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幸運付与師~追放された僕は、美少女たちに幸運をもたらし最強に育て上げる。  作者: 秋ヶ瀬胡桃
第二部。ピンクの猫は、温泉郷でゆっくりしたいのに。

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31.まだ終わっていないわよ

 ミサキが、雪泥鴻爪ファントムクローでキューボックに斬りかかる。

 キューボックの身体には傷がつかない。

 ミサキの手の方が痛む。

 手を押さえながら後方へ飛び退く。


「ミサキちゃん」


 ルナが駆け寄る。


「魔法で守られているようであるこん」


「どうしたらいいのよ」


 悔しさをにじますルナ。

 キューボックは、アレクを追う。

 逃げるアレク。

 足下にニックかビルの剣が落ちていた。

 アレクは、剣を拾い上げ、つかを握って構える。

 戦闘が苦手なアレクがキューボックにかなうわけはない。

 それでも、身を守るためには無茶も必要だ。


「アレク!」


「アレクっち!」


 ルナとミサキが、心配して叫ぶ。

 アレクが剣を使うところなど見たことがないのだ。


 ガッキーン。


 アレクは、キューボックの大剣を剣で受け止める。

 キューボックの方が圧倒的に強いのに、意外だ。

 本来なら、剣ごとアレクを真っ二つにしてもおかしくはない。

 無表情だったキューボックの顔に、わずかに驚きの感情が表れる。

 大剣を高速で振り回し続けるキューボック。

 アレクは、剣を盾のようにしてキューボックの攻撃を防ぐ。


「アレク、凄い」


 ルナは、アレクの剣の腕前に目を見張る。

 だが、防戦一方なのが問題だ。

 アレクは、防御だけで、自分から斬りかかることはしない。

 少しずつ後退し、だんだんと岩壁に追い詰められる。


「アレク!」


 助けに入る隙がなく、ルナは、声を出すしかできない。

 自分にできることを考える。

 あの赤い玉!

