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幸運付与師~追放された僕は、美少女たちに幸運をもたらし最強に育て上げる。  作者: 秋ヶ瀬胡桃
第三部。三人娘は、アイドルを目指すのだけど。

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38/52

38.急に変な感じになったんだけど

 滞りなくフェスは始まった。


「順番が後の方だったおかげで心の準備ができるよ」


 アレクは、舞台袖から他のグループのパフォーマンスを見てつぶやく。


「考えてみれば、あたしたち、他の人たちがどんな歌や踊りを披露するのか全然知らないで参加しちゃったんだよね」


「向こう見ずであったような気がするのであるこん」


「だけど、あれを見れば、君たちと変わらないか君たちの方が上手なくらいだよ」


 アレクは、舞台上のグループに対して素直な感想を述べる。

 全グループが同レベルなら自分たちの優勝もあり得る気がしてくる。


「この分では今年の優勝も私たちのようですわね」


 聞き覚えのある声。

 ギーゼラとその一味が、遅れて控え室に入ってくる。

 全員豪華なドレスに身を包んでいる。

 中でも、ギーゼラのドレスは、特に値が張りそうだ。

 フェスの役員たちが、恭しくギーゼラたちを出迎える。

 特別待遇なので籤引きには出てこなかったらしい。


「ギーゼラ様がいらっしゃったわよ」


「一段と素敵だわ」


 他の出場者たちから感嘆の声が漏れる。

 ギーゼラの性格の悪さを知らないのだろうか。

 それとも、知っていて敬愛しているのだろうか。


「かっこつけて遅れて現れるなんて」


 苦々しげなルナ。


「衣服で勝負するのではないのであるこん」


「ですが、着こなしや動作に気品があるのは確かです」


 イヨは、強敵の実力を感じ、恐ろしくなる。


「まあ、僕たち、じゃなくって、私たちは私たちよ。

 あの人たちのことなんて気にすることないわ」


 アレクは、三人娘を励ます。

 三人娘は、アレクの女っぽいしゃべり方を聞いて笑顔になる。

 ウケ狙いのつもりはなかったのになあと、アレクは頭をかく。




 やがて、十二番目のグループが舞台に進む。

 次がアレクたちピンクの猫の出番だ。


「村の仲良し三人組が、フラワー・アイドル・フェスティバルに初挑戦」


 司会者に紹介され、歌と踊りが始まる。

 舞台袖から見た三人組は、大して上手ではなかった。

 ただ楽しむためだけに参加した素人なのだ。

 一つ前のグループが稚拙だったのは、ピンクの猫には幸運だった。

 プロ級の演技を見せつけられて自信を失わずにすんだのだ。


「あなたたちも、あれと同じようなものかしらね」


 ギーゼラが、嫌みったらしくルナに話しかける。

 控え室の中にもファンが多いのに、態度はいつも通りだ。

 ファンの目には、威厳ある姿と映っているのかもしれない。


「そうね」


 ルナは、笑顔で頷く。


「あの子たちは楽しんでるし、あたしたちも楽しむつもり。

 それが、参加した目的なんだから」


「お嬢様の美しさに恐れをなして」


「負け惜しみを言ったりして」


「恥ずかしい人ですわ」


 台詞を三等分してしゃべる取り巻きABC。

 変な形で息の合ったところを見せる。


「もうすぐ、あたしたちの出番なんで」


 ルナは、ギーゼラたちの言葉を聞かず、柔軟体操を始める。

 アレクたちは、ギーゼラたちに軽く会釈をする。

 ギーゼラたちは、むっとした顔でその場を離れる。


「ピンクの猫の皆さん、ステージ脇に来て待機してください」


 係の人に呼ばれる。

 とうとう舞台に上がる時が来た。

 四人は、心地よい適度な緊張を覚える。


「さて、お次は、ピンクの猫の皆さんです」


 司会者の声とともに、四人が観客の前に現れる。

 ドジったりしなければよいのだが、大丈夫だろうか。



ᓚᘏᗢ



「ベーコンエッグにジャムを塗る

 桃のタルトの山葵入り

 食べてみる気にならないが

 ちょっと意外な組み合わせ

 ピンクの猫の四人組

 らしくないけど冒険者

 何が起こるかケミストリー

 予想裏切るミステリー」


 大観衆の視線を浴びながら舞台で歌い踊るアレクたち。

 自分でも信じられないぐらいに体が軽い。

 振り付けを体が覚えている。

 練習の成果で自然に踊れてしまう。

 次第に観客の歓声が大きくなってくる。

 かなりの好印象を与えているのが、踊りながらでもわかる。

 観客席の興奮がアレクたちにも伝わり、気分が高揚してくる。

 歌ったり踊ったりがこんなに楽しいことだったとは!


