14.やっぱりダンジョンよね
喧嘩の結果を見た兵士は、洞窟に入ることを許可してくれた。
「冒険者たる者、やっぱりダンジョンよね」
三人の先頭に立つルナは、意気揚々と洞窟を進む。
だが、すぐに立ち止まってしまう。
「ああぁ、しまったぁ。
明かりを持ってくるのを忘れてしまったぁ」
暗闇の中で頭を抱えるルナ。
「それなら大丈夫であるこん」
ルナの手のひらの中から火の玉が現れる。
アレクたちを明るく照らす。
さらに二つの火の玉が出てくる。
一人に一つずつの火の玉が、衛星のように付き従う。
「狐火であるこん」
「うわあ、すごーい」
「さすが狐獣人だね。
強い霊力をもった狐が狐火使うと本で読んだけど」
アレクも感心している。
「狐のことを知っているのであるかこん?」
「あ、いや、本で読んだだけだけどね」
「狐のことを知っていてくれる人間がいることは嬉しいのであるこん」
ミサキのアレクに対する好意が深まる。
「それじゃ、改めて、出発!」
ルナの号令で、三人のパーティーは、洞窟の奥を目指す。
洞窟は、狭くて曲がりくねっている。
数百メートル進んだが、魔物のいる気配はない。
先に入った冒険者たちに始末されたのだろう。
「魔物の大量発生は、そんなに簡単には収まらない。
まだ奥の方にいるはずだ」
アレクは、ルナとミサキに注意を促す。
「そうね」
「はい、こん」
岩陰から魔物が現れるかもしれない。
全方向に意識を集中して慎重に歩く。
やがて、前方から声が聞こえてきた。
先に入った冒険者たちだろう。
魔物と戦っているようだ。
次第に洞窟が広くなる。
様々な音が洞窟の壁面に響いて、耳がじんじんしてくる。
行く手にドーム球場ぐらいの大きな空間が現れる。
たくさんの魔物と人間が入り乱れて戦闘を繰り広げている。
「まるで戦争……」
ルナが、呆然としてつぶやく。
この状況で自分が何をすればよいのか迷う。
「危ない!」
アレクが叫ぶ。
様々な形態の無数の魔物が急接近してきたのだ。
大きさも馬ぐらいから犬ぐらいまでまちまちだ。
瞬く間にアレクたち三人を取り囲む。
ルナとミサキは、アレクを守りながら身構える。
「ぎええーーーっ」
奇声を発し一斉に襲いかかる魔物。
ルナは、ダガーを大きく一振りする。
数匹の小さい魔物が、体を両断される。
さらに回し蹴りで他の魔物を払いのける。
続いて、ミサキが、魔物の群れに跳びかかる。
両手から伸びた魔法の爪で魔物たちを切り裂く。
先ほどより爪が長いので、魔物の体がバラバラになってゆく。
「アレクっちのおかげか、雪泥鴻爪の技がすんなり決まるのであるこん」
「アレクの幸運付与って凄いでしょ」
二人で話ながら、次々と魔物を切り刻む。
大量の魔物の死体は、徐々に溶けて消える。
どこから湧くのか、魔物が減る気配はない。
さすがの二人も疲れてきた。
その時だ。
突然、別の冒険者パーティーが近寄ってきた。
「君たち、俺たちと協力しないか!」
ᓚᘏᗢ
「俺たちは、一級冒険者パーティー『蒼穹の迅雷』だ。
俺は、リーダーのコンラッド」
いかにも勇者らしく、勇ましい口調で自己紹介する。
男女二人ずつのグループ。
剣士のコンラッドとタンクらしき男。
魔法戦士と魔術師の女。
攻撃と守備のバランスもよさそう。
だが、衣服の汚れ具合から、かなり苦戦していたことが見て取れる。
協力と言っていたが、助けを求めに来たのが正直なところだった。
ミサキによる火の玉が特別明るかったので目についたのだ。
「こちらこそ、一緒に戦いましょう」
快く蒼穹の迅雷を受け入れるアレク。
「みんな散らばって戦ってるから、まとまりがないんだ。
できれば、もっと多くの人たちと連携を取りたいぐらいなんだけど」
ルナとミサキが戦っている間に周りの様子を見ていたのだ。
冒険者たちの戦い方の問題点に気づいていた。
「確かに君の言うことは正しい。
しかし、残念ながら、もう他のパーティーに呼びかける暇はないのだ」
そう話しているうちに、また魔物の群れが迫る。
「とにかく一緒にやっつけちゃいましょう」
と、ルナ。
「お願いします」
蒼穹の迅雷の女魔術師が答える。
続けて、ルナとミサキに強化魔法をかける。
アレクも、その場の七人全員に幸運付与を行う。
「今のは幸運付与よ。
少しぐらいドジっても平気になったわ」
ルナが、敵を倒しながら、簡単な説明をする。
「よくわからないが、力を振り絞って戦うのだ」
コンラッドが、味方を鼓舞する。
剣を振るいながら魔物の群れの中に突進する。
勇気は本物のようだ。
「本当に強くなったのであるこん」
ミサキは、強化魔法の効果に驚く。
一回爪を振るっただけで、今までより多くの魔物を切り裂いたのだ。
