「お行きなさい」


 ギーゼラの掛け声で、取り巻きの三人が走り出す。

 ルナも、やや遅れて走り出し、ミサキが追随する。

 取り巻きたちが、行く手を遮るゴブリンたちに斬りかかる。

 ゴブリンたちは、棍棒で剣を受け止める。

 取り巻きたちは疲労していて、鉄の剣が木の棍棒に勝てないのだ。

 そこへルナが助勢。


「あたしに任せろ」


 ダガーの一振りで一匹のゴブリンを斬り伏せる。

 続けざまに、数匹に致命傷を与える。

 生き残ったゴブリンは、ルナに恐れをなして退散。

 簡単に血路を開くことができた。




 しばらく進むと、建物が見えてきた。

 小さく粗末な木造の小屋が、巨木の幹に寄り添うように建っている。

 最初に小屋に到着したのはルナだった。

 中の様子を窺いつつ、木の扉をノックする。


「誰か、いますか?」


 返事はない。

 小屋の中から美味しそうな食べ物の匂いがする。


「開けますよー」


 勝手に扉を開けて中に入る。


「どうであるかこん?」


 次に来たミサキが、ルナの背後から尋ねる。


「人の気配はないけど、テーブルに食事が置いてあるよ。

 ミサキちゃんの鼻は感度良好だなあ」


「食事ですって?」


 鼻息を荒くしたギーゼラが、ミサキを押しのけて小屋に入りこむ。

 取り巻きたちも、どかどかと乱入。


「こんなところに」


「食事が用意」


「されていますわ!」


 踊り出さんばかりに喜ぶ取り巻きたち。


「あなたたち、何をはしゃいでいますの?」


 急に取り澄ました態度になったギーゼラが、取り巻きたちをたしなめる。

 取り巻きたちは、はっとして我に返る。

 ルナたちの前で貴族令嬢のプライドを捨てることはできない。


「しかし、せっかくのお料理が無駄になってしまうのは惜しいので、私たちがいただくというのはどうでしょう。

 後でこの家の人にお礼を差し上げればよろしいかと」


「ちょっと待って」


 アレクが、小屋に入ってくる。


「この料理、怪しすぎるよ」


 テーブルの上には、二種類の皿がちょうど八つずつ並んでいる。

 八人が来るとわかって用意していたかのようだ。

 大きい皿の上には、何かの肉と野菜の付け合わせが盛られている。

 香ばしいソースが食欲をそそる。

 小さい皿は、具の多いスープだ。

 作るのに手間がかかりそうだ。

 小屋の粗末さに比べると料理が立派すぎる気がする。

 これほどの料理を作れる台所があるようにも見えない。


「こんな怪しいものは食べない方がよさそうですわね」


 ギーゼラの言葉に、取り巻きたちの顔に絶望感が表れる。

 しかし、ギーゼラに睨みつけられ、すぐに真顔に戻る。


「何かの罠だとしても、あのゴブリンたちに作れるとは思えないんだが」


 アレクは、首をかしげる。



ᓚᘏᗢ



 ミサキが、料理に鼻を近づける。


「毒などが入っているような匂いはないのであるこん」


「そうですか!」


 嬉しそうに明るい声で反応するギーゼラ。


「もっとも、我は、毒の匂いを知っているわけではないのであるこん。

 不純な感じがしないというだけであるこん」


「そうですか……」


 くぐもった声で返すギーゼラ。


「スープから湯気が立っています」


 気づいたのはイヨだった。

 料理が作られてからさほど時間がたっていないのだ。


「僕たちが森に入った頃に作り始めたってことかな」


「誰かがあたしたちのことを見ていたってこと?」


「そういえば……こん」


 皆が、邪妖精たちのことを思い出す。

 ゴブリンとの戦いで、すっかり存在を忘れていたのだ。

 辺りを見回すと、すぐ近くの空中に浮かんでいた。

 全員の視線が、邪妖精たちに注がれる。


「私たちの悪戯だとか思ってる?」


 女邪妖精が、くすくすと笑う。

 男邪妖精もにやにや笑うが、相変わらず不気味だ。


「その様子では、犯人ではないようですわね」


「さあ、どうだか」


 女邪妖精は、ギーゼラの言葉を否定も肯定もしない。

 ギーゼラは、憎々しげに邪妖精たちを睨む。


「ねえ、せっかくだから食べちゃおうか、この料理。

 やっぱりあたしたちのために用意されたんだと思うのよね」


 ルナが、全員に向かって提案する。


「毒はなくても呪いがかけられているかもしれません」


 イヨが、食べるのに反対する。


「イヨちゃんがいるから大丈夫だよ」


「え?」


「あたしが食べてみてどうにかなったら、イヨちゃんの治癒魔法で治してもらえばいいんだから」


「それがよろしいと思いますわ。

 毒味役にふさわしい人物が自分から名乗り出てくるなんて、なんて献身的なのかしら」


 虚勢を張って嫌みったらしく言うギーゼラ。

 内心では、自分が毒味をしたいぐらいなのだが。


「別にあんたに食べてもらおうなんて思ってないんだけど。

 本当に毒だったとしても、あんたたちにヒールなんてしてやらないから」


「そちらの治癒魔法師の実力は当てになるのかしら」


 ギーゼラは、また嫌みで返す。

 余計なことを言ってしまったと後悔しているが、表には出さない。

 ルナは、ギーゼラを無視してテーブルの椅子に座る。


「じゃあ、食べるよ」


 テーブルに置かれたスプーンを取り、慎重にスープを口に運ぶ。

 ギーゼラは、ルナの様子を凝視する。

 空腹に耐えながら他人の食事を見るのはつらい。

 よだれが出そうなのを貴族の忍耐力で我慢する。


「美味しい!」


 続けてスープの具を味わう。


「よく煮込まれてて、いろんな味がじゅわっと口の中に広がって……」


 説明しながら、幸せそうな顔で食べ続ける。


「体に問題はないのであるかこん?」


「うん、別に」


 ルナは、スープを半分ほど賞味したが、体調に変化はない。

 スプーンをナイフとフォークに持ち替え、肉を食べ始める。


「何の肉かは知らないけど、これも美味しいわね。

 特にこのソースとの相性が……うっ……」


 突然、ルナが胸を押さえて苦しみだした。

 ルナの身に何が起こったのか。

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