第166話 ブースト機能をポイ活に
『加東奈月』からの返事はすぐに来ない。
成樹との連絡も、彼が無理ない範囲で通話を続けてくれたが……しばらくして、彼の栄養補給が始まると指示が出たらしいので、切ることになった。
ひとりきりの部屋に戻った気分になってしまったが、成樹がきちんと『生きている』ことを確認できたと認識出来た途端、通話中もあったが涙が止まらなくて自分で自分を抱きしめてしまう。
泣き過ぎて、嗚咽まじりの声を止められなかったが。安心し過ぎて、今まで我慢していたものを堰き止めるのがもう辛かったのだ。
(……シゲ、くん。生きて……生きて、た!!)
この場所で最初に目にした時の、本音を漏らしはしなかったが。最悪の場合を考えてしまうくらい、成樹の安否が明確にわかったのが嬉しかった。嬉しすぎて、嗚咽なんてかわいいもの。嘔吐まではしなかったが、少し過呼吸気味の息切れをしてしまうくらいに身体のあちこちが脱力してしまったのである。
「……次に。あたしとかで出来る、こと!」
兄の美晴も起き上がれたと分かれば、リアル側で『三富夏奈』との会合を望むはず。自分たちのこともだが、その手助けもしたい。
成樹たちを取り戻せる手段のためにも、まだまだ外界の環境改善は整っていないのだ。宅配業者の輸送ルートの確保くらいで安心していてはいけない。
「交通手段だけど。こんな大量の氷を溶かしたら……次は水浸しが酷いものになっちゃう、よね?」
海側が津波に大きく変化する可能性だってある。それを堰き止めているかのように、氷で埋めているだけかもしれないが。それでも、『次』を待ってくれている『異世界ファーム』のユーザーらが今あるだけの任務でポイ活をしてくれている。
予想以上のDL数もまたさらに更新したため、単純なポイ活では追い付かなくなってきている。
なら、『加東奈月』が指導してくれた上で作詞をこなした、ふたつの曲を動画サイトで流していく間に構築すべきか。
危険を覚悟してまで、死に急いでほしくもない。自分たちの『無事』を整えていくために……このポイ活の皮をかぶった『安全措置』を、藍葉たちは必至で繋ぎ止めているのだから。無関係者など関係ないとか言っていられないのだ。
成樹たちは、彼ら側でサポートしてくれることをこれから始めるかもしれないが。それがすぐに出来るとは限らない。
「曲一周か二周で、外の氷がばりばり落ちたし……数人どころか数百以上のユーザーが使用したとなれば」
テレビ番組で昔よく見た、流氷の崩壊のようになって建物に張り付いている氷が地面に一気に落ちていくことだろう。公共交通機関の安全確保も無事に出来るか怪しい。それに乗じて、宅配業者が今度こそ足止めを喰らうのも容易に想像できる。
思いつきは出来たものの、勝手なことは必要以上にしないでおこうと決め、ここはクロードへの連絡をすることにした。
『……せやな。熊谷たちの帰宅確保のためにも、そこは慎重になろうや』
クロードも自宅に帰れないのは同じなので、避難場所として扱われている会社での非常事態はいっしょのままだ。
「あの曲使うと、なんか魔法みたいな現象が起きてるのって奈月さんたちのせい?」
『そうなるように、科学技術のスペックが高い連中らと連携してるんや。自然に振舞うように見せて、実は演出とか映像とかで出来るようになったやろ?』
「……下手に、二曲ともリリースさせたら?」
『地震、津波は確実やな? 外もまともに動けんくなる』
「……どーしよ」
『たしかに、氷を除去出来れば……避難経路がいくらか確保出来るやろな? 任務をひとつにしぼって、ブースト機能つけるのはどやろ?』
「ブースト機能?」
『ゲーム風に言えば、必殺技のそれみたいなもんや』
「……水を完全に蒸発できるとか?」
『……熊谷たちの許可の前に。試験的にやるか?』
「やろう」
なので、あとで作った曲でSNSはやめて動画サイトのみで公開したのだが。
クロードが遠隔操作でビルのディスプレイ越しに音響として流したら、その建物周辺の氷が解けて水があふれ出したと……すぐに、SNSと連動して確認していた藍葉にもニュースが見れた。成功とはなったが、これでは熱源が足りなさ過ぎて下水道に流れる水の量が間に合わない。
どうしたものか、と、試しにデバイスで同時に二曲とも流してみると。
「あっつ!? え、さむ!!?」
室温が急激に変化を起こしたため、止めたところ。デバイスの周りがぬるい水でびしょびしょになっていた。それを見て、やはりこの方法かと藍葉は即席で『PV画像』を作ってクロードに確認してもらい……それを、ポイ活アプリのテーマソングにして、ユニークユーザーたちに任務をこなしてもらうことにした。
爆速的に、ポイント還元が欲しいのであれば時間内に任務をこなせという、無茶ぶりな指示を飛ばしたのである。
次回はまた明日〜




