第165話 消えてしまったトモ
起きたら、自分たちの周りだけでなく……『サナ』が佇んでいた位置に砂の山が出来上がっていた。
なんて悪夢だと、クルスはまだ横で寝ている妻を起こしたくなかった。こんな事実を知れば、クルスの腕の中で泣きわめくだけならまだ可愛いもの。
それ以上の絶望を味わい、日々生きる気力を無くすのが目に見えてしまう。
神からのお告げを受けて幾日経つというのに、その神とやらは自分たちの『友』を無くす行為をしてまで世界を再興させたいというのか。
(そんなことしてまで……せなあかんことなの、か?)
だが、この機会がなければクルスはリーナと再会することなく死んでいたかもしれない。リーナにもその可能性はあった。
だからって、近しい存在にだったゴーレムを風化させてまで、国や世界の再築をしなくてはいけないのか。それは義務なのか任意なのか。
わからないことだらけだが、リーナを起こさないように気を付けながらサナだった『砂』を掴んでみたがやはりただの砂でしかなかった。
「……サナ」
だった砂を掴んでみても、手の中でさらさらと地面に流れていくだけ。周囲を見渡せば、自分たちを囲うように散っていったような痕跡があった。誰が彼女をこんな姿にしたかと言えば、おそらく管理者である神々のはずだが……なんのために、このような仕打ちをしたか問い詰めてやりたい気持ちになった。
関所を出ればほかに助け合える存在はいるかもしれないが、自分たちは別枠の存在だったのではないのか。それを聞けるのは、あの連絡版しかない。
「……確かめる、しかないか」
仕方ないが、リーナを起こしてこの状況の説明をするしかなかった。リーナは深く寝入っていたのかであくびをしたが、起きたあとの惨状を見ても『そっか』と意外にも冷静な判断をしてくれた。
「さっちゃんは、役目を終えたのかもね? それか、帰る場所に帰ったかもしれない」
「帰る場所?」
「ゴーレムってね? 役割を終えたあとには望む場所に帰れるって言い伝えがあったの。巫女暮らししてたときの伝承程度だけど」
「……おとぎ話でもないんやろ?」
「そうだといいけどね? ……あ」
風がまた巻き起こり、互いに吹き飛ばされぬよう抱き合っているとサナだった砂は空へと巻き上がっていった。そして、砂はきらきらと輝き始めていき、まるで星の粒ともいわんばかりに畑以外にも敷地内に降り注いでいく。
最初から、そのためにこの砂は用意されていたのだとふたりに信じ込ませるかのように。
光が落ち着くと、サナが立っていた場所に何かの植物の芽が大きく生えだした。
「なんや?」
「この距離でもわかるくらい、いい匂い……花の香り?」
柑橘にも似た芳しい花の匂い。それが強くなるにつれて、芽がどんどん成長してひとつの木となった。オレンジ色の大きな花がいくつか咲いた美しい木。それがサナの生まれ変わりなのかと思うくらいの成長速度だったが。
花が枯れて、実となったその果実はふたりの胃袋を直撃するような芳しい香りが強いものだった。
クルスが先に収穫してみれば、外見はオレンジとかの果物だったが中身は料理というとんでも果実だったのには驚きを隠せない。居なくなったとは言え、相変わらずの彼女だと思える置き土産だった。
せっかくなので、いくつか収穫してその場で食べることにした。ふたりとも食欲にはどうしても抗えないので仕様がなかったからだ。
次回はまた明日〜




