第103話 会いたい、あの子に
嘘を吐いた。
大事で大事で仕方がない藍葉に、どうしようもない嘘を吐いた。
下手すると、二度と会えないかもしれないという事実。それを察してほしくないがために、無理やりコールドスリープから起きて『嘘』の会話をした。
VRMMOの並行世界に潜っていたのを、無理やりにでも抜け出した反動のせいで……通話が終わってから、成樹が『どこ』にいるのかさっぱりわからない事態になっていたのに気づかなかった。
(どこじゃ……ここ)
美晴といっしょに、自宅兼仕事場で待機していたはずなのに。なにかに『閉じ込め』られているように、身動きが取れない。拘束器具でもつけられたにしては、まだゆるく動くことが出来るため余計におかしかった。
スマホ以外の端末は近くに無く、狭い空間以外視覚や聴覚でわかる範囲の情報も得られないときた。
もしや、と思い当たったことがひとつ。セキュリティを突破され、連携している警察らが成樹たちを運んだのかもしれない。『加東奈月』を並行世界から呼び起こし、現実に起きた『惨劇』を解決してほしいという勝手な判断で。
そのために、事前に通告されていた『コールドスリープ』に成樹たちを閉じ込めたのかもしれない。
(くっそ……このままだと、逆にVR側に潜っていた方が楽か?)
それ用の端末は顔に装着されたままだったから、そこへの措置は自分たちでなんとかしろと言うことか。奈月が『預言者』でもなんでもないと知られていなければ、成樹らも巻き込まれてはいなかった。
だけど、今までの積み重ねがなければ、藍葉とも再会出来なかったし恋人にもなれなかった。これは、その満たされた現実への対価なのだろう。
(しゃーない。『寝る』か)
潜ることは現実から意識を逸らし、『冬眠』に近い身体機能にして並行世界へと侵入する事象。通称、『寝る』と成樹らは称しているのだが、起きた途端に異常な体力を消耗してしまうので無理やりリンクを切り離すのはあまりやりたくない。
先ほど、藍葉と話していたはずの『通話』ですら今もおぼろげだ。奈月が繋いでくれた幻聴だとしても、泣かせてしまった彼女には非常に申し訳ない。
(……会いたい。けど、今は)
NPCのプレイヤーにリンクし、『作動』させる状況を整備しなくてはいけない。地球の地殻変動はもう起きた。コールドスリープに入れられている時点で、『クロニクル=バースト』関係者は必然的に眠らされてしまったのだ。
地表は凍り付き、生命活動をゆるやかに眠らせ。意識あるものを徐々に冬眠させていくのが『加東奈月』の計画のひとつだった。そうしないと、被害人口が増えるばかりだからと。生きていることに変わりないが、死ぬと身体を失い『活動』出来なくなってしまう。
死生観の違いはあれど、肉体を失ったことで魂は自由になるとかあるが。あれは『留まる世界』とやらがないと意味がない。形を保てずに消滅する恐れがある。だから、人身御供のように身体機能が一番弱かった『加東奈月』が自ら提案したのだ。『預言』と称して。
なのに、今成樹らが眠らされているのは本当に彼からの指示なのか怪しい。
バックサイドのこちらがいつでも無事であるように、まるで事前に準備していたかのようだ。
(……仕上げは、『ハル神』らのせいか?)
だとしても、藍葉にきちんと説明出来なかったのが自分でないのが申し訳なかった。社内に取り残されているクロードにあとを任せたのが、少しでも役に立てているといいのだが。
とにかく、端末を起動させ……意識をVR側へダイブさせようとしたときに『スカベンジャー・ハント』のNPCらが皆勢ぞろいするという幻影を見たような気がした。起動位置に到達したときにはもういなかったが、稼働させていた『タチカワ』に視点を合わせると。
【起きてください。タチカワ警部】
チャット機能は封じていたのに、成樹にはそれが見えた。それをタップすると、NPCの『ドクター』が瞬時に稼働し出して……『タチカワ』に軽く小突いてきた。
『ひとりで考え込むな。『シゲくん』』
『……藍、葉?』
『おーきーたー?』
NPCのバックヤードでのブラウザ展開が広がり、ドクターの向こう側に愛しい少女が涙いっぱいにしながらも笑っている顔が見えた。
次回はまた明日〜




