表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

第二部 第二十章 これからの未来?

「なんにしてもだ」

 サイトは腕を組み、淡々と語る。

「歴史の改竄なんてものは、どれだけ準備をしても本当に出来るかどうか分からない。これは、この世界の共通認識だ」

「……?」

「ただし」

 一拍置き、声の調子がわずかに重くなる。

「今の現実に絶望した人間が、歴史を変えるために過去へ飛び、凶悪犯罪によって未来を書き換えようとする――」

 その視線が、悠斗を捉えた。

「その思想と行動を取り締まっているのが、現在のタイムパトロールの実態だ」

「それって……」

「俺たちが『改竄は出来ない』と考えていてもだ」

 サイトは続ける。

「『変えられる』と信じている人間は、確実に存在する、ということだ」

 悠斗の脳裏に、ニャルの言葉がよぎった。

――意外といるニャ。みんな、気付いてないだけで。

 それはつまり、過去へ行ったまま戻らない未来人が存在する可能性を示している。

「なぁ……」

 悠斗は静かに問いかけた。

「例えばさ、過去に行って、そのままその時代で生き続けるのは……歴史の改竄になるのか?」

「過去に留まること自体は、改竄にはならない。この世界から1人減り、過去の世界に1人増える。その変化はこの長い歴史において、些細な出来事だからな」

 サイトは即答する。

「しかし……」

「でも」

 レナが言葉を継いだ。

「タイムトラベルそのものは、犯罪――ってことよね?」

 どこか探るような声音だった。

 姉のことを悟られないようにしながら、それでも確認したい、そんな微妙な揺れがあった。

「そうだな」

 サイトは短く頷く。

「…………」

 レナはその言葉を黙って聞いている。

「だったら……」

 悠斗は眉をひそめる。

「本来行けない未来とはいえ、俺もタイムトラベルしてることになるんじゃ……」

「悠斗は、この世界の人間じゃない」

 サイトは静かに言った。

「だから、裁くこと自体が出来ないだろう」

「でもさ」

 悠斗は食い下がる。

「調べられたら、サイトの時間軸までバレるんじゃないか?」

「ナノマシンが、お前を守る」

 迷いのない答えだった。

「……都合よく考えすぎじゃないか?」

 悠斗は苦笑する。

「それでも元・時空警官かよ」

「世の中、そんなものよ」

 レナが肩をすくめた。

「悠斗にとっては未来人の私たちも、全部を知ってるわけじゃない。裁けない事象なんて、いくらでもあるの」

 その言葉を聞いて、悠斗はようやく息を吐いた。

 張り詰めていた胸の奥が、少しだけ軽くなる。

 ――少なくとも、今すぐ追われることはない。

 そう思えただけで、十分だった。


 悠斗の中で、ばらばらだった世界の時の流れが、一本の線として繋がった。

 時代が変わり、文明が移り変わっても、その中で生きる人々がいる。

 ――その人たちを、守りたい。

 同時に思う。

 自分自身の未来。

 これから決まっていく未来。

 これから自分の手で繋いでいく未来のことを。

 そうした想いを胸に抱きながら、悠斗はサイトとレナの元を後にした。

 ――――

 目を開けると、そこは自分の部屋だった。

 椅子に座ったままの姿勢。

 窓から差し込む朝の光が、やけに現実的に感じられる。

「……戻ってきたんだな」

 この現代の未来は、まだ何も決まっていない。

 そう思い、立ち上がろうとした瞬間。

 ピコン、とスマホが光った。

『駅前集合』

 たった一行の短いメッセージ。

 それなのに、やけに大切なものに思えた。

「結月も、相変わらずだな」

 悠斗は苦笑しながら身支度を整え、家を飛び出した。

 駅前まで走ったはずなのに、息はほとんど乱れていない。

「……あれ?」

 胸に手を当て、首をかしげる。

(ナノマシンの影響か? それとも……満タンまで充電したから?)

 そんなことを考えていると、改札の向こうで結月が手を振っていた。

「ゆーくん、おはよ」

「あぁ、おはよう。結月」

 結月の手には、少し大きめの荷物が抱えられている。

「それ、何?」

「おばあちゃんの家に届けるの」

「……なるほど。その手伝いってわけか」

「分かってるね〜」

 屈託なく笑う結月に、悠斗は肩をすくめる。

(俺の時間軸の未来……今まさに刻まれてるんだな)

