25.変な夢を見たのであるこん
翌朝、アレクたちの部屋。
四人は、町を出る準備をしていた。
「もう少しゆっくりしていきたかったんだけどなあ」
ルナは、残念そうに天井を仰ぐ。
「トラブルを避けるためですから、仕方のないことです」
イヨは、まとめた荷物をゾナに収納する。
「あんな冒険者の風上にも置けないすけこまし連中が、魔獣退治で英雄扱いだったってんだから」
ルナは、今度は悔しそうに両手の拳を握りしめる。
射怪の魔弩の評判が、昨夜、他の宿泊客の会話から聞こえたのだ。
「もう忘れましょう。
早く食堂で朝食を済ませましょう」
イヨは、仲間に急ぐように促す。
「朝飯、朝飯っと」
すぐに食事に意識が切り替わるルナ。
にこにこしながら部屋を出ようとする。
「行くよ、ミサキちゃん。
ミサキちゃん?」
ミサキは、ぼうっとして窓の外を眺めている。
ルナの呼びかけが聞こえていないようだ。
「どうかしたの?」
ルナが、ミサキのそばに寄って話しかける。
「あっ、何でもないのであるこん」
慌てて笑顔を作るミサキ。
何か考え事をしていたらしい。
ルナは、あえて穿鑿はせず、ミサキを食堂に誘う。
「さあて、しっかり腹ごしらえして旅に備えないと」
ルナは、相変わらずよく食べる。
食堂のテーブルには、和風の質素な朝食が並んでいる。
白米、味噌汁っぽいスープ、焼き魚などだ。
ビュッフェ形式で、おかわりは自由だ。
ルナの前だけ山盛りだ。
「あまり食べ過ぎると歩けなくなりますよ」
イヨが、ルナを心配する。
小食のイヨには、ルナの大食漢ぶりが、何度見ても驚異的なのだ。
ミサキは、あまり箸が進んでいない。
「大丈夫?」
アレクが、ミサキに尋ねる。
「大丈夫であるこん」
気を遣わせたくなくて、急いでご飯を頬張るミサキ。
ルナとイヨも、ミサキの元気のなさを気遣う。
「変な夢を見たのであるこん。
何でもないのであるこん」
「ならいいのですけど」
「何か悩みがあるのなら、あたしたちに言ってね」
「はい、こん」
それからは、四人で楽しく食事をした。
食堂の外から四人を見る目があった。
射怪の魔弩の頼みでアレクたちを探している町役人だ。
四人の風貌が教えられたとおりであることを確認。
射怪の魔弩が泊まる旅館へと走る。
チェックアウトを済ませたアレクたちは、すぐに町を出る。
また気ままな旅が始まる……はずだった。
アレクたちを付け狙う影がある。
射怪の魔弩の三人だ。
コウトクは、ボウガンに弓をつがえる。
街道の周囲は畑で、農作業をする人がちらほらと見える。
人の気配がなくなる機会を窺う。
アレクまでの距離は、百メートル以上ある。
コウトクの腕前とボウガンの性能なら、アレクを射貫くことも可能だ。
「女たちに当たらないようにしろよ」
「俺がそんなへまをすると思ってんのか」
「冗談だよ」
やがて、街道が人気のない山道となる。
ᓚᘏᗢ
コウトクが、ボウガンの照準をアレクの頭に合わせる。
アレクは、気づかずに百メートルほど先の道を歩いている。
「女たちは俺たちがしっかり可愛がってやるから安心しな」
引き金が引かれる。
一直線に矢が飛ぶ。
アレクの頭部に刺さるかと思ったその瞬間、矢が止まる。
高速で飛んでくる矢を手でつかんだのは、ミサキだった。
「どうしたの?」
矢を握っているミサキを見て、ルナが驚く。
「この矢、見たことがあるのであるこん」
射的場でコウトクが人形を射た矢と矢羽根が同じ形だ。
「まさか、これって」
ルナが、周囲を見回す。
コウトクたちの姿は見えない。
すでに林の中に身を隠しているのだ。
「くそっ、あの獣人、あの矢を取りやがった」
林の中で歯がみして悔しがるコウトク。
「さすが獣人、すげえ反射神経。
ますます興味がわいてきたぜ」
感心するニック。
「これで向こうも警戒する。
どうするんだよ」
ビルは、コウトクの失敗をなじる。
「うるせえな。
今、次の作戦を考えてるんだよ」
怒鳴るコウトク。
苛立ち紛れに木の幹を蹴る。
がっ。
「いっ」
思ったより木が堅かった。
