24.余計疲れちゃった
「あんたたちだけで見に行けばいいでしょ」
ルナは、コウトクの腕を振りほどく。
「いいじゃねえかよ。
ああやってカップルで入ることだってあるんだぜ」
秘宝館の入り口で男女がいちゃいちゃしている。
男が、女を秘宝館に誘っているのだ。
女は、きゃあきゃあ言って嫌がるそぶりを見せるが、顔は笑っている。
むしろ、秘宝館に興味津々のようだ。
やがて、男女は、秘宝館に入っていった。
「だから、あたしは、あんたとカップルなんかじゃないし」
柳眉を逆立てるルナ。
「そんな恐い顔すんなって」
コウトクは、ルナの顎に指を当て、顎クイをする。
ぞわっと鳥肌が立つ感覚に襲われるルナ。
反射的に飛び退き、拳を構える。
同時に、幸運付与をしてもらうためにアレクに目配せする。
すぐに察したアレクは、ルナたちに幸運付与を行う。
ミサキも、ルナの横に並んで臨戦態勢に入る。
イヨは、ルナとミサキの背後に隠れる。
「へえ、やる気?
俺、君らみたいな勝ち気な子、好きだなあ」
コウトクら三人は、嫌らしい目つきで下卑た笑みを浮かべる。
喧嘩にも自信があるらしい。
「この人たち、ただ者ではないのであるこん」
ミサキが、ルナにささやく。
コウトクたちから魔力を感じている。
「魔闘士だと思います」
イヨが教える。
魔闘士とは、魔法と武術の両方を使える職業だ。
「アレクがいるから大丈夫」
ルナが呟く。
しかし、幸運付与の効果があるか、内心は不安だ。
魔闘士の一級冒険者たちに通用するだろうか。
一筋縄ではいかない敵のような予感がする。
少なくとも自分と同程度の相手だ。
戦っても勝負は簡単には決まらないだろう。
「入ってみりゃ意外と面白いかもよ」
コウトクたちは、ずけずけとルナたちに歩み寄る。
全くルナを恐れていない。
ルナの強さをわかっていないのではなさそうだ。
相手の力を把握した上での余裕らしい。
「だから、あんたたちと一緒じゃ面白くないんだってば」
「つれない台詞だなあ」
どどどどど……。
突然、温泉街に轟音が起こる。
大きな動物が群れて走る音だ。
一瞬、馬か牛の群れかと思ったが、違う。
何頭かの魔獣が暴れているのだ。
人々が、悲鳴を上げて逃げ惑う。
射的場などがあるあたりが大混乱だ。
「何あれ?」
ルナが、魔獣の群れを指さす。
「ちっ、邪魔が入りやがった」
苦々しい顔をするコウトク。
どどどどど……。
魔獣の群れは、道を通ってこちらへ迫ってくる。
頭に二本の角がある犀ぐらいの大きさの四足獣だ。
凶悪そうな顔つきで、全身から黒い煙が出ている。
「やっつけなきゃ」
ルナは、魔獣に向かって駆け出す。
ダガーを持ってきていないので、徒手空拳だ。
ミサキも加勢し、雪泥鴻爪の構えをする。
ルナは、魔獣の一頭に跳びかかり、首のあたりに蹴りを入れる。
体のバランスを崩した魔獣は、よろけて建物の壁に激突。
そのまま動かなくなる。
「うわっ、何なのよ、こいつ」
鼻を手で覆うルナ。
魔獣の放つ悪臭が酷かったのだ。
こんな魔獣が、まだ何頭もいる。
ᓚᘏᗢ
一頭の魔獣を雪泥鴻爪で倒したミサキが、顔を押さえて咳きこむ。
「気分が……こん」
立っているのもつらい状態だが、魔獣はまだ多い。
ルナも、攻めあぐねている。
魔獣たちは、秘宝館の周辺を走り回る。
建物の壁や看板が壊されてゆく。
「やってやるか」
ボウガンを構えるコウトク。
放たれた矢が、魔獣の頭を貫く。
ニックとビルは、収納魔法で異空間にしまっていた剣を出して振るう。
剣から発せられた波動が、数メートル離れた魔獣を切り裂く。
三人は、次々と魔獣を倒してゆく。
「へえ、あいつら、やるじゃん」
ルナは、一級冒険者たちの実力に素直に感心する。
女に対して強気でいられるだけのことはある。
だからといって、惚れたりはしないが。
「あいつらに任せよう」
走り出しながら、ミサキ、イヨ、アレクに手招きする。
このどさくさに紛れて、コウトクたちから逃げるのだ。
「温泉に来たのに全然リラックスできないわね。
余計疲れちゃった」
「それにしても凄い匂いであるこん。
体に染みついてしまって取れないのであるこん」
「あの魔獣は、一体何だったのでしょうか?