「ピンクの猫の皆さんでした。

 歌も踊りも衣装も斬新でしたねえ」


 ノーミスでパフォーマンスを終えることができた。

 会場の熱気は、今回のフェスで最高潮。

 現時点での優勝候補だ。

 四人は、手を振って観客の声援に応える。

 その時、イヨが、アレクの身に起きた異変に気づく。

 アレクに近寄ってささやく。


「あまり体を動かさないで。

 服の糸がほつれそうです」


「えっ」


 急ごしらえの衣装が、激しいダンスに耐えられなかったのだ。

 ここで服が脱げたら大惨事だ。

 体を動かすと糸のほつれが広がる。

 だが、アレクは、冷静を装って手を振り続ける。

 いきなり手を振るのをやめると、かえって変に思われそうだからだ。

 アレクの様子に気づいたルナとミサキも、アレクのそばに来る。

 四人は、仲がよさそうに寄り添いながら舞台から退場する。


「ばれなくてよかったですね」


 控え室で、イヨがアレクの服のほつれを直す。

 念のために裁縫道具を用意しておいたのだ。


「ありがとう。

 これで宿に戻るまでは大丈夫だわ」


 アレクは、女言葉でイヨに感謝する。

 まだ女のふりをやめるわけにはいかない。

 もし優勝すれば授賞式に出ることになるのだ。




 フェスは順調に進み、とうとう最後のグループの番になった。

 ギーゼラとその三人の取り巻きだ。

 最初からギーゼラたちが大トリと決まっていたのだ。


「さあ、皆さんお待ちかねの『ギーゼラ・アンド・ハー・アントラージュ』の四人の登場です。

 盛大な拍手でお出迎えしましょう」


 実際に盛大な拍手が巻き起こる。

 アレクたちの時を遙かに上回る勢いだ。

 司会者は、ギーゼラたち四人全員を一人ずつ紹介する。

 他のグループでは、一人ずつの紹介はなかった。


「あいつらって、元々人気あったんだ」


 ルナは、舞台袖から会場の様子を窺う。


「お客さんたちは、性格の悪さを知らないのであるこん?」


「町の中でも酷い態度でしたのに」


 ギーゼラの人気が納得できないミサキとイヨ。


「町の人には、あれが貴族令嬢らしい態度に見えていたんじゃない?」


「そういうものなのかしらねえ」


 アレクの考えを聞いたルナは、苦笑いをする。


「ああ、ようやく始まるわ」


 鳴り止まなかった会場の拍手喝采が静かになる。

 ギーゼラ・アンド・ハー・アントラージュの演技の開始だ。

 ルナは、真剣な眼差しでギーゼラたちを見据える。

 ギーゼラたちの実力は本物だった。

 貴族らしいエレガントさとアイドルらしい可愛さを併せ持っている。

 取り巻きたちも、魔獣と戦える武闘派とは思えない優雅さだ。

 専属の楽団に音楽を演奏させているので、歌の印象も他と大きく異なる。

 圧倒的な存在感で、まさに女王の風格だ。


「やるなあ」


 ルナは、率直な感想をつぶやく。

 認めるところは認めざるを得ない。

 人気を考慮すれば、ギーゼラたちが優位な状況だ。

 ピンクの猫の結果はどうなるのだろうか。



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 審査員たちによる審査が始まる。

 パフォーマンスの内容と会場の盛り上がりを勘案して順位が決まるとのことだ。

 フェスの参加者は、胸をどきどきさせながら控え室で結果発表を待つ。

 アレクたちは、上位に入る自信はある。

 しかし、優勝はギーゼラたちになる気がしている。

 ギーゼラたちの方が客の反応がよかったからだ。


「お嬢様の演技が一番であることは」


「誰の目にも明らかなのですから」


「もったいぶって発表に時間をかけなくてもよろしいのに」


 取り巻きABCがギーゼラに話しかける。

 ギーゼラたちは、控え室の一角の広い場所を占有している。

 貴族の特権なのだそうだ。

 豪華な椅子とテーブルを囲んで休息中だ。

 テーブルには、高級な紅茶とお菓子が置かれている。

 その淡い香りが、離れた位置にいるアレクたちのところにも届く。


「そういう演出も必要なのよ。

 すぐに優勝が決まっても面白みに欠けますからね」


 ギーゼラは、クッキーを一つ口にする。

 自分の優勝を少しも疑っていない、余裕の態度だ。




「審査の結果が出ました」


 役員が、控え室の入り口から参加者たちに告げる。


「優勝は……って、えっ、あれ……?」


 役員は、何が何だかわからず、頭が混乱する。

 自分の頭がおかしくなったのかと、目をぱちくりさせて戸惑う。

 控え室がある建物がないのだ。

 ステージに隣接して建てられているはずなのに。

 まるで最初から存在しなかったかのように、建物が消滅している。

 ついさっきまで、そこにあったのに。


「急に変な感じになったんだけど」


 ルナは、きょろきょろと周囲を見回す。

 控え室はそのまま変化がないが、窓の外の様子がおかしい。

 黒い雲に包まれたようになっている。


「禍々しい魔力を感じる」


 アレクは、普通の話し方に戻っている。

 女っぽくしゃべる余裕はない。


「突然何事であるかこん?」


「気をつけてください」


 四人は、アイドルから冒険者へ気持ちを切り替える。

 他の参加者の多くは、異変に気づいていない。

 ギーゼラの取り巻きたちだけが、椅子から立ち上がって警戒している。


「お嬢様、危険が迫っております」


「魔物の類いまでが私のファンになってしまったのですね。

 人気者はつらいですこと」


 何も恐れていないかのようなギーゼラ。

 性格は悪いが度胸はあるようだ。


「魔物ですって」


 室内の他の少女たちにもギーゼラの言葉が聞こえた。

 皆、恐怖に震える。

 戦闘可能なのは、アレクたちとギーゼラたちだけのようだ。


「空間がゆがんでいるような気がします」


 イヨが、意識を集中して周囲の状況を読み取ろうとする。


「この部屋ごとどこかへ転移してしまったのかもしれません」


「何でそんなことに?」


 ルナは、扉を開けて外を確かめようとする。


「危ないよ」


 アレクが、ルナの手を握って制止する。


「もっと慎重に外の様子を探らないと」


「そうだけど、どうしたらいい?」


 迂闊に扉を開ければどんな魔物が入ってくるかわからない。

 かといって、部屋に居続けても状況が好転する望みは薄い。

 迷っているアレクたちに声がかかる。


「あなた方だけで魔性の敵と戦っても、勝てるとは思えませんけど」


 ギーゼラだった。

 協力を打診してきたと受け取ってよいのだろうか。

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