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第一部 第八章 お宝の山?(一)

 何日も雨が続いていた。

 昼間だというのに空は暗く、窓の外を眺めているだけで、理由もなく気分が沈んでくる。

 せっかくの連休だというのに、この雨ではほとんど出かけられない。

 こういう日は、結月も遠慮して俺を呼び出したりはしない。

「……悠宇は連休で遠征だし」

 一人ごとを呟きながら、俺は立ち上がった。

「出前でも取るかな?」

 その瞬間だった。

 ――ドンッ!!

 外から、腹の底に響くような轟音と、目を焼くような閃光。

 次の瞬間、部屋の蛍光灯がぷつりと音を立てて消えた。

「雷で停電? マジかよ……」

 ため息をついた、その時。

 俺の身体が、ぼんやりと光り始めた。

「……俺の身体は非常灯じゃないんだけどな」

 見慣れた光景だった。

 召喚される時に起こる、いつもの現象。

 セレフィナに何度となく呼ばれれば、カナエもあの後何度か引っ張り出されたこともある。

 最近は、もう驚くことも少なくなっていた。

「今日は、どっちだ?」

 視界が白に塗り潰されていく中で、

 なぜか胸の奥が少しだけ弾んでいる自分に気づく。

 ――ワクワクしている、なんて。

 ……慣れって怖い。


「……え?」

 意識が戻った瞬間、妙な感覚があった。

(首根っこを掴まれて……持ち上げられてる?)

 いや、足は地面についている。

 ただ、襟元を誰かに摘ままれているだけだった。

「あら?」

 頭上から、落ち着いた女の声がした。

「あなた、いつから影の中に入っていたの?」

「……え?」

 影?

 意味が分からず視線を上げると、黒髪の女性と目が合った。

「その……自分の足で立ってますから」

 俺は慎重に言葉を選ぶ。

「首、離してもらっていいですか?」

「あら、失礼」

 ぱっと手が離れる。

 周囲は薄暗かった。少女を照らすスタンド付きライトの範囲しか確認できなかった。暗さに慣れてきて目を凝らして改めて周囲を見回して、俺は言葉を失った。

 見渡す限り、瓦礫、瓦礫、瓦礫。

 人の背丈を優に超える残骸の山が、地平線まで続いている。

「……ここは?」

 喉が乾いた。

「ここも、異世界、かな?」

「異世界?」

 女性はよく分からない、といった態度を示す。

「ゴミ処理場……?」

「ゴミではないわ」

 即座に否定された。

「資源の山、よ」

「瓦礫の山は、どちらかと言うとゴミだな」

 横から声がした。

「……?」

 視線を向けると、そこには一匹の犬。

 ――犬だ。

 しかも、普通に喋っている。

「な、なんだ……? 犬が、喋ってる……」

「クロ、お黙りなさい」

「けっ」

 犬――クロは、つまらなそうにそっぽを向いた。

 状況はまるで分からない。

 だが、一つだけ確かなことがある。

(ここ、異世界だな……)

 俺たちは、ひとまず簡単に自己紹介をすることになった。

「俺は悠斗。佐藤悠斗……」

「私はノア」

 女性はそう名乗った。

「ここでパーツを集めて生計を立てているの。」

 風に揺れる長い黒髪を背中へ流していた。煤けた空の下でも、その琥珀色の瞳だけは強く、まっすぐ前を射抜いている。

 額にはゴーグル付きのキャップ。元は明るい色だったのだろうが、泥に汚れた作業用のつなぎを無造作に着こなし、腰には工具や小瓶をいくつも吊るしている。片手には使い込まれたバール、もう一方には重そうな工具箱。華奢に見える体でそれらを軽々と扱う姿は、場違いなほど凛としていた。

「そっか……」

 俺は自然と頷いた。

「君にとって、大切な仕事場だったんだね」

「……ええ」

「俺はクロ」

 犬が胸を張る。

「まあ、簡単に言うと野良の魔獣、ってとこかな?」

「魔獣!?」

 魔獣という存在は漫画やアニメでしかみたことはなかった悠斗は、クロを凝視した。

「私の能力はね」

 ノアは俺をじっと見つめた。

「影の中に物を入れて、取り出せるの」

 そして、少しだけ眉をひそめる。

「あなた……いつの間に、私の影に入ったの?」

 ――その言葉に、嫌な予感が胸をよぎった。

(ああ、これ……)

