これまでのおはなし
ここは島国ジャポネにあるバーツクという地方都市。
毎週土日になると、この公園には二軒の屋台が並んでいる。
片方は十数年の歴史がある老舗の生菓子屋さん「モトベガレット」。
そしてもう片方が開店から三ヶ月ほどの新参パン屋「トスカーナ」。
わたしこと天音ミレッタはこの店の店長さんである。
店長と言ってもわたしはパン作りは未熟な見習いであり、パン焼きは主に相棒である青年ヨハネのお仕事。
一日に持ち込むパンの数は試食用も含めて一八〇個、これは一度に焼ける数の三回分。
売れ行きは好調なのでもう少しパンを持ち込める数を増やしたいが、移動販売という制約上どうしても限度があるのが悩みどころだ。
もう少しお金があればわたしたちにもできる事が増えるだろうにとわたしは悶々と考えていた。
ちなみにわたしは異世界から来た異邦人と呼ばれる人種なので、いずれは元の世界に帰りたいとは思う。
だけどこっちの世界に来た方法もよく覚えていないので、実際のところ半ば諦めている。
そりゃあ両親や親友にはちゃんと挨拶したいし、発売前だった本の続きも気になっているよ。
だけどそれよりも彼が一緒ならば、わたしはこの世界に骨を埋めても良いと考えていた。
出会ってからまだ日も浅く彼の抱えている秘密も打ち明けられていないけれど、それでもわたしは既に彼に恋していたのだから。




