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幸運付与師~追放された僕は、美少女たちに幸運をもたらし最強に育て上げる。  作者: 秋ヶ瀬胡桃
第三部。三人娘は、アイドルを目指すのだけど。

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40/52

40.いや、それだと意味が……

「ぶひーっ」


 遠くから森の木々を蹴散らしながら何かが走ってくる。

 体高が五メートルはありそうな巨大な魔獣だ。

 その姿は、豚か猪に似ている。

 少女たちが、悲鳴を上げて逃げ惑う。

 逃げなかったのは、アレクたちとギーゼラたちだけだ。


「ずいぶんと醜悪な魔獣ですわね」


 取り巻きたちに守られたギーゼラは、眉をしかめる。


「あれは、多分、封豨ほうきだ。

 こんなところに現れるなんて」


 うっかりして男のしゃべり方に戻っているアレク。

 今のギーゼラには、それに気づく余裕はない。


「よくご存じですこと」


 ギーゼラは、アレクの知識に感心する。


 どどどどどどっ。


 封豨という魔獣は、逃げていないアレクとギーゼラたちに狙いを定める。

 巨体が、猛烈な勢いで迫る。


「あれをなんとかしなさい!」


 ギーゼラが、大声でルナたちに命令する。


「わかってる!」


 ルナが一人で立ち向かう。

 ミサキとイヨは、火の玉を起こそうとするが、タイミングが合わない。

 思いっきり跳び上がったルナは、火の玉無しで封豨の鼻先を蹴る。

 ルナの体が弾き飛ばされる。

 封豨も怯んで動きを止める。

 うまく着地したルナは、出来上がった火の玉を足にまとわせる。

 再び跳び上がり、封豨の鼻に回し蹴りを食らわす。


「ぶひっ」


 封豨が逃げ出す。


「ざっとこんなもんよ」


 ルナは、ギーゼラに対して、したり顔で決めポーズを取る。

 ギーゼラは、つんとした態度で黙っている。

 とりあえず危機は去ったので、逃げていた人たちも安心する。




「ところでさ、今の技に名前が欲しいよね」


 ルナが、ピンクの猫の仲間を集めて提案する。


「確かに、名前があれば連携がしやすいと思います」


「アレクっちは、どのような名前がよいと思うのであるかこん?」


「でも、僕はその技に関わっていないし、君たちが言いやすい技名にした方がいいのでは」


「じゃあ、あたしが考えるね」


 ルナは、顎に手を当て、いかにも考えているようなポーズを取る。


「あたしたちの友情から生まれた火だから、フレンドリーファイアーなんてのはどう?」


「いや、それだと意味が……」


 どどどどどどっ。


「ぶひーっ」


 アレクの忠告を遮り、再び封豨の足音と咆哮ほうこうが轟く。

 またしてもアレクたちの方へ突進してくる。


「もう一度フレンドリーファイアーをぶちかますわよ」


「はい」


「はい、こん」


 今度は、先ほどよく手際よく技が進行する。

 右手に火をまとわせたルナは、封豨の額を目がけジャンプ。


「フレンドリーファイアーパーンチッ!」


 技名を叫んでパンチを炸裂させる。


「ぶひゃっ」


 封豨は絶命して倒れる。

 ルナの手から燃え移った炎が、封豨の全身をこんがりと焼く。

 薄暗い森に肉の焼けた香ばしい匂いが漂う。


「この技にこんな力まであるなんて」


 ルナは、まだわずかに火が残る自分の拳を見つめて驚嘆するのだった。



ᓚᘏᗢ



「ソースも調味料もないのでは、お肉の味が引き立ちませんわ」


「嫌なら無理して食べなくたっていいんだけど」


 ギーゼラの態度に怒るルナ。

 封豨ほうきの焼けた肉を食べるためにその場にいる全員に切り分けたのだ。

 もちろん、巨大な封豨のほんの一部分だ。

 味は、ギーゼラたち以外の少女たちからは好評だった。

 ちょっとした肉の食べ放題イベントとして盛り上がった。


「何もつけなくても、よい味が染み出してくるのであるこん」


「魔獣がこんなに美味しいなんて、よほどよい餌を食べているのでしょう」


 ミサキとイヨは、幸せそうな顔で肉を頬張る。


「封豨は美味だと伝えられていたけど、本当だったとは」


 アレクは、書物では知り得ない味覚を実感して感動する。


「これから何があるかわからないし、食いだめしておかないとね」


 ルナは、封豨へのキックとパンチだけで相当の体力を消耗していた。

 エネルギーを取り戻すため、怒濤の勢いで肉を食らう。

 一人で封豨一頭をまるごと平らげるのではと思うほどだ。


「はしたない食べ方ですこと」


 ギーゼラと取り巻きは、ルナの大食漢ぶりに眉をしかめる。




「さて、お腹もいっぱいになったことだし、これからどうする?」


 ルナが、アレクたちに問いかける。


「みんなをここから脱出させる方法を考えないと」


「ゾナのことも心配です」


「次の攻撃に備える必要もあるのであるこん」


 そこへギーゼラが加わる。


「あなた方は、この森の出口を探しに行きなさい。

 ここは、魔物によって作られた空間だと思われます。

