32.不思議なことだらけですね
ルナの火炎をまとったパンチが、キューボックの大剣を粉砕。
燃える拳が、そのままの勢いでキューボックの顔面に炸裂。
炎が、キューボックから発する邪悪なオーラを浄化。
「うが、あああ、ぐ……」
苦しむキューボック。
次第に体が灰色になり、砂になって崩れ落ちる。
予想もしなかった結果に、言葉もなく立ち尽くすルナ。
「ルナっち」
「ルナさん」
ミサキとイヨが、ルナのそばに駆け寄る。
続いて、アレクとタマモもルナのところへ。
「これって……」
ルナは、自分の拳を見つめている。
すでに火は消えている。
「あなたたち四人の力が、邪気に打ち勝ったのよ」
タマモが説明する。
「アレクさんのおかげで、幸運にも女の子三人の能力が融合したの」
「でも、こうなるようにしてくれたのは、タマモさんです。
どうして僕たちに?」
「あなたが可愛いからかしら」
タマモは、アレクを抱き寄せる。
豊かな胸にアレクの顔を押しつける。
「あ、あの、これはちょっと……」
胸の中で苦しそうなアレク。
表情が硬直する三人娘。
タマモは、三人娘の反応を見て、悪戯っぽく微笑む。
「冗談よ」
アレクを胸の監獄から解放する。
「ほら、あそこに落ちてるあれ」
タマモが指さす先には、コウトクが落とした赤い宝玉が転がっていた。
ミサキが、早足で拾いにゆく。
「それをミサキさんに差し上げようと思ったの」
「よろしいのでありますかこん?」
「あなたには、それを持つだけの資格があるわ」
「ありがとうございます」
ミサキは、跪いて礼を述べる。
「それでは、お別れね。
でも、まだしつこいのがいるわ」
どこからともなく矢が飛んできた。
矢は、タマモの手前の空中で止まり、向きを変えて飛ぶ。
「うう……」
洞窟の端に、眉間に矢が刺さったコウトクが現れた。
無駄にしたボウガンと矢をこっそり拾い戻して使ったのだ。
逆に自分が射貫かれてしまったのだが。
コウトクは、倒れずにゾンビのように歩いて近寄ってくる。
その生命力には恐れ入る。
「あいつ、まだやる気?
どう頑張っても女の子にモテないってのがわかんないのかなあ」
溜息をつくルナ。
すぐに胸を張って気合いを入れる。
「よし、同じ技でやっつけちゃお」
ミサキとイヨが、再び火の玉を作る。
ルナは、今度は足に火をまとわせ、コウトクに強烈な回し蹴り。
コウトクも、砂になって消滅する。
「終わった……。
いや、あと二人」
洞窟内を見回す。
ニックとビルの死体は、再登場の大蜈蚣によって貪り食われていた。
「うあっ」
気分の悪い光景に、目を手で覆う。
だが、全ての敵がいなくなり、晴れ晴れした気持ちだ。
ミサキとイヨが、左右からルナに抱きつき、喜びを分かち合う。
抱きつくのが恥ずかしいアレクは、そばでルナたちを見て目を細める。
タマモも、満足そうな表情だ。
ᓚᘏᗢ
「さて、今度こそお別れね」
タマモが、九尾の狐の姿に戻る。
「お別れとは、どういうことでございますかこん?」
「別の世界にでも行こうかと思ってるの。
宝玉の力でこの世界に長くいすぎたから」
「別の世界……こん?」
ミサキは、首をかしげる。
「私は、これまでにいろいろな世界を渡り歩いてきたの。
これかもそうやって生きてゆくの」
ミサキもアレクたちも、タマモの言葉をすぐには理解できない。
「それじゃあね」
タマモの金色の体を白い光が包む。
次第に体が透明になる。
呆然とするアレクたち。
「早くこの洞窟を出た方がいいわよ。
もうすぐ大規模な崩落が始まるから」
別れ際にとんでもないことを言う。
「えーっ」
「あんな長い洞窟を抜けるの大変ですよ」
慌てふためく四人。
「ぶわーっ」
突然、獣の声が響く。
すでに見慣れたボナコンだ。
毎度のことながら、どこから出現したのか。
「この魔獣につかまるのであるこん」
ミサキは、消えかける九尾の狐の意思を読み取ったのだ。
アレクたちは、ボナコンの体毛にしがみつく。
ボナコンは、洞窟の入り口に向けて走り出す。
走り方が荒いので、四人の体が激しく揺れる。
しかも、悪臭にも耐えなければならない。
