第151話 ただの人間扱いにしてほしい
あの『お告げ』が終わってしばらくして。
金貨の嵐は少し落ち着いたものの、雨が降るような日常として敷地内にはとどまっている。
変わったといえばその程度。あとは、『サナ』が動かなくなった以外は仕事をしているくらい。
クルスは、時間があればリーナがサナの側に行くことを見て見ぬふりをしていた。というか、それくらいの気遣いくらいしか出来ない。
ゴーレムであれ、友人のような存在だったのは……リーナにとっては、クルスへの愛情のそれとはまた違うものだ。別に嫉妬したところで意味がない。
だけど、気にすれば気にするほど。夜に隣で寄り添いながら寝るときに甘えが大きくなってしまう。情事はしないが、抱き合っても埋めようのない『感情』をクルスが与えてあげられているか自信がないのだ。
互いの一瞥以外、まだひと月くらいの付き合いなのだ。知らないことが多くて当然。
成り行きの情事もあった上で『夫婦』になっても、恋仲の期間も極端に短い。知らないことが多過ぎて、なんと声をかけてよいのやらが見つからないのだ。
(……悔しいけど。管理者の指示も特にない今は仕事減らしても、ええやろう)
だから、キリのいいところまで仕事を終えたと判断してだが。クルスもリーナの横に腰かけることにした。
「……クーちゃん?」
「サナは動かんか?」
「……全然」
「なあ。サナって、リーナとどう出会ったん?」
「敷地くっついた時だよ?」
「せやけど。先に会ったんやろ?」
「えーっと。裏口のとこの垣根が消えたら、どーんって感じに立ってたね?」
「こんな感じにか?」
「あ、そうそう。こんな感じ」
少しだけ明るい口調に戻りそうだったが、今だけかもしれない。
サナに触れたところで、なにが起きるかわからないし、起きないかもしれないだろうが。
それでも、近しい存在として側にいてやれば変わるかもと思ったのはリーナが先だ。相手がゴーレムであれど、『独り』でいるのは寂しいものだと感じて。
(サナ。あんたは神が遣わしてくれたもんやろ? なんか、お告げとかでもええからしゃべってくれや)
見下すまではしないが、的確な指示を出してくれる淡々とした物言いとか。
表情こそはないけれど、リーナと仲良く話すときに醸し出す雰囲気とか。
それらをまた、クルスたちの前で見せて欲しい気持ちはあった。人間でなくとも、サナはサナ。『宝物の種』から生まれ出た存在であったとしても、管理者の手駒であれど、クルスたちには近しい存在に変わりない。
だからこそ、『起きて』ほしい。
寝ているかどうかはわからないにしても、『目覚めて』ほしいのだ。今はただ。
邪魔とかそんな扱いにしたつもりもないし、むしろこちらは助けてもらった側。例のひとつくらい言いたいのに、管理者の意向によってただの置物状態になってしまっている。もう、十日ほどは。
(……起きてや。リーナも俺も待っとる)
テトポリカ国の滅亡に関係していたとか、今更言われたとしてもさらに驚くだけだ。祖国を捨てたわけでなく、『託された宝』をこの地に埋めて役割を担っただけ。
それが、神らの意向であったとしても……サナは、その神に動きを閉ざされてしまってこのままだとしたら。クルスとリーナは指示を受ける以外に基本何もできない『人間』でしかない。
ただの人間なら、ただの人間のように生活もしたい。
この敷地の外の彼らのように、必死扱いて生活する方が性に合っているだろうが。
それが出来ないのであれば、『次』が欲しい。
『サナ』を経由してでもいいから、次のお告げが欲しかった。
結局は、クルスの中にくすぶる焦りとわがままがこの場にいる理由かもしれない。
次回はまた明日〜