 ミノタウロスから得た魔物除けの効果がある赤い玉を思い出す。

 あんな強そうな奴には効かないかもしれないけど、一か八かだわ。

 キューボックに向かって赤い玉を放り投げる。


「うぐっ」


 一瞬、硬直するキューボック。


「今よ、アレク!」


 ルナの声に反応したアレクは、すかさず剣を突き出す。

 キューボックの胸を剣が貫く。

 剣が刺さったまま倒れるキューボック。


「やったわ」


「アレクっち、見事であるこん」


 ルナとミサキは、抱き合って喜ぶ。

 しかし、その場にイヨがいない。


「喜ぶのは早いぜ」


 コウトクの声が響く。


「この女がどうなってもいいのか」


 ルナたちからやや離れた場所にコウトクは立っていた。

 イヨを背後から抱え、首にナイフを押しつけている。

 声も出せずに震えているイヨ。


「卑怯よ!」


 ルナが怒鳴る。


「ああ、卑怯だよ。

 だから、俺の言うことを聞け」


 そう言い放つコウトクに、ゾナがレーザーを連射する。

 ぎりぎりイヨには当たらず、コウトクの手や頭に命中する。

 だが、コウトクは平気だ。

 魔法によって生命力が上がっているらしい。

 ゾナのエネルギーが減ってレーザーが撃てなくなる。


「お前らが九尾の狐を殺せ。

 ついでに、あのアレクって野郎もだ。

 それから、お前らは俺の女になれ」


 図々しい要求だ。

 だが、その要求をのまなければ、イヨの身が危ない。

 どうすればよいのか。



ᓚᘏᗢ



「何故、九尾の狐を殺さなければならないのであるかこん」


「狐が持つ宝玉とやらが価値があるって、そいつがな」


 コウトクが、倒れたキューボックに視線を向ける。

 ボスだったのに、もう「そいつ」呼ばわりだ。


「宝玉とは、これのことですね」


 人間の美女の姿になった九尾の狐が、ルナとミサキのそばに現れる。

 料理屋で会った時と同じく、浴衣と茶羽織を着ている。

 手のひらに、玉葱のような形の赤い宝石が乗っている。


「やはりタマモさんでございましたのであるこん。

 これって……こん」


「あなたも欲しがっていたものよね」


「五色の玉の一つに違いないのであるこん」


「どうする?」


「あの男に渡してくださいこん」


 この言葉を聞いてタマモは、宝玉をミサキに手渡す。

 受け取ったミサキは、コウトクに向かって呼びかける。


「これと引き換えにその子を解放して欲しいのであるこん」


「じゃあ、それをこっちに投げろ。

 そうすれば解放してやる」


 コウトクの言葉を信じ、宝玉を放り投げるミサキ。

 宝玉は、イヨの足下に落ちる。

 コウトクは、イヨを抱えたまましゃがみ、宝玉を拾う。


「へえ、これがあれば……」


 怪しい笑みを浮かべ、宝玉を見つめる。

 なかなかイヨを放そうとしない。


「早くイヨを放しなさいよ」


 ルナが叫ぶ。


「そこの男を殺せと言っただろうが」


 アレクを殺すことにこだわるコウトク。

 ミサキは、宝玉を渡したことが無駄になったことを悔やんで唇を噛む。

 ルナは、コウトクに殴りかかりたい気持ちを必死に押さえる。


「どうしたらいいの」


「僕が死ねばいいのなら……」


 覚悟を決めるアレク。


「だめーっ」


 洞窟内にこだまするイヨの叫び。

 イヨにしては珍しい大声だ。


「イヨさん、あなたも戦えるはずよ」


 タマモが、イヨを指さしながら言う。

 戸惑うイヨだったが、かつてのことを思い出す。

 アレクが憤怒の掌を追い出された直後のことだ。

 聖属性であるヒールを魔物にぶつけて怯ませたことがあった。

 しかし、コウトクにヒールを施してもよいのだろうか。

 コウトクを元気にするだけではないのか。

 イヨは悩む。


「あなたの内なる力を発揮するのよ」


 さらにアドバイスするタマモ。

 イヨは、意識を集中する。


「何のつもりだ」


 コウトクが、イヨの体を揺さぶる。

 意識の集中を続けるイヨ。

 イヨの体が、服が透けるほど光る。

 一瞬の出来事だったが、コウトクの姿が見えなくなった。

 数メートルも弾き飛ばされて倒れていたのだ。

 イヨは、自分がどうなったのかわからず、呆然としている。

 アレク、ルナ、ミサキが、イヨのそばに駆け寄る。

 ルナとミサキが、涙を流しながらイヨを抱きしめる。


「イヨの聖属性魔法の力とあの男の悪しき魔力が反発したんだ」


 アレクは、状況を理解した。


「私にそんな力が」


 驚くイヨ。


「ついでに言うと、僕がキューボックの大剣を受け止められたのは、逆の現象かもしれない。

 拾った剣にも悪しき魔力が染みこんでいたので、キューボックの悪しき魔力を相殺したんじゃないかな」


 三人娘は、アレクの説明を聞いて感心するのだった。



ᓚᘏᗢ



「まだ終わっていないわよ」


 タマモの視線の先には、剣が胸に刺さったままのキューボック。

 死んだと思われたのに立ち上がろうとしている。

 だが、胴体を貫通する剣が邪魔でうまく起き上がれずにいる。


「あれ、人間じゃないわ」


 気味悪さに口を押さえるルナ。

 ミサキとイヨは、身を寄せ合っておののく。

 今まで様々な魔物を見てきたが、そのどれよりも不気味に感じるのだ。


「あの男は、邪悪な力に支配されているわ。

 もはや、人であって人でないのよ」


「タマモ様、それはどういうことでありますかこん?」


「邪悪な存在に魂を売ってしまったのかもしれないわね」


「闇魔導師の闍羅ジャラ


 イヨが、青ざめた顔で呟く。


「この世界にもそんなのがねえ……」


 タマモは、何かを知っている様子だ。


「それより、立ち上がっちゃったわよ」


 剣が刺さったままのキューボックが、こちらに歩いてくる。

 表情ははっきりしない。

 動きは遅く、生きる屍のようだ。


「殺しても死なない奴とどう戦うのよ」


 困り切った顔のルナ。


「あなたたちは、アレクさんの幸運付与を受けているのよ。

 それに、この神聖な空間に入ったことで能力も上がっているわ。

 自信を持ちなさい」


 ルナたちを励ますタマモ。

 アレクの手を引いて岩陰に連れこむ。


「あなたたちで、あいつと戦ってご覧なさい。

 アレクさんは、私が守るから」


 困惑しつつも、黙って頷く三人娘。

 アンデッド同然の敵に打ち勝つ方法を模索する。

 そうしている間に、キューボックが大剣を振り上げて迫り来る。


「とにかくやるわよ」


「はい、こん」


 ルナとミサキが、二人がかりでキューボックに挑む。

 イヨは、二人の後ろで様子を見る。


「でも、どうやるのであるこん?」


「それは……」


 ルナとミサキは、キューボックの大剣をかわしながら話す。

 大剣を小枝のように軽々と振るうキューボック。

 ただでさえゾンビ状態なのに隙がない。


「ミサキさん、あなたの狐火は、明かり以外にも使えるのでしょ?」


 タマモの助言だ。


「それはそうであるがこん」


 以前、フェンスター市のお化け屋敷で狐火を武器にしたことがある。

 しかし、今のキューボックに効果があるか疑問だ。

 魔力を無駄にしたくはない。


「イヨさんの聖魔法と組み合わせたらどうかしら」


「私とミサキさんの魔法をですか?」


 組み合わせると言われても、何をすればよいのか。

 戸惑うイヨ。

 とりあえず、コウトクを吹っ飛ばした時の感覚を思い出そうとする。

 すると、ミサキと意識が通じ合ったような不思議な気持ちになる。

 ミサキも、同じだ。

 次の瞬間、空中に一際明るい火の玉が出現。

 まぶしいのに、癒やしを感じる火だ。

 火の玉を見たルナは、何を思ったか、その火に右手を突っこむ。

 自分の意外な行動に驚くルナ。

 そうしなければいけない気がしたのだ。


「何、これ?」


 ルナの右手は、肘のあたりまで炎に包まれる。

 右手が燃えているのに火の熱さをほとんど感じない。

 ルナは、全てを察した。

 この燃える拳が、必殺のパンチになるのだ。

 拳を強く握って叫ぶ。


「いくぞ、化け物!」

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