 そのような場合、どこかで元の世界とつながっているはずなのです」


「出口があるという保証もないのに、どうしてあたしたちが探しに行かなきゃならないのよ。

 行きたければ、あんたの手下に行かせればいいじゃないの」


「私たちは、お嬢様をお守りすることが」


「最重要の勤めなので、この場を離れる」


「ことができないのがわからないのかしら?」


「だったら、あんたら四人一緒に探しに行けばいいじゃんか。

 てか、何で台詞を分割するんだっつーの」


 ルナは、ギーゼラ一味をぶん殴りたい気持ちを抑えながら叫ぶ。


「ここでのあなた方は、私という司令官の命令に従う捨て石、エクスペンダブルズとしてスーサイドスクワッドになっていただきますわ。

 よろしいですわね」


 ギーゼラは、ルナの目の前に人差し指を突きつける。

 ルナは、その指に噛みついてやりたいと思う。

 アレクが、ルナをなだめようと、そっと話しかける。


「対立してもいいことはないよ。

 この人のリーダーシップに従った方が得策だよ。

 この人だってこの状況を打開したいのは同じなんだから」


「アレクさんの方が物わかりがよろしいようね」


 微笑むギーゼラ。

 アレクたちピンクの猫は、森を探索することになった。


「とりあえず、封豨が来た方向に行ってみよう。

 木がなぎ倒されていて視界もよさそうだし」


 アレクたち四人は、封豨によって作られたまっすぐな道を進む。

 枯れ木がなぎ倒されているのに、薄暗いのは変わらない。

 空を見ても、朝なのか日没後なのか曇りなのかも判然としない。


「何の気配も感じないのであるこん」


「かすかな風の音ぐらいしか聞こえません」


 意識を集中し、警戒を怠らない。


「さっきみたいに何かが現れてくれた方が対処のしようもあるのになあ」


 ルナは、もどかしさから苛立ちながらつぶやく。


「そんなに都合よく……」


 アレクが言いかけた時、本当に何かが現れた。


「君たち、また会ったね」



ᓚᘏᗢ



「あんた、やっぱりお化け屋敷の時の変なの」


「変なのってのは酷いなあ。

 自分だって変なおっぱいのくせに」


 人形のように小さく背中の蝙蝠こうもりの羽で飛ぶ少女が、ルナに言い返す。

 フェンスターの町で遭遇した邪妖精じゃようせいだ。


「全部あんたの仕業だったのか」


「違うってば。

 ちょっとだけ手伝ったけどね」


「悪者の一味だったってことか」


「そう思われるのも仕方ないかな」


 邪妖精は、にやにやと笑う。


「だけど、私は、君たちを助けようと思って出てきたんだよ。

 君たちは、餌にされるには惜しいからね」


 アレクたちの周りを蝙蝠のように飛び回りながら話す。


「ところで、以前とはメンバーに変動があったみたいだね。

 女の子が二人増えた代わりに男の子がいなくなっちゃったんだ」


「えっと、それは……」


 答えに詰まるルナ。


「ていうか、餌って何よ?」


 逆に聞き返す。


「私たち邪妖精を召喚した人がね、若くて元気な女の子のエネルギーを欲しがってるのよ。

 それで、わなを仕掛けたってわけ」


「エネルギーとやらをどうやって取るつもりなの?」


「それはねえ……、ふふ」


 邪妖精は、意味ありげに悪そうな笑みを浮かべる。


 どどどどどどっ。


 突如、遠くから聞こえたのは、すでに聞き慣れた動物の足音。

 またしても封豨ほうきが現れたのだ。


「あの豚、一匹じゃなかったのね」


 ルナは、音のする方に顔を向ける。


「我たちのいた方へ向かっているのであるこん」


 ミサキは、耳を動かして音源の動きを探る。


「行こう」


 アレクの掛け声で、四人は、走って引き返す。

 邪妖精も、四人についてくる。




「メイは右から、ミミは左から脚を狙いなさい。

 もっと引きつけてから斬りかかりなさい、ハナ」


 ギーゼラの指示で、取り巻き三人が剣で封豨を攻撃している。

 かなり苦戦している様子だ。

 前の封豨より牙が大きくて凶暴そうな面構えの個体だ。

 動きも、猛り狂っていて荒々しい。

 ちなみに、メイ、ミミ、ハナというのは、取り巻きたちの名前だ。


「この魔獣、凶暴で」


「なかなかこちらから」


「攻撃できません」


 メイ、ミミ、ハナは、息を切らしながら戦う。

 ギーゼラは、声を荒らげて三人に指示し続ける。

 意外にも的確な指示なので、かろうじて三人は戦えている状態だ。

 他の人たちは、すでに遠くに逃げていて被害はない。

 ギーゼラたちがうまく封豨を誘導したらしい。


「あんなのに手こずるなんて、大したことないな」


 戻ってきた ルナたちは、ギーゼラたちを傍観している。


「助けるのであるかこん?」


「あっちが、助けてーって泣きついてきたら助けてやってもいいかな」


 余裕の態度のルナ。


「ああいうのが他にもいるかもしれないから、戦う準備はしておいた方がいいんじゃないかな」


 アレクが忠告する。

 封豨が、何が目的でどこから現れるか、まだ判明していない。

 油断は禁物である。

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