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第二部 第十九章 確信する未来?(三)

 悠斗は、自室で一人考え込んでいた。

 あの日の後も、何度か各時代を行き来し、断片的な情報を集めてきた。

 だが――それぞれの時代の間に、どれほどの年月が横たわっているのか。

 それは想像すら出来ない。

 時代を越えて共通していたものは、決して多くない。

「結局、形として残ってるのは……」

 悠斗は、指を折りながら呟く。

「魔法石やパーツ、エンブレム……それと、“能力”か」

 魔法。

 能力。

 超能力。

 呼び方は違えど、本質は同じ力。

「地域に……そして、人」

 各世界の地形や位置関係を重ねると、共通点は明白だった。

 元となった場所は、日本。

 戦国時代のようにエリア同士が争い、やがて統一され――

 アロウディム国となる。

 だが、その先に待っていたのは、魔力の枯渇と荒廃だった。

「ユイの時代から、セレフィナの時代へ……」

 悠斗は、ゆっくりと言葉を繋げる。

「それからノアの時代を経て、カナエの時代に繋がる、か」

 窓の外を見つめ、小さく息を吐いた。

「ノアの時代で、地球を出た人類が作った……機械の星」

 ――サイトとレナが生きる時代。

 大まかな流れは見えた。

 だが、それはまだ仮説に過ぎない。

(サイトに聞きたかったけど……)

 悠斗は、胸中で続ける。

(歴史改竄に繋がりそうなことは、あの人なら言わないだろうな)

 未来人が、ニャルに釘を刺していた理由も、今なら分かる。

「……教え過ぎるな、ってことだよな。きっと」

 そして、もう一つ。

 自分自身が――

 既に“タイムパトロールの対象”になっている可能性。

 その考えが、脳裏をよぎる。

「……そろそろ、かな」

 悠斗は、静かに目を閉じた。

 サイトと、レナの元へ。

 強く、強く願う。

 その瞬間。

 悠斗の体内で、ナノマシンが呼応するように――

 淡い光を放ち始めた。


 目を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは――。

 机に向かい、資料を広げているレナの姿だった。

 そして、その格好は開放的で……悠斗には刺激が強かった。

「あ……」

 思わず声が漏れる。

「……え?」

 レナが振り返る。

「ちょ、ちょっと、なんでそんな格好……」

「ギャ~~!!」

 悲鳴と同時に、悠斗は反射的に背を向け、廊下へと飛び出した。

 直後、部屋の中からはバタバタと慌ただしい物音が響く。

「……」

「……」

 しばらくの沈黙。

「……あの?」

 恐る恐る声をかけると、低く鋭い返答が返ってきた。

「忘れろ」

「……はい?」

「今見たものは、忘れろ。いいな、悠斗」

「……はい」

 悠斗は全力で忘れようとした。

 だが、体内のナノマシンがそれを許すはずもなく、記憶はやけに鮮明なままだった。

 ――が、悠斗は賢明にも黙ることを選んだ。

 やがて扉が開き、レナが姿を現す。

 白衣のようなものを羽織ってはいるが、その下は上下スウェットの部屋着。慌てて着たのだろう、全体的に少し乱れている。

 長く美しいはずの黒髪も、寝癖を隠しきれていなかった。

 前に会った時と、まったく同じだ。

「あの……コード、あります?」

「サイトおじさんが置いていってるわ」

 手渡された細長いコードを受け取り、悠斗は一瞬ためらってから、恐る恐る鼻の穴に突き刺した。

 ――カチッ。

 小さな音と共に、しっかりと接続される。

「へな、ちゅうへんするへ」 (レナ、充電するね)

「何を言ってるか分からないけど……いいわ」

「はひはほう」 (ありがとう)

 悠斗は壁の端子にコードを差し込み、壁に向かってうつむいた。

 身体からは、淡い暖色系の光が静かに溢れ出す。

 エリスティアが、何も言わずに悠斗の頭を撫でていた。

 ――その時だった。

 ピン、という澄んだ音が、部屋中に響き渡った。


 最初に反応したのは、エリスティアだった。

「サイト様がいらっしゃいました」

「やっぱりね。悠斗が来たの、分かってたみたい」

「はひふ、はんほふひへふははな」 (あいつ、観測してるからな)

