39.協力だなんて、笑止千万ですわ
「それって、あたしたちと協力してこの状況をどうにかするってこと?」
「協力だなんて、笑止千万ですわ。
おほほほほ」
ルナの問いに笑い返すギーゼラ。
「じゃあ、何なのよ」
むっとするルナ。
「ギーゼラお嬢様の」
「命令に従って」
「いただくということですわ」
と、取り巻きABC。
「勝手に決めないでもらいたいんだけど」
「どんな形でもこの人たちと協力した方がよいのであるこん」
ミサキが、ルナの耳元でささやく。
「仕方ないわね」
渋々納得するルナの表情は悔しそうだ。
アレクは、ルナに代わってギーゼラたちに話す。
もちろん、女の声と話し方で。
「それで、私たちにどんな命令を?」
「あら、あなた方って四人組だったのですわね。
三人だと思っていましたわ」
ギーゼラは、アレクに近づき、アレクの顔を見つめる。
アレクは、男であることを見抜かれるかと冷や汗をかく
「いい味方を連れてきたものね」
男とばれるどころか、褒められた。
安堵するアレク。
「まずは、あなた方の能力について聞かせてもらうわ」
アレクたちは、一通り自分たちの能力をギーゼラに教える。
ついでに、お互いの自己紹介もした。
「いきなり扉を開けて外に出るのは危険ですから、ゾナとかいう機械を窓から出して偵察させましょう」
ギーゼラの言うことは正論だ。
ルナが、鞄からゾナを取り出し、イヨに渡す。
イヨは、ガラス窓をそっと開け、ゾナに外を見てくるように頼む。
「すぐに戻ってくるのよ」
「了解ぞな」
ゾナは、黒い雲の中に消えていった。
しばらく待つが、ゾナは戻ってこない。
イヨは、心配して窓の外を見続けるが、黒い雲以外何も見えない。
「どうやら、何かあったようですが、機械でよかったですわ」
危険であることがわかっただけでも収穫ですわ」
「人間を行かせなかった」
「お嬢様の判断は」
「正しかったのですわ」
取り巻きたちがギーゼラを褒める。
イヨは涙目だ。
ミサキが、イヨに寄り添って慰める。
「イヨちゃんはねえ、ゾナのことを友達のように大事にしているの。
無神経な言い方しないでよ」
ルナが、ギーゼラを責める。
「今は私があなた方の指揮官です。
反抗的な態度は取らないでいただきますわ」
「くっ……」
ギーゼラに従う約束をしてしまったので、言い返せない。
「では、どうするつもりなのですか、指揮官のギーゼラさん」
アレクが尋ねる。
「残念ながら、私たちは、魔法攻撃が使えません。
あなた方の魔法で部屋の外の雲を払ってもらう必要があります」
「ふんっ、そりゃそうよね」
ルナは、自信に満ちた表情で答える。
ᓚᘏᗢ
「ミサキちゃん、イヨちゃん、洞窟で使ったあの技をやろう」
ルナは、ゾナが出て行った窓を全開にする。
「あの光なら、この黒い雲の中でも役に立ちそうであるこん」
「やりましょう」
イヨは、眼鏡を外し、涙を拭い、眼鏡をかけ直す。
ミサキとイヨは、協力して聖属性の火の玉を空中に作り出す。
ギーゼラたちは、見るからに強力な火の玉に一瞬たじろぐ。
室内の他の少女たちからも、ざわめきが起こる。
「それをどうしますの?」
動揺したそぶりを隠して、ギーゼラが尋ねる。
「こうするのよ」
ルナは、空中の火の玉を右手で鷲づかみにする。
野球の投手のような動作で窓の外へ火の玉を投げる。
火の玉は、一直線に勢いよく黒い雲の中を切り裂いて飛ぶ。
雲にトンネルができたかのような状態になる。
だが、外の全体の様子ははっきりしないままだ。
「雲が消えてゆくのであるこん」
雲のトンネルが広がって、部屋の外の全体が見えてくる。
聖属性の火の玉の効果が現れたようだ。
部屋の周りが、夜明け前のように薄暗い森の中だったことがわかる。
「こんな場所に建物ごと転移してしまったってことかな」
アレクは、窓から身を乗り出し、森の様子を窺う。
「何者かの仕業なのか自然現象なのか、どっちだと思う?」
ルナが、アレクに聞く。
「こんな不自然な自然現象があるかしらね」
アレクより先に答えるギーゼラ。
いかにも馬鹿にするような目つきだ。
「じゃあ何なのよ」
「それを調べるのが、あなた方の任務なのですわ」
「任務って……」
ルナは、ギーゼラの偉そうな態度に圧倒されてしまう。
今のギーゼラは、先ほどまでと違って、ただ居丈高なだけではない。
貴族らしい威厳を感じるのだ。
「とにかく外の様子を調べないことには」
窓から外に出るアレク。
ルナが魔法の鞄を腰につけ、ミサキとイヨとともに後に続く。
ミサキが、鬼火を出して明かりにする。