「本当だわ」
ルナも感心している。
一匹の魔物に蹴りを食らわすと、他の魔物を巻きこんで吹っ飛ぶ。
そのまま岩の壁にぶつかり、粘土のように潰れる。
「あの人たち、凄い」
蒼穹の迅雷の魔法戦士の女は、目を丸くしている。
負けてはいられないとばかりに魔法攻撃を発動。
「ライトニングアロー!」
電撃が、無数の矢となって魔物たちに降り注ぐ。
貫かれた魔物は、悶絶して倒れる。
「おお、全部当たった」
魔法戦士は、電撃の矢が無駄なく敵に当たったことに驚く。
普通なら、半分以上は敵に当たらないものなのだ。
アレクの幸運付与の威力を実感する。
「右の方からたくさん来ます!」
新たな群れに気づいたアレクが叫ぶ。
タンク役の男が、その群れに立ちはだかる。
盾と剣が一体化した武器で魔物たちを薙ぎ払う。
「今度は、向こうから群れが!」
また敵の動きを知らせるアレク。
ルナとコンラッドが対応に向かう。
二人で、群れを難なく全滅させる。
次第に現れる魔物が減ってきた。
だが、離れた場所では、別の冒険者たちが苦戦を続けている。
「あっちを助けに行こう」
アレクが呼びかける。
「そうだな」
コンラッドが賛成する。
他の全員も異存はない。
苦戦中の冒険者たちのところへ走る。
疲労が限界に近いにもかかわらずだ。
ᓚᘏᗢ
「ライトニングアロー!」
女魔法戦士による電撃の矢が、流星雨のように降り注ぐ。
冒険者と魔物が入り乱れて戦っているのに、魔物にだけ矢が命中する。
「おお、本当に魔物にだけ当たった」
幸運付与を信じて、一か八かでやってみたのだ。
ただ、万が一味方に当たったらと考え、威力を落としてあった。
魔物たちは、電撃で体がしびれて動けないだけだ。
動けない魔物は、たちどころに切り伏せられる。
「おい、しっかりしろ」
コンラッドが、倒れている男に声をかける。
その男は、すでに息がなかった。
見渡すと、多くの人間が倒れている。
アレクが、別の倒れた男に駆け寄る。
こちらも死亡している。
よく見ると、洞窟の入り口で「早く入れろ」と兵士に怒鳴っていた男だ。
さっきまであんなに威勢がよかったのに。
悲しい気分になる。
だが、悲しんでばかりもいられない。
まだ魔物との戦闘は終わっていない。
「ヒール」
女魔術師が、生きている怪我人に治癒魔法を施して回る。
多数の重傷者がいて、手間取っている。
戦闘特化型のパーティーが多く、ヒーラーが少ないのだ。
ルナやコンラッドたちは、戦っている冒険者に加勢。
押され気味だった冒険者側が巻き返す。
アレクは、生き残っている味方全員に幸運付与を施す。
かなりの精神力を消耗する作業だ。
直接戦闘していないのに疲労がたまってくる。
「残りの敵はわずかだ。
あともう少し頑張るのだ!」
コンラッドが、声高らかに味方を勇気づける。
その声のおかげか、諦めかけていた人たちも奮起する。
幸運付与の効果もあり、魔物の攻撃が冒険者側に当たらなくなる。
冒険者側の攻撃は、面白いように当たる。
完全に形勢逆転だ。
「はあ、はあ、もう敵の姿は見えないわ」
さすがのルナも息が荒い。
立っているのがやっとなほどだ。
「我らが勝ったのであるこん?」
ミサキは、地面にへたりこんでいる。
「ここから見える範囲には、魔物はいないみたいだ」
アレクは、注意深く洞窟内を見渡す。
まだ岩陰に潜んでいるかもしれないから油断はできない。
二十人ぐらいの冒険者しか生き残っていない。
はじめの半分以下だ。
勝利と言っていいのかわからないほどだ。
皆、呆然と立ち尽くしている。
「よーし、ドロップ品を探すぞー」
アレクたちから数十メートル離れた洞窟の隅。
早速、魔物が落としたアイテムを探し始めた男たちが現れた。
五人で地面を探っている。
「一緒に戦った人がたくさん死んだばかりなのに。
冒険者の権利とはいえ、気持ちの切り替えが早いわねえ」
ルナは、呆れと軽蔑の混ざった眼差しを送る。
「あんな人たち、いなかったはずだよ」
アレクは、支援職として戦闘を客観的に見ていた。
人物の姿も把握していた。
ドロップ品を探している連中は、明らかに戦闘中は存在しなかった。
「あいつら、ドロップ品だけ横取りするつもりね。
こういうところによくいるのよ、ああいうの。
ああもう、ぶっ飛ばしてやりたいけど、体力が残ってない」
悔しがるルナ。
「あの人たち……こん」
ミサキが、五人の男たちを見つめる。
頭の耳がピンと立つ。
わなわなと体が震え出す。
ミサキのそばに漂う火の玉の火が、強くなったり弱くなったりする。
感情の揺れが現れているのだ。
「どうしたの、ミサキちゃん」
「我を焼き殺そうとしたノロ猪とかいうパーティーであるこん」




