第107話 想像以上の極寒
寒いのは当然だが。
それ以上に、『痛み』『苦しさ』を感じるとは思わなかった。
もこもこに着込んだ冬服はまったく意味を持たない布雑巾みたく、かちこちに凍ってしまうとは。
それでも、藍葉は徒歩で行くしかないと成樹の家に向かう。距離からして、障がい持ちの足で休み休みしながらでも何時到着するかなんてわからない。正気の沙汰だと言われようが、自宅に居てもなにも出来ないのなら、動くしかなかった。
『起きて』いる理由がきっと訳アリなら。
『ナツ神』と連携を取りやすくする必要があるのなら、成樹の家に行けばきっと役に立てる。成樹がいるかもしれない淡い期待はしつつも、いないかもしれないという悲しみは奥の奥に引っ込めた。
そんな悲しい思いをしているのは、障がいとか関係なく藍葉以外にいくらでもいるのだ。己を卑下しても意味がないくらいわかっている。
世界がどうとか。
地球が生きているとかどうとか。
それはもちろん、生活している上で大事だし……大変かもしれないが。
成樹や美晴を取り戻したい。
藍葉の不自由な足を突き動かす原動力は、常にそれだ。結局は自分勝手な思いで動いているだけでしかない。
(……だって、大好きだもん)
成樹は恋人として。美晴は兄として。
その部下に任命されたのは日が浅くとも。大事な大事なふたりを取り上げられたことに変わりない。相手が神とか超常現象とか、摩訶不思議に巻き込まれたのは人間だろうが神だろうが関係なくとも。
愛して止まないふたりを、自分の知らないところに連れて行かれたことには……正直言って怒り心頭なくらいに、心のうちにその感情が湧いて出ていたのだ。
凍った道路を介護杖で歩くのは至難の業とも言えるが、出来るだけ転ばないように気を付けていく。荷物が多かったとしても、最低限にはしている。重いと言えば重いが、自分の相棒に近いタブレットたちを置いていけなかった。データは成樹の家にもあれど、途中で作業を再開するかもしれないとなったらスマホだけでは難しい。
ず……っ、ず……っ、と杖を使いながら足を動かしていく。凍傷になっている可能性は高かったが、結局手術もしばらく受けれない身としてはこれをリハビリと考えるしかなかった。
(……まだ。まだ……とっても、遠い)
一キロの道のりがとても遠く感じるくらいに、長いし遠いと感じるが。公共交通機関がほぼ全滅だというニュースは家を出る前に見てきたのと同じだ。乗ったとしても金属の箱の中で凍結する可能性が高いため、まったく意味がない。
時間がかかっても全然いい。成樹の家に向かおう。
その心意気を糧に、足を動かしていけば……ほんの少しでも前に動く。今はそれくらいの成果しか望めないのだった。
次回はまた明日〜