何歩か歩いてから振り返る。
控え室のある建物が、木々に囲まれて建っている。
窓からギーゼラたちがこちらを見ている。
「何か感じるかしら?」
ギーゼラが、よく通る声で尋ねる。
「嫌な雰囲気だけはあるのであるこん」
「生物の痕跡すら感じられない」
ミサキとアレクが答える。
「痕跡すらって、どういうことですの?」
ギーゼラたち四人は、窓から出て、アレクのそばで話を聞く。
「ここに生えている木は、みんな枯れているわ。
地面には、草や苔も見当たりません」
アレクは、女言葉で説明する。
「なるほど、まさに死の森というわけですわね」
「死んでいるというか、最初から生きていなかったというか……。
何者かに作られた空間のような気がするのですよ」
「なかなかの観察力ですわね、アレクさん、でしたっけ?」
高慢なギーゼラが、アレクを褒める。
ちなみに、アレクという名前は男女ともにあるので、性別を疑われることはない。
「いえ、どういたしまして。
しかし、その何者かが何もしてこないのですから、対処のしようがありません」
「そいつが現れれば、あたしたちがやっつけてやるんだけど」
「あなた方には、敵をおびき寄せる餌以上のことは期待していませんわ」
ルナとギーゼラは、激しく睨み合う。
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「まあまあ、二人とも、対立している場合じゃ……」
ルナとギーゼラのが衝突して火花が飛び散るのが、アレクには見えるような気がした。
どうにか両者をなだめようとする。
「きゃーーーーっ」
その時、突然悲鳴が轟いた。
控え室の建物の方からだ。
建物に残った他の参加者たちに何かがあったらしい。
アレクたちとギーゼラたちは、建物の方へ目を向ける。
驚いたことに、建物がゴムのようにゆがみ、ぐにゃぐにゃ揺れている。
全員が、慌てて建物に駆け寄る。
窓から中を見ると、まるで荒海の船内のような有様だ。
遊園地の乗り物だと思えば楽しそうだが、楽しめる心理状態ではない。
「早くここから出て」
ルナが、中にいる人に叫ぶ。
だが、泣き叫ぶ何十人もの少女たちには、ルナの声は届かない。
中に入って助けようにも、揺れ動く建物に入ることができない。
「さっきのあれ、あの火の玉を」
アレクが、三人娘に指示する。
「わかったこん」
ミサキとイヨが出した火の玉をルナが両手にまとわす。
「うりゃあ!」
気合いをこめたルナは、両手で建物を押さえる。
揺れを止めるつもりなのだ。
ギーゼラは、唖然とした表情でルナを見つめている。
無謀としか思えないのだ。
ところが、次第に建物の揺れが収まってくる。
「信じられない馬鹿力ですわ」
呆れ顔になるギーゼラ。
「これって……」
アレクは、何かを思い出す。
すると、建物が、ルナの手が当たっている場所から崩れ始める。
崩れるというより、溶けるといった方がよいだろう。
中の人たちは、泥のように溶けた建物に飲みこまれる。
だが、すぐに溶けた物体が流れて、全員無事だった。
数分後には、建物を構成していた物体は、どこかへ消えてしまった。
ルナの手の火も消える。
「あのお化け屋敷であるこん」
以前フェンスターで遭遇したお化け屋敷と同類だった。
そのお化け屋敷では、ミサキの狐火の火力を上げて脱出したのだ。
ルナは、今度の建物も火を恐れると考え、火をまとった手を当てたのだ。
「お化け屋敷?」
イヨは、フェンスターのお化け屋敷を知らない。
「邪妖精の悪戯だったんだけど……」
アレクが、イヨに説明する。
「あの邪妖精の仕業かどうかは、まだわからない」
「人を食べる家を作る魔物の話は聞いたことがありますわ」
ギーゼラが、アレクたちの会話に加わる。
「特に美しい乙女を狙うのだとか」
髪をかき上げて、美しい乙女とは自分だというポーズを取る。
「何言ってんだか」
吐き捨てるようにつぶやくルナ。
「何かが近づいています」
イヨが、周囲を覆う魔力の増大を感じ取る。
ミサキは、ケモ耳をそばだてて警戒する。
アレクは、仲間とギーゼラ一味に幸運付与を行う。
「こいつらにもやるの?」
ふくれっ面のルナ。
「幸運付与といっても、何の実感もありませんわね」
「それがアレクへの感謝の言葉?
実感できないのは仕方ないけど、ピンチになればわかるはずよ」
「それは楽しみですわ」
ギーゼラは、不敵な笑みを浮かべる。
そうこうしている間にも、何者かの気配は強くなる。
敵の正体と目的は何だろうか。