足が痛いのをニックとビルに悟られまいと必死に我慢する。
もちろん、二人は気づいている。
アレクたちも、矢を避けるために林の中に入る。
ルナたちに幸運付与を行うアレク。
これで、たとえ次に矢が飛んできても運良く外れるはずだ。
アレク自身を除いて。
「あいつら、悪戯の度が過ぎるんじゃないの」
怒るルナ。
「ミサキさんが矢を取らなければアレクさんに当たっていました。
よく反応できましたね」
ミサキを褒めるイヨ。
「こうなる予感がしていたのであるこん」
「もしかして、ミサキちゃんが見た夢と関係あるの?」
「アレクっちの命が危ないと誰かに教えられたのであるこん。
それで警戒していたのであるこん」
「そうだったのか。
助かったよ」
アレクは、ミサキの手を握って感謝の意を伝える。
照れてはにかむミサキ。
「あ、いいな、いいなあ。
恋人同士みたい」
ルナは、アレクとミサキをからかう。
アレクも、照れて手を引っこめる。
「油断してはいけません。
敵が迫っているかもしれません」
イヨが、仲間に注意する。
「そうだったわね。
でも、あいつらの居場所がわからないわ」
「ゾナに偵察を頼みましょう」
「承知ぞな」
ゾナは、すでに事情を理解していた。
直ちに飛び立ち、林の上空から生物の体温を探る。
人間型の熱源が三つ集まっているのをすぐに発見した。
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ゾナが、上空からコウトクたちに接近する。
「ん?」
ゾナに気づいたコウトク。
すかさず矢を放つ。
矢がゾナに命中する。
だが、特殊な素材で覆われたゾナには傷一つつけられない。
「何だ、あいつ?」
ニックとビルが、剣を構える。
ゾナは、林の木々の間を飛び回り、コウトクたちを観察する。
「ちょこまか動きやがって」
コウトクは、矢筈から普通とは異なる矢を取り出す。
鏃の部分に丸い膨らみがある。
その矢をボウガンにつがえ、飛び回るゾナを狙う。
木の陰に隠れるゾナ。
その木をニックが剣で切る。
直径二十センチほどの木が、剣の一振りで倒される。
ゾナの姿が現れるやいなや、コウトクが矢を射る。
ボンッ。
矢は、ゾナに当たると爆発した。
爆薬が仕込まれた矢だったのだ。
煙がゾナを包む。
そこへ、ビルが、剣から波動を放つ技で追い打ちをかける。
さすがのゾナも、ふらふらと地面に落ちそうになる。
ダメージは負っていないが、衝撃で一時的に平衡感覚が狂ったのだ。
「よっしゃあ」
コウトクが、ゾナの高さまでジャンプする。
ボウガンを棍棒のようにしてゾナに叩きつける。
ゾナは、さらに低くまで落ちる。
「そいつを捕まえろ」
ニックとビルが、ゾナに跳びかかる。
ゾナは、レーザーを発射する。
「おっ」
「なっ」
ニックは、瞬時に身を躱す。
ビルは、剣でレーザーを防御する。
「こいつ、変な攻撃をしてくるぞ」
「復元された古代兵器だな。
聞いたことがある」
ビルが言う。
「あっ、逃げたぞ」
ゾナは、戦闘を避け、その場を離れる。
木々の間を蛇行しながら飛行して、行き先を知られないようにする。
「どうだった?」
イヨが、戻ってきたゾナに尋ねる。
「なかなか強い奴らぞな。
おいらとお前たちが一緒に戦っても、勝てるかどうかわからないぞな」
「林の中を通って逃げた方がよさそうだね」
と、アレク。
「いけ好かない男たちだけど、実力は本物だからなあ。
でも、逃げるのも癪ね」
ルナは、コウトクたちとどう戦うかを考えている。
逃げるが勝ちとは思い切れない心境なのだ。
「あの……こん」
ミサキが、おずおずした様子で声を出す。
「我に考えがあるのであるが、自信がないのであるこん」
「いいわよ。
とにかく言ってみて、ミサキちゃん」
ルナに促され、ミサキが話し始める。
「我が夢に見た何者かの力を借りるのであるこん」
「え?」
アレク、ルナ、イヨの驚きの声がハモる。
「何者であるかは謎なのであるが、この近くにいらっしゃる気がするのであるこん」