なぜ急に現れたのかしら?」
四人は、旅館の部屋に戻ってきた。
魔獣を二頭退治して町の平和に貢献したが、報酬はない。
コウトクたちを撒くことができたので、それでよかったと思っている。
魔獣に感謝したいぐらいだ。
「あれは、ボナコンという魔獣だね」
アレクが説明する。
「酷い悪臭の魔獣だと本に書いてあったし、形も記載の通りだ」
「さすがアレクさん、読書家です」
イヨは、アレクを褒める。
うっとりしたような目だ。
「でも、どうして町の中にいきなり出てきたのかなあ?
僕の幸運付与のせいのような気も……」
「それは考えすぎじゃないの」
ルナが笑う。
「夕食の前にもう一度お風呂に入らないと。
匂いを落としたい」
「それがよいのであるこん」
「僕は、匂いがついてないから、ここで待つよ」
「私も」
「イヨちゃん、もしかして部屋でアレクと二人きりになるつもり?」
ルナが、からかうような笑みをイヨに向ける。
「ずるいのであるこん」
「そ、そ、そんなつもりは……」
赤面するイヨ。
そのままルナとミサキに風呂場に連れて行かれる。
本日二度目の入浴だ。
その頃、射怪の魔弩の男たちは、町長たちから賞賛されていた。
射怪の魔弩の三人だけで全てのボナコンを退治したと思われている。
町役場の前の広場を群衆が埋め尽くす。
英雄の勇姿を一目見ようと押しかけたのだ。
「あなた方のおかげで被害者も出ませんでした」
「あれぐらい、俺たちにかかれば大したことないっすよ」
コウトクは、髪をかき上げイケメンぶりをアピールする。
集まった若い女たちから歓声が上がる。
女たちの中に可愛い子はいないかと探すコウトクたち。
ルナたちに勝る女はみつからない。
心の中で舌打ちをする。
後でルナたちを探すつもりでいる。
ᓚᘏᗢ
「お礼なんてとんでもない。
冒険者として当然のことをしたまでっすよ」
かっこつけて心にもないことを言うコウトク。
町長からいろいろなサービスを提示されたが、全て辞退した。
「さすがは勇者様だ。
なんて慎み深い」
町長は大感激だ。
群衆も、一斉に褒め称える。
気取った表情のコウトクたちだが、内心は損したと悔しがっている。
「それでは、宿はお決まりですか?
まだでしたら、我々が手配しますが」
「じゃあ、お言葉に甘えるとしますか」
宿へ案内されるコウトクたち三人。
「おいおい、そんなに押さないでくれよ。
俺って美人に弱いから」
寄ってくる女たちにお世辞を言ってあしらう。
どの女にも興味はない。
見失ったルナたちを早く探したいとうずうずしているのだ。
「あの子たちの名前、聞きそびれちまったんだよなあ。
魔獣と戦ってる最中にいなくなりやがった」
「この町のどっかに泊まってるだろうけど」
「一緒にいた男の名前は、確かアレクだったかと。
そいつの名前で探せばいいんじゃないか」
町で最も豪華な旅館の最も豪華な部屋。
出された料理も最高級。
ボナコン退治の謝礼として、射怪の魔弩に無料で提供された。
三人とも、浴衣でくつろぎながら、ルナたちのことを話している。
「顔もいいし胸もでかくて勝ち気とか、最高だぜ」
ルナのことを思い出しているコウトク。
だらしなく顔面を弛緩させる。
よだれが垂れそうになっている。
いやらしい想像で頭がいっぱいなのだ。
「俺は、あの獣人の子だな。
どんな体をしてるのか興味あるぜ」
ニックも、コウトクと同じ表情だ。
「俺は、断然、眼鏡の子だな」
ビルだけは、何故か知性派っぽい顔つき。
お前らはわかっていないとでも言いたげだ。
「はあ? あの貧乳で地味なのが?」
と、ニック。
「そう、そこがいいんだよ」
ビルは、貧乳と眼鏡の素晴らしさを長々と説く。
その熱量に仲間の二人もさすがに呆れるほどだ。
コウトクが、ビルの演説を途中で遮る。
「まあ、とにかく、明日になったらあの子たちを見つけるぞ。
せっかく町長がコンパニオンを無料で派遣してくれるって言ったのに、英雄らしく断ったんだからな。
女がいないんじゃ、高級な飯もうまくねえ」
そう言いつつ、皿に盛られた肉を口に運ぶ。
「だけどよ、俺たち、変に目立っちまったせいで、ナンパもできなくなっちまったのがなあ。
それどころか、有名になったせいで町を歩くのも難しいぜ」
「どうやって女たちを探すよ?」
コウトクが、二人に問う。
「どうやってって言われても」
「適当な理由をつけて、アレクとその仲間の女の子三人が町を出たら教えてくれと町の役人に頼むってのどうだ?」
「おお、さすがビル」
ビルのアイディアを褒めるコウトク。
ボウガンを構える真似をする。
「で、人の見てないところでその男を」
引き金を引くように指を動かす。
「そうすりゃ女たちも俺らに乗り換えるって」
「ぎゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
三人の猿のような馬鹿笑いが、高級旅館のワンフロアに響き渡る。