「結月のばあちゃん家ってことは、電車か?」

「大丈夫だよ。ゆーくんの電車賃も、お母さんからもらってるから」

「未来さん公認かよ……」

 ため息をつく悠斗の腕を、結月がぐいっと掴んで改札へ引っ張る。

 悠斗は何も言わず、結月の荷物を受け取った。

 結月も、当たり前のようにそれを預ける。

 言葉はいらなかった。

 ――こうして刻まれる一瞬一瞬が、

 きっと、悠斗の「これから」を形作っていくのだから。


 車窓から流れる景色を、悠斗はぼんやりと眺めていた。

 決して高くはない山並み。

 陽光にきらめく海岸線。

 どれも見慣れていたはずなのに、いつの間にか遠ざかっていた風景だ。

「電車に乗るの、久しぶりかも」

「私もだよ。最近は車ばっかりだからね〜」

 向かいに座る結月が、楽しそうに揺れる景色を見ている。

「今日は未来さん、来れなかったのか?」

「ううん。私が急におばあちゃんに会いたくなってさ」

 いたずらっぽく笑う。

「きっと、ゆーくんも同じだと思って誘ったの」

「勝手なこと言うなよ」

 悠斗は苦笑する。

「でもさ……結月のバァちゃん、怖いんだよな」

「あはは。もう子供じゃないし、大丈夫だよ」

 その言葉で、昔の記憶が蘇る。

(思ったことをそのまま口にして、怒られたっけ……)

 ――サイトと出会う前の、ただの子供だった頃の話だ。

 電車を降り、最寄り駅から山へ向かって歩き出す。

「この川、懐かしいな。よく遊んだよな」

「私はイヤだったけどね」

「え、そうなの?」

「子供にしたら結構深いし、流れも速かったよ」

「あー……一回、怒られたの思い出した」

 二人で笑いながら、田舎道を進む。

 やがて見えてきた古い家。

「ゆづ、よく来たねぇ。ゆー坊、元気にしとったか?」

 縁側から、結月の祖母が顔を出した。

「おばあちゃん、来たよ」

「久しぶり、バァちゃん」

 結月が荷物を差し出す。

「はい、これ」

「助かるねぇ。こうも田舎だと、なかなか観れんからのぉ。これが楽しみなんじゃ」

「そういえば……何持ってきたんだ?」

「アイドル番組を録画したビデオテープ」

「バァちゃん、アイドル観てるの!?」

「悪いか!!」

 思わずのけぞる悠斗。

「それに、ビデオテープ?」(ここ、過去の世界か?)

「最近はテレビの調子も悪くてねぇ。叩いてもダメになってきたよ」

 しょんぼりと肩を落とす祖母。

「そろそろ買い替え時だって、お父さんも言ってたよ」

「いや、サブスクの時代に何でビデオテープ届けてるんだよ……」

 呆れる悠斗に、結月はさらりと言った。

「顔を見に来る口実だよ」

「……」

「まったく、ゆー坊は相変わらず分かってないねぇ」

 祖母にまで言われ、悠斗は苦笑するしかなかった。

 ――けれど。

 こうして笑い合える時間もまた、

 確かに“今”という未来の一部なのだと、悠斗は静かに思った。


 久しぶりの田舎をのんびりと堪能した二人は、帰り際にたくさんのお土産を持たされた。

「これ、りっくんにも渡すんだよ」

「分かったよ。ありがとな、バァちゃん」

 きちんと陸への“おつかい”も託される。

「おばあちゃん、ありがとう。また来るからね〜」

「いつでもおいでな、ゆづ」

 手を振る祖母に見送られ、二人は来た道を戻り始めた。

 子供の頃の思い出話もひと段落した頃、結月がぽつりと口を開く。

「お父さんがね、おばあちゃんをこっちに連れて来たいんだって」

「へぇ」

「いろいろ不便だろうから、って」

「頻繁に会えるようになるなら、良かったじゃん」

 悠斗がそう言うと、結月は少しだけ困ったように笑った。

「でもね、おばあちゃんは――おじいちゃんの側がいいんだって」

「……じぃちゃんか」

 その言葉に、さっき立ち寄った墓地の景色がよみがえる。

 小さな丘の上。

 風に揺れる草と、静かに並ぶ墓石。

「たくさん思い出があるから、って」

「……そうか。バァちゃんらしいな」

 結月は、少しだけ空を見上げる。

「私ね。お母さん方のおじいちゃんおばあちゃんはいなかったから……」

「うん」

「おばあちゃん一人なんだよね」

 その声は、どこか寂しげだった。

 悠斗は少し考え、それから穏やかに言う。

「また来ような」

 結月は一瞬驚いた顔をして、それから柔らかく笑った。

「うん」

 山から吹き下ろす風が、二人の間をすり抜けていく。

 変わらない景色と、変わっていく時間。

 それでも――こうして並んで歩ける“今”が、何よりも大切なのだと。

 悠斗は静かに、そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