34.私たちの魔力を合わせれば
「てなわけで、勢いで優勝とか言っちゃったけど、全然練習とかもしてないんだよね」
「そもそも、どのような歌と踊りを求められているのかも知らないのであるこん」
「フェスティバルは三日後ですよ」
ルナたちは、アレクと合流。
役場であったことをアレクに話す。
「でも、そのチマローザとかいう人、貴族なのに町のイベントに参加するなんて、庶民的なんだね」
「いや、全っ然そういうのじゃないから」
首を大きく横に振るルナ。
「とにかく、どこかに宿を取って練習を始めるわよ」
「衣装とかはどうしますか?」
「普段の恰好というわけにはいかないと思うのであるこん」
「ああーっ、やることが多すぎる」
ルナは、頭を抱える。
「できることから始めるしかないよ」
アレクが、ルナを励ます。
アレクたちは、町の宿に部屋を借りた。
ギーゼラたちとの泊まった高級ホテルとは別の安宿だ。
「じゃあ、あたしが歌と踊りを考えるから、ミサキちゃんとイヨちゃんは、町の服屋で服を買ってきて」
「それはよいのであるがこん」
「ルナさんが歌と踊りをですか?」
不安そうなミサキとイヨ。
ルナに歌や踊りのイメージがないので当然だ。
「あたしにだって、それぐらいできるんだって」
微笑むルナ。
しかし、どこか無理をしている様子だ。
「ほら、早く買ってきてよ」
ミサキとイヨを急がせる。
二人は、ルナのことを気にしつつも、部屋を出る。
「僕は、なにをしたらいいのかなあ?」
することがないアレクは、ちょっと申し訳ない気分だ。
「アレクは、そうねえ、あたしたちを客や審査員の立場で見て指導して」
「指導って言われても……」
「見てて」
ルナが、おもむろに踊り出す。
優雅なバレエのようだ。
本職のダンサーには及ばないが、様になっている。
アレクは、思わず見とれてしまう。
「どうかな?」
照れくさそうに尋ねるルナ。
「う、うん、上手だね」
褒めるアレクも照れくさそう。
「ルナにそんな特技があったなんて知らなかったよ。
いつ習ったの?」
「まあ、ちょっとね」
言葉を濁すルナ。
話したくない事情でもあるのだろうか。
アレクは、ルナの過去には踏みこまないことにしている。
「じゃあ、歌の方は?」
「歌だって、そこそこね」
今度は歌を披露するルナ。
少し古い流行歌を歌う。
「歌唱力も大したものだよ」
「えへへ」
赤面するルナ。
しかし、アレクは、物足りなさも感じていた。
今のルナには、実力者が集まるであろうフェスで優勝するのは難しい。
もっと華やかさが欲しいところだ。
ᓚᘏᗢ
「はっきり言うと、もっと華やかさがないと駄目だと思う。
フェスティバルに参加する人は、前々から準備して練習しているはず。
少しばかり踊れても三日では追いつけないよ」
「だよね……。
はっきり言ってくれて、ありがとう」
ルナも自覚していた。
「それで、僕は思うんだけど、客や審査員の印象をよくするには、他と違う今までにないようなパフォーマンスをするべきなんだ。
奇を衒うのは悪いやり方かもしれないけど、それしかない」
「アレク……」
ルナが、アレクの目をまじまじと見つめる。
「どうかしたの?」
「珍しくよくしゃべるなあって」
「え? そうかな」
ルナたちなら頑張ればフェスで上位に入れる実力がある。
アレクは、そう思っていた。
なんとか力になりたいとの気持ちが、つい多弁にさせるのだ。
「アレクがそこまで期待してくれるなら、あたし、頑張る。
だから、もっとアドバイスを頂戴」
ルナは、また踊りを始める。
今度のは、動きに激しさが加わっている。
「うん、荒削りだけど、インパクトはあるかな。
もっと女の子らしい元気さを前面に押し出した方がいいかも」
「女の子らしい元気さって?」
「ミサキとイヨが一緒の方が練習しやすいから、帰ってくるのを待とう」
「そういえば、いい服は見つかったのかなあ」
しばらくして、ミサキとイヨが帰ってきた。
「服屋はあったのであるが、よい服がなかったのであるこん」
「先に来たフェスティバルの参加者が、めぼしいのを買ってしまったようなのです」
「それで、服の生地だけを買ってきたのであるこん。
これで衣装を作るのであるこん」