握力の弱い上にゾナを抱いたイヨが落ちそうになるが、ルナが支える。
入り口に通じる竪穴に着くのに、さほど時間はかからなかった。
これ以上進めずに足を止めるボナコン。
四人は、逃げるようにボナコンから飛び降りる。
「ここを登るのはたいへんそうね」
上を見上げて嘆息するルナ。
真上に見える星のように小さな光の点が洞窟の入り口だ。
登るには、降りるのにかかった何倍もの時間が必要だ。
過酷なロッククライミングになるだろう。
「みんなは先に登ってください。
私は後から行きますから」
イヨは、体力のなさを自覚している。
足手まといにはなりたくない。
「いつ洞窟が崩れるかわからないし、イヨ一人じゃ危険だよ」
「イヨちゃん一人を置いてけるわけないわよ」
「我らが手を引くのであるこん」
「おいらも少し飛行能力が残っているから下から押してやるぞな」
「あ、ありがとうございます」
涙を浮かべるイヨ。
岩壁を登ろうとしたその時だった。
ごごおおおおーーーー。
洞窟に入った時にも聞こえた風の音だ。
突風にあおられると危険なので、登るのを中止する。
気づくと、ボナコンの姿は消えていた。
ごごおおおおーーーー。
風の音が強くなる。
かなりの強風が来そうだ。
四人は身構える。
ごごおおおおーーーー。
四人とゾナが、ふわりと風に巻き上げられる。
竪穴を上へ上へと舞い上がる。
まるで屋内スカイダイビング施設みたいだ。
岩壁に体を打ちつけられることもなく、外へ飛び出す。
源泉地帯の数十メートル上空へ。
風の威力がなくなり、落下が始まる。
このままでは、地面にたたきつけられるか、熱湯にドボンだ。
ᓚᘏᗢ
上空から落下するアレクたち四人。
ゾナが、イヨを受け止める。
あんパンほどの大きさのゾナの上にイヨの体が乗っている状態だ。
「みんなも助けて!」
ゾナは、イヨに言われて、他の三人も積み重ねるように乗せてゆく。
地面まで五メートルのところで全員を回収。
熱湯の池を避け、ゆっくり着地しようとするが、エネルギーが尽きる。
どたどた。
「いたたた……」
「でも、助かったのであるこん」
地面に落ちた四人は、体をさすりながら起き上がる。
幸運にも、誰も怪我はしなかった。
「ありがとう」
イヨが、ゾナに礼を言う。
ゾナは、すでに休止状態だ。
「あの魔獣の匂いが体についちゃったわ。
もう一度温泉に入りに行こう」
自分の匂いを嗅いで眉をしかめるルナ。
「九尾の狐がボナコンを出したんだね。
だけど、どうしてあんな悪臭を放つ魔獣なんだろう?」
アレクが、疑問を口にする。
「狐という生き物は、人間にそういう悪戯をすることがあるのであるこん」
くすくすと笑うミサキ。
九尾の狐を思って空を見上げる。
ごぼごぼごぼごぼごぼ……。
熱湯が激しく沸き立つ音がする。
池にはまった殺生石が、ぐらぐらと揺れる。
勢いよく熱湯が噴き出し、何百トンもあろう殺生石を飛ばす。
落ちてきた殺生石は、洞窟の入り口を塞ぐ。
元の位置に戻ったのだ。
「間歇泉だったんだ」
アレクがつぶやく。
「何、それ?」
「定期的に熱水を吹き出す温泉のことだよ。
でも、間歇泉なら観光名所になっていて案内もあってよさそうなのに、そうはなってなかったけどなあ」
「不思議なことだらけですね」
「不思議なのであるこん」
すでに夕方になっている。
四人は、もう一泊するために温泉街へ向かう。
次の日の朝。
四人は、また旅館の食堂にいた。
「白と赤の宝玉が手に入ったから、残りは青と黄色と黒だね」
ルナが、食べながら話す。
「高価なのを持ってることをあまりしゃべらない方が」
アレクが、声を潜めて注意する。
「んぐっ」
喉を詰まらせそうになるルナ。
慌てて水で押しこむ。
「そうだったね」
小声で会話を続ける。
「で、次にどこへ行くかも問題だけど……」
「アレクっちとイヨっちのかつての仲間のことであるこん」
アレクとイヨは、深刻な表情になる。
「エルベたちがどうなったのか、何をしようとしているのか、全くわからないからなあ」
「今後私たちに関わってくるのかどうかも」
「でも、どんな敵が来たって、迎え撃つまで!」
高らかに宣言するルナであった。




