第171話 もうひとつの
月峰紗夜は、なんとか自宅に帰宅することが出来てほっとした。
『加東奈月』のリンクを出来るだけ、自分とも共有しながらも避難所には行かずに自宅へ帰宅するのを優先したからだ。1LDKの少し家賃が高いアパートだが、部屋の惨状は2階であれ予想通りになっていた。
「……あー、ひっど。浸水してないのに水浸しじゃない?」
カードキーで玄関を開けたら、室内は水浸しになって荷物がめちゃくちゃになっていたのだった。引越ししてまだ間もないのに、外の荒れ方に巻き込まれてしまったのか、室内はめちゃくちゃ。
せっかく集めた推し活のグッズも、ほとんどが水浸しのせいで悲惨な状態に。『クロニクル=バースト』の一員になる前から掻き集めるようにして注ぎ込んだものたちが藻屑となったと言えよう。
「……犠牲になる物は、文字通り犠牲になった。それだけにしたって……ここまで酷くなるの?」
この家で過ごしていた期間は短い。むしろ、強制入院させられていた期間の方が長いと言えるだろう。だがしかし、退院出来るタイミングだったために、戻れるのならこの家に戻りたかった。病院では、奈月とのリンクがまったくと言っていいくらい出来なかったため……とにかく、場所を変えたくて自力で退院までこぎつけたのだ。
三富夏奈の安全を確保出来たという任務をこなしていたが、紗夜も自律神経失調症以上に気象病などで身体が少し弱かった。奈月のように虚弱とも違うが、少し天候の乱れがあるだけで……今のように、辛い苦しいが過ぎるのを待つしかない。
だけど、無理を承知で事情を知っている医師に伝えて退院してきたのだ。その努力を無駄にはしちゃいけない。
ひとまず、冷蔵庫の中身は無事か確認してみると、即冷凍になったのかで、冷凍食品についてはまだ無事だ。
オーブンレンジが使えるか確認してから、冷凍庫に入れていた宅配弁当を解凍してみた。
「……匂いヨシ。味は…………問題無し!! いただきます!!」
病院食じゃない、半分ジャンキーな食事をするのはいつぶりだろうか。夏奈のために三ヶ月以上はあの病院で療養を兼ねて潜伏していたものの、意外に味付けの濃い食事に舌鼓を打っていたのは間違いない。
だけどそれよりも、この程度で人類破滅に至っていないのが紗夜には信じがたいことだった。被害者続出の震災レベルの自然災害に見せて……並行世界の神々が協力して、地球サイドをギリギリの状態で残した。
一刻も早く、奈月を探しに行きたいところだがこの家に待機していなければ、無理矢理にでも避難所に向うよう警察にマークされてしまうだろう。
だから、自宅で出来る範囲でのサポート業務をこれから励まないとならない。
「さっきの回答者は美晴先輩の妹ちゃん限定にしてたけど……この宅配弁当の監修者、ね? すっごく美味しいからもう一個!!」
ある程度食べないと、これから挑む業務を進められるかわからない。弁当を温めている間にダイニングテーブルに放置したままだったデバイスたちを起動していく。
少しばかり気温が上がってきたが、代わりに床がびしょびしょになっていくので仕方なく、靴下を脱ぐことにした。素足でも過ごせる空調に慣れてしまうのは紗夜の特異体質かもしれないが、今は置いといて。
「……ここから、なっちを取り戻すのに。あたしも頑張らなきゃ!!」
人類生還劇の世界を作るべく、彼のパートナーとしても担当する役割は多い。まずは、リンクする並行世界を選ぶところから。どの『自分』とリンクさせ、地球サイドの環境改善を促すのか奈月にも指示を仰ぎたい。
今のところ、藍葉も関わっていた『異世界ファーム』の方が準備が早いのでそちらに精神的なリンクを張り巡らせることにした。そのために、適当に片付けた組み立てベッドの上で身体を仮死状態にさせる。
次のステップの始まりだ。
次回はまた明日〜