何枚かの生地を袋から取り出す。
「まさか、これから作るの?」
ルナの表情が引きつる。
服を作るのと踊りの練習の両立は難しい。
ルナの脳内で、「優勝」という単語に羽が生えて空へ飛んでゆく。
ギーゼラとその取り巻きの嘲笑が、けたたましく響き渡る。
がっくりと肩を落とすルナ。
「三日じゃ無理だよ……」
「それが、時間を延ばす方法があるかも、否、あるのであるこん」
「え?」
ルナ、イヨ、アレクは、同時に変な声が出た。
ミサキの言葉の真意が理解できない。
何かの冗談だろうか。
「この赤い宝玉であるこん」
タマモから渡された宝玉を取り出す。
「これには、時間の流れを変える力があるのであるこん」
「えーっ?」
ミサキのとんでもない発言に、他の三人は面食らう。
「そんなに凄い法具だったのですか」
イヨは、眼鏡をかけ直しながら宝玉を凝視する。
「確か、あの九尾の狐が『宝玉の力でこの世界に長くいすぎた』と言っていたような」
アレクは、タマモとの別れ際のことを思い出す。
「我が国の伝承にも赤い宝玉の力のことが語られているのであるこん。
タマモ様がいつまでもお若かったのも、赤い宝玉の力と考えれば納得が行くのであるこん」
「ミサキちゃんにもその力が使えるの?」
「そこが問題であるこん」
今度は、ミサキが肩を落とす。
「かなりの魔力が必要なのであるこん」
ᓚᘏᗢ
「やってみないとわかりません。
私たちの魔力を合わせれば」
「わかったのであるこん」
イヨに諭され、意を決するミサキ。
「これから時間魔法を行うのであるこん。
皆は、この宝玉に魔力を送りこんで欲しいのであるこん」
ミサキ、イヨ、アレクが、テーブルに置かれた赤い宝玉に両手をかざす。
三人の魔力が、宝玉に流れこむ。
「なんだか、焚き火に当たってるみたいだね」
アレクが、ぼそっとつぶやく。
「あたしだけ協力できなくて悪いね」
魔力のないルナは、脇で見ている。
すると、宝玉が、うっすらと光り始めた。
ミサキは、何やら呪文を唱える。
「なんからんかをさかしまに……時の流れを遅く……こん」
宝玉の光が増す。
四人とも、部屋の中の空気が変わったような感覚になる。
「どうなったの?」
ルナが、辺りを見回す。
見た目の変化はない。
「この周りだけ時間の流れが遅くなったはずであるこん」
そう言われても、誰も実感できない。
「外を見てみよう」
アレクが、窓を開ける。
「何、あれ?」
驚きの声を上げるルナ。
道行く人たちの歩行速度が、あまりにも遅くなっているのだ。
スローモーションを見ているかのようだ。
「成功であるこん。
ここの時間の流れは遅いのであるが、我たちは普通に動けくことができるのであるこん。
故に、外の人たちの動きが遅く見えるのであるこん」
「逆に、外の人たちが私たちを見れば、物凄く早く動いているように感じられるのですね」
「よくわからないけど、凄いことになってるわね」
「だけど、宝玉の効果はどれほど続くの?」
アレクの問いに、ミサキは迷う。
「わからないのであるこん。
しかし、我の魔力では、そんなに長くはないと思うのであるこん」
「魔力が切れるまでに練習と服を作るのをやらないといけないのね」
「心配なのは、時空をゆがめる魔法だということだ」
「どういうこと、アレク?」
「時空をゆがめる魔法には副作用があると本に書いてあったんだよ」
「でも、今はそんなこと考えてはいられないわ。
せっかくの時間を有効に使いましょ」
服は後回しにして、まずは踊りの練習だ。
振り付けを考えるところから始める。
「奇抜だけど下品ではない。
そんな踊りであるべきだと思うんだ」
アレクは、三人娘をプロデュースする立場で持論を述べる。
四人で意見を出し合いながら、次第に振り付けがまとまってくる。
「歌いながら踊るのだから、歌もどうにかしないといけない。
できれば、既存のものではないオリジナルの曲がいいんだけど」
「作詞作曲なんて、あたしたちにできるわけないじゃん」
「知っている歌で妥協するしかないのであるこん」
「しかたないな」
オリジナル曲については諦めかけた。
「あ、あの……」
躊躇いがちに手を挙げたのはイヨだった。
「私の考えたのでよければ……」