 たぶん、まただ。

 また俺は、

 呼ばれるはずじゃないものとして、呼ばれた。


 瓦礫の山を見渡しながら、悠斗は改めてノアに問いかけた。

「ここでは、どんなことをしていたの?」

「この山の中には、まだ使えるパーツが眠っているの。いわゆる――過去の文明の遺産ね。それを探しているわ」

 見渡す限りの瓦礫。

 確かにゴミにしか見えないが、よく目を凝らすと、機械の部品や金属片が無秩序に混ざっている。

「でも、この量から探すのは大変じゃない?」

「そうね。だから採掘道具を取り出そうとしたら……あなたが出てきた、というわけ」

 淡々とした口調で言われ、悠斗は苦笑する。

「その影、生き物も出し入れできるんだな」

「クロ、お黙りなさい」

「けっ」

「じゃあ、その道具を取り出せば仕事できるんですよね?」

「それが……その道具自体が埋まってしまっていて、見つからないのよ」

「やっぱりか……」

 嫌な予感は当たるものだ。

 今回もまた、手伝いコース確定。悠斗は小さく肩を落とした。

「あの……手伝うよ」

「ありがとう。助かるわ」

「めんどくせー」

「クロには頼んでない」

 瓦礫の山を掘り返していくと、姿を現すのは見覚えのある構造の機械や、貴金属、鉱石の類だった。

「よく見たら、結構パーツってあるね」

「……一度説明しただけなのに、よく選別できるわね」

「そうかな?」

 その瞬間――

 近くの瓦礫の山が、爆発したように吹き飛んだ。

「な、なんだ!?」

「ノアねーちゃんから離れろ、クソヤローども!」

「ヤバいのが来たな」

「バル、止まりなさい。この人は協力者よ」

「協力者ぁ?」

 少年は悠斗の周りをぐるりと回り、値踏みするように睨む。少年の額の小型ライトが俺の目に当たり眩しい。

 ぶかぶかの作業着姿で、背丈に合わない大きなハンマーを振り回している。無鉄砲で元気だけが取り柄の、どこにでもいる街の悪ガキだ。 

「悠斗だ。よろしくな」

「バルだ。で、お前の能力は?」

「……は?」

「鑑定眼、ってところかしら」

「マジか!? スゲーじゃん! お宝教えてくれよ!」

「ちょっと待って。そんな能力、持ってないって」

「そうかしら?」

 ノアの鋭い視線が突き刺さる。

 クロもまた、興味深そうに悠斗を眺めていた。

「俺は腕力強化だ。子供だからって舐めるなよ」

「あー……さっき瓦礫の山が吹き飛んだのは、それか」

 吹き飛ばされた瓦礫の中から、悠斗が次々と使えそうなパーツを拾い上げる。

「スゲーな……少し見ただけで分かるのか」


 ノアが少し考え込んで、何かを思い付いた。

「バル、力を加減して。この山を崩してちょうだい」

「えー!? 加減って難しいんだよ!」

「お前はいつもゼロか百だからな。だからヤベーんだよ」

「クロは黙って。……バル、あなたならできる。そうよね?」

 真っ直ぐに見つめられ、バルは一瞬だけ視線を逸らした。

「……分かったよ。やってみる」

 拳が振り下ろされる。

 瓦礫の山は崩れたが、先ほどのように吹き飛ぶことはなかった。

「お、さっきより全然いいな」

「悠斗、見てもらえるかしら」

「分かった」

 崩れた瓦礫の中を覗き込み、悠斗は次々と手を伸ばす。

 無駄に散らばっていない分、選別は驚くほどスムーズだった。

「ここは……こんなもんかな?」

「見事ね」

 ノアは選ばれたパーツを一つずつ、影の中へ落とし込んでいく。

 それを、クロは言葉もなく見つめていた。

「今の加減でいいのか?」

「完璧だ」

「よーし! 次々いくぞー!」

「張り切りすぎるなよ」

「最高のコンビね。今日は豊作だわ」

 目的の量は、本来かかるはずだった時間の半分で集まった。

 ノアは明らかに機嫌が良さそう――なのだが、表情からは読み取れない。

 ただ、影の揺れだけが、彼女の内心を静かに物語っていた。


 一行は、瓦礫の山を後にしてノアの家へ向かっていた。

 その道中、クロの奇妙な行動が何度も目に入る。

「あ、UFO」

「へー」

「どこどこ?」

 何もない空を見上げるバルを横目に、クロは知らん顔をして歩き出す。

「おや? あんな所にパーツが?」

「へー」

「お宝お宝〜」

 同じやり取りが、何度か繰り返された。

「……なあ、クロ。お前、何がしたいんだ?」

「バカにしてるんでしょ?」

「俺はバルだ!! バカじゃない!!」

「からかっているだけだ」

 そんな他愛ないやり取りをしているうちに、一行はノアの家へと辿り着いた。

 古びてはいるが、しっかりとした造りの建物だ。

 扉が開き、中から一人の女性が顔を出す。

「母さん、ただいま」

「おかえり、ノア。今日はお友達も一緒なのね。どうぞ、上がって」

「はい。お邪魔します」

「また来たぞー!!」

「……」

 ノアの家は、店舗と住居が一体になっていた。

 壁際には様々な商品が並び、店の奥には生活空間が続いている。

 ノアは迷いなく店舗の奥へ進んでいった。

 そこには、一人の男性が腰を下ろし、黙々と作業をしている。

「どうぞ。お茶しか無いけど」

「ありがとうございます」

 湯気の立つ湯飲みを受け取ったところで、ノアが戻ってきた。

「こちら、私の母」

「リィナです。いつもはお店にいるんだけど、今日は天気が悪くてね」

 ふわりとした栗色の髪を肩口で揺らす、笑顔の絶えない女性。エプロン姿で店先に立ち、くるくるとよく動く瞳はいつも楽しげだ。底抜けに明るい声が似合う、店の店主だった。 

「何を売っているんですか?」

「ノアが持ってきたパーツを、旦那が直して売ってるの」

「父さんは技術者なの。初めて見るパーツでも直しちゃうのよ」

 作業の手を止めず、男が低い声で口を開いた。

「直っているかどうかは分からん。動かす動力源がないからな。……ノアの父、カイルだ。君が鑑定眼の」

 無精ひげをたくわえた、寡黙な職人。煤けた作業着に分厚い手袋、節くれだった手が仕事の年季を物語る。口数は少ないが、その背中が店の商品を支えている。 

「いえ、それは……たまたま知ってただけというか……」

 本当は、現代の機械だけではない。

 セレフィナの世界の道具も、カナエの世界の物も、悠斗は知っている。

 だが――それを説明できる言葉は、まだ無かった。

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