「何を言ってるか分からないけど……そうね」

 扉が開き、サイトが姿を見せる。

「悠斗?」

 壁際で淡い暖色の光を放っている悠斗を見て、状況を即座に察したらしい。

 サイトはエリスティアが用意したお茶を受け取り、何も言わずに椅子へ腰掛けた。

 ――しばらくの沈黙。

 充電が終わる頃、ようやく悠斗の身体から光が消えた。

「……ふぅ」

「サイト。俺なりに調べてみたんだけどさ」

 悠斗は真剣な表情で切り出す。

「お前はどこまで俺のことを観測してた?」

「お前の推測は合っている。よく調べたな」

「タイムトラベルだって分かれば、あとは繋げるだけだろ?」

「悠斗。お前が言うほど、簡単な話じゃない」

 たしなめるような口調に、悠斗は肩をすくめる。

「それよりさ……一番気になってることがある」

 少し間を置いて、悠斗は尋ねた。

「俺、タイムパトロールの対象になるのか?」

「……恐らく、ならないな」

「え?」

「体内にポータルを埋め込まれた過去の人間なんて、俺の知る限りお前だけだ」

「でも、俺が歴史を改竄したら――」

「ならないわ」

 口を挟んだのは、レナだった。

「え?」

「歴史の改竄っていうのは、過去に遡って行われるものなの。悠斗はね――」

 レナははっきりと言った。

「未来へ行っているの。特異な存在なのよ」

「未来……」

「本来、人は未来へ行くことは出来ない」

 サイトが言葉を継ぐ。

「え? でも、俺はここに……」

「それは、お前の中のポータルが俺の時間軸を記憶しているからだ」

 サイトは一度言葉を切り、静かに息を吐いた。

「だがな……俺の時間軸の“未来”は、まだ決まっていない」

「決まってない?」

「今から一秒先すら、存在していない世界だ」

 悠斗は言葉を失う。

「つまり……ここより先の未来には、行けないってことか?」

「本来は、な」

 レナが少し考えるように腕を組む。

「でも、悠斗はイレギュラーよ」

 二人の視線が、同時に悠斗へ向けられた。

「サイトおじさんの時間軸より、もっと遙か先にいる“誰か”の時間軸を認識出来れば……」

「悠斗は、そこへ行けるかもしれない」

「遙か先の……誰か……」

 悠斗は、その言葉を噛みしめるように呟いた。


「お前が飛んでいる時代はな」

 サイトは湯気の立つカップを置き、静かに言った。

「俺の時間軸では、すでに“確定していた未来”だ」

「確定していた……未来?」

「そうだ。そこに“悠斗と出会った”という分岐が生まれた」

 サイトは指で空中をなぞる。

「時間軸というのは、並行世界として無数に存在している」

「並行世界!!」

 思わず声を上げた悠斗に、レナが肩をすくめる。

「その無数にある並行世界の中で、特定の“誰か”に会うために必要なのが、ポータルってわけ」

「そういうことだ」

 サイトは頷いた。

「お前が各世界へ飛び、『悠斗と出会った時間軸』を作ったとしてもな――」

 一瞬、言葉を区切る。

「それは、その時間軸における史実になる。改竄にはならない。むしろ……」

「むしろ……?」

「まだ確定していないのは、今ここにいる“悠斗の時間軸”だ」

 悠斗は息を呑む。

「お前の行動次第で、未来はいくらでも変わる可能性がある」

「え……?」

「今お前が知っている未来とは、違う未来になるかもしれない、ということだ」

 悠斗は唇を噛みしめた。

「それって……」

「?」

「俺の行動次第で……サイトや、レナが……」

 言葉を探すように、ゆっくりと続ける。

「生まれない世界になる、ってことも……あるのか?」

「かもね」

 レナはあっさりと答えた。

「でも、それは“今ここにいる私”が消えるって意味じゃないの」

「生まれなかった時間軸が、別に存在するってだけよ。既にそんな時間軸はあると思うし」

「悠斗」

 サイトの声が、少しだけ柔らいだ。

「お前の時間軸の未来は、まだ確定していない。だからこそ――」

 まっすぐに、悠斗を見据える。

「自分が信じた通りに、生きろ」

「俺が……信じる通りに……」

 その言葉と同時に、悠斗の脳裏に浮かんだ顔があった。

 セレフィナ。

 カナエ。

 ノア。

 ユイ。

 どの世界でも、確かに出会い、言葉を交わし、笑った存在。

 ――もし、存在しなくなるとしたら。

 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。

 悠斗は、何も言えないまま、拳を強く握りしめていた。

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