車がほしいよ
わたしたちが移動式パン屋「トスカーナ」を開店してから三ヶ月が経過した。
売上も順調に伸びてきて常連客も付き、日々の暮らしはそれなりに安定を持ち始めている。
こうなるとそろそろジェットブーツで移動するという今のやり方を見直したいと思うのは毎週のヨハネの重労働ぶりを思えば当然というやつか。
だけどヨハネは頑なに「それ以外のことにお金を使おう」と拒否していた。
まあ未来のわたしの横にいる彼に言わせれば「若気の至り」らしいのだが。
「さすがにこのままではこれ以上は持っていくパンも増やせないし、買い出しのことも考えたら車を買ったほうが良いんじゃないかな」
「その話は前にも断ったじゃないか。車を買うんだったら一括で払えるだけの現金が溜まってからにしようって」
「そりゃあヨハネの言い分もわかるわよ。でも先行投資だって必要じゃない。今の商売だと一回の営業で持ち運べるのは最大百八十個。飲み物は別にして、全部売れても粗利は一五〇〇〇ルートほど。ヨハネが言う目標の三百万ルートまでは仮に経費を切り詰めて売上は毎回完売だとしてもー年以上かかるわけじゃない。
だけど車があれば、途中でヨハネがここに戻ればパンを追加で焼くことができる。それに午後でも焼きたてのパンが出せるから売上も上がるって算段よ」
「だけどいくらモトベさんが立て替えてくれるとはいえ借金してまで車を用意するのはリスクもある。だったら今のやり方でこのまま来年まで頑張って、余裕ができてからでも良いじゃないかな」
「んもー。ヨハネの意気地なし」
「それは心外だね。僕は慎重なだけさ」
「本当かしら?」
「むしろキミの方こそ今回は無鉄砲過ぎるように思うよ。出会ったばかりの頃はもっと臆病だったじゃないか」
「あれはこの世界に慣れてなかったのもあるし……」
「とにかく、僕としてはこの意見には反対だ。店長がアマネなのは尊重したいが、それでも今は焦っちゃダメだよ」
「ヨハネのケチ」
「無駄遣いをするのは良くないってだけさ」
このように平行線をたどるのはここ最近は毎日のことだ。
結局話がまとまらないままヨハネの否定が採用される結果が続く。
貯金二十万ほどなわたしたちに中古価格百万で出物の車を紹介してくれたモトベさんが言うには「来週までに決めてくれないと他に買い手がつく」そうだ。
そろそろヨハネの首を縦に振らせてあげたい。
車があれば彼も楽ができるし、何よりデートをするのにもカーゴを引いて回るのでは格好がつかない。
わたしはそんな甘い考えで車を欲しがっていた。




