第154話 サイドとのリンク
まず、『加東奈月』のサイドとリンク出来たことで、『地球サイド』の彼の意識がおぼろげになっていたのを……隅でおびえていた主治医に、奈月は再三再四と言わんばかりに謝罪した。
「いや、それは……いいんだが。ここから、どうしたらいいんだい?」
主治医の山根には奈月の入院以外の事情を伝えてあるため、ここからの『移動』についての処置を求めているのだろう。それくらいは想定の範囲だったので、奈月は監視カメラのスイッチを切るように頼んだ。
「俺を、通称『第一病院』ってところに転院させてください」
「こ、これから?? 救急車すら、まともに配送できるかあやしいのに」
「大丈夫です。宅配便とかの大型車は移送できるように手配出来ます。その中に、俺を『荷物』として配送してもらえれば」
「そ、そんな扱いで?」
「病院側はもうこれ以上迷惑をかけれないですし。救援物資も色々届くでしょうから、心配無用です」
「いや、そうじゃなく。君は」
「俺のことは、もう二の次でよくなったんで問題ありません」
まだ今もリンクが、ノイズ音のように続いているのでわかる範囲の情報を山根に伝えていく。
災害の余波はこれ以上来るかまでは予測がつかない。しかし、大きな波はもう過ぎた。地震も、津波も、凍結も……だいたいの災害は、これでも小規模で終わった。その『人柱』になっていた『加東奈月』を含める『クロニクル=バースト』の役割も、ひと通りの終わりを迎えたのだ。
あとの処置については、こちらが最大限までフォローしていく。しかし、この病院に奈月が居ては皆の邪魔をするだけだ。コールドスリープのポッドがある、指定された病院の中で『起きれ』ば……あとは、勝手にどうとでもなるのだから。
「……医師としては、はいそうですかとは言えんが。ほかの患者の容態を考えると、そうなってしまうな」
「次の主治医にバトンタッチしてくれていいんです。あとのことは、そっちでなんとかしますから」
「ここでは、『三富夏奈』さんの容態とリンクするため……だったか」
「彼女との、その状態はもう維持する必要はないです。逆に俺を引き離してください」
「……救急搬送できるか、掛け合ってこよう」
「ありがとうございます」
無理を承知の上で、矢継ぎ早に申し出てしまったが。次のリンクを繋げないと、奈月も『まちゃ』と『メメ』に連絡しにくい。彼らは既に『寝て』しまっているので、こちら側でリンクしようにもまったく音信不通状態なのだから。
(……藍葉ちゃんに全振りするような状況になってるのはいかんし。『まちゃ』と『メメ』に関わりのある『向こうの俺』もそろそろ起きるかもしれんしな? ここにいる『俺』も元居た並行側に帰らなくちゃいけないし)
起き上がった『加東奈月』は結局のところ、地球サイドの本人ではない。多種多様な並行側とのリンクをかいくぐって、やっと地球サイドに近い事情を知ってる性格を表に出しただけだ。かといって、藍葉と曲制作を指導しまくっていたサイドの『ひとり』でしかない。
複数同時の、解離性同一性障害のように見せかけた『多次元の自分たちの総称』が『加東奈月』というだけであって。
『元の自分』に戻るための救難信号を各リンクに送っているだけで、自暴自棄になっているわけではないのだ。だからこそ、次はどうするかを頭以外で構築しなくてはいけない。
少し横になるか、と身体を介護ベッドに乗せたはいいが。そこから本気で寝そうになったのも束の間。
気が付いたら、タンカーで救急搬送される声が耳の奥にもかすかに届いている場面しか記憶がなかった。
(ごめん。『次』、頼んだ)
相対のパートナーが近くにいることを願い、こちらでの奈月は意識を閉ざして身体から出ることにした。
次回はまた明日〜




