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三本勝負

 ヨハネから切り出した料理勝負。

 口論のあとモトベさんの取り仕切りでルールが制定された。


「まず勝負は三本勝負で行う。ひとまず明後日からの土日に勝負をして、決着がつかなければ来週の三本目でケリをつける」

「構いません」

「同じく」


 ここまでは特に変わった点はない。


「勝負内容は公平に、公園に来た一般客に審査をお願いするぜ」

「先生に審査していただけるのかとばかり」

「それだと俺っちの贔屓が混じっちまうからな」

「ふふふ、なるほど。先生がプロの目で審査したら、わたくしたちの方が圧倒的に有利ですからね」

「言うじゃない」


 ノエルもわたしも自信満々だ。


「次に勝負の課題だ。土曜日の初戦はフルーツ。日曜日の二回目は生クリームを使った料理を出してほしい」


 ノエルたちは菓子職人らしいので、課題はどちらも彼女たちにはお手の物であろう。

 だがこっちにもフルーツといえばトスカーナ自慢のいちご大福パンがあるし、パンにも生クリームは取り合わせやすい食材だ。

 双方とも慣れた題材と考えれば条件は五分だろうか。


「三回戦の課題は日曜の時点で決着がつかなかったら、改めて通達する。それで良いか? テメーら」

「かしこまりました」

「同じく」

「それじゃあ勝負は明後日だ。今日のところは出直してこい、キョーダイ」

「わかりました。帰るぞノエル」


 勝負のルールを通達し終えたところでノエルたちに帰るように促すモトベさん。

 彼の言いつけに従うロックは妹の手を引くとまっすぐ去っていく。

 彼らが居なくなったところで家の中に招かれたわたしたちは、改めて今回の経緯について彼に説明を求めた。


「気づいたのは昨日の夜、兄ちゃんが首を縦に振ったあとだ。あの後、さっそく車屋のゴーキに連絡したら、もう例の車はあいつらが持っていった後だって言うんだ。俺っちも流石に驚いて問い正したが、あいつらは勝手に俺っちの代理だって話したそうだぜ」

「それは良くないね。いくら弟子でも礼儀に反する」

「そうだな」


 お茶をすすりながらヨハネに同意するモトベさんの目はどこか訳ありそうなもの悲しさを纏う。

 あの二人は例の車が「モトベさんにとって思い入れの強い車種」だと言っていたので、弟子の暴走は自分にも責任があると感じているのだろう。


「ま、まあ……事情はわかったんだし、今度の勝負に勝てば良いじゃない。流石にモトベさんが仕切る勝負の結果を反故にすることはないでしょうし」

「お! 随分と自信満々じゃねえか」

「ふっふん!」


 本当は自信満々とは言い難いのだが、ヨハネの力量を信じているのもまた事実なのでわたしは胸を張った。

 そもそも面倒なことになったとはいえ本音を言えば例の車が手に入らなくても当初ヨハネが言っていた通りになるだけなのでわたしにはこだわりは無い。

 だから思い返せば今回の勝負を軽く見ていたのはぐうの音も出ない事実。

 それがわたしの足を引っ張ることになるなんて、このときのわたしは想像もしていなかった。


「ヨハネだったら何が相手でも負けないんだから」

「そこまで言われたら僕も頑張らないと」

「おうおう。お熱いねお二人さん」


 モトベさんに茶化されたわたしたちは顔を赤くしたまま彼の家を出た。

 牽引する外のヨハネに当たる風と移動にかかる十数分の時間が無かったならば、あのままわたしはどうしていたのだろう。

